この記事の要点
舞台は明暗差が大きく、オート露出のままだと暗転のたびに明るさが揺れます 。ゲネプロで一番明るい場面に合わせて絞りを決め、本番は固定して撮り切るのが基本です。
カメラは引きの固定と寄りの二台 が現実的な最小構成です。引きは幕が下りるまで止めず、寄りで表情を撮り、音声はカメラ任せにせず調整卓から別録りします。
著作権法38条1項が免除するのは「上演」までで、録画(複製)は含まれません 。入場無料の公演でも、台本を録画するには脚本家の許諾が別に必要です。
JASRAC管理の内国曲を非営利・無償のDVDに入れる場合、基本使用料は1分単価400円、複製使用料は50枚までなら1分単価110円 で計算します。
販売すると音楽の基本使用料は1分単価800円に上がり 、台本・出演者・劇場それぞれの条件も配布のときとは別に確認が要ります。
式や イベントの 映像を、 配れる ディスクに。
1枚から 作れます。 同じ 内容の 追加は 1枚1,000円 (税抜)です。
1枚1,500円(税抜)から・ 1枚から注文できます
千秋楽が終わって、記録映像のデータだけが誰かのハードディスクに残っている。出演者からは「あれ、もらえますか」と聞かれている。制作担当が公演のたびに経験することです。ところが実際に配ろうとすると、台本の権利はどうなっているのか、上演で流した曲はそのまま入れていいのか、そもそも撮った映像が暗すぎて顔が見えない、という問題が次々に出てきます。
この記事は、小劇団や市民劇団の制作担当が、撮影の手配から出演者への配布までを順番どおりに進められるようにまとめたものです。舞台照明の下でカメラをどう設定するか、二台体制をどう組むか、上演台本と音楽の許諾は誰に何を取るのか、DVDにするときは何枚どう作るのか。権利まわりは著作権法の条文とJASRACが公開している使用料の計算方法から、実際の金額まで含めて確認しています。
先に結論だけ言っておくと、いちばん取り返しがつかないのは「撮ってから権利を考える」ことです。撮影の許諾は稽古期間中に取れますが、公演が終わってからでは相手も判断しづらくなります。順番を守るだけで、あとの作業はかなり楽になります。
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舞台撮影の露出はゲネプロで決めて固定する|オートのままだと暗転のたびに顔の明るさが揺れる カメラは引き固定+寄りの二台|引きは幕が下りるまで止めない 上演許可と録画許可は別|著作権法38条1項が免除するのは「上演」まで 音楽はJASRACの非商用複製区分|内国曲は基本400円+複製110円(1分・50枚まで) 出演者・スタッフへの配布は千秋楽から逆算する|人数分を1枚単位で作る 販売するなら台本・音楽・出演者・劇場の4か所を確認|音楽の単価は基本800円に上がる 記録は次の公演の資料になる|客席の見え方と、5年後に再生できるかの両方を残す よくある質問 撮った動画は、1枚1,500円(税抜)からDVD・ブルーレイにできます。料金を見る
舞台撮影の露出はゲネプロで決めて固定する|オートのままだと暗転のたびに顔の明るさが揺れる
舞台の記録映像が使いものにならなくなる原因の大半は、権利でも機材でもなく露出です。舞台照明はピンスポットの当たった顔と、その背後の暗い袖とで明るさが極端に違います。カメラの自動露出は画面全体の平均で判断するので、暗い背景の影響で顔を明るくしようとし、結果として主役の顔が白く飛びます。暗転が入るたびに絞りが開いて、明転した瞬間にまた締まる。この上下動が、素人撮影の記録映像を「見ていられない」ものにしています。
対処はひとつで、オートを全部切ることです。露出(アイリス)、ゲイン/ISO、ホワイトバランス、フォーカス、この四つを手動固定します。そのうえで、ゲネプロを使って基準を決めます。
ゲネプロでやっておく三つの確認
いちばん明るい場面といちばん暗い場面を実際に撮る。 フィナーレの全灯と、暗転明けのピンスポ一灯。この二つを同じ設定で撮って再生し、全灯で顔が飛ばない絞りを探します。暗い場面はそのまま暗く落ちて構いません。舞台は暗い場面が暗く写るのが正しい状態です。
ゼブラを出して顔で判断する。 ゼブラ表示を95%前後に設定し、主役の顔にゼブラが出ない位置で絞りを固定します。衣装の白や照明そのものにゼブラが出るのは許容範囲です。
シャッター速度を変えてちらつきを確認する。 近年の舞台照明はLEDが主流で、調光にPWM(点滅の幅で明るさを変える方式)が使われていると、映像に横縞や明滅が出ることがあります。30p/60i収録なら1/60、24p/25pなら1/50を基準に、縞が出たら1/100や1/120も試します。電源周波数は東日本50Hz・西日本60Hzですが、LED調光の点滅周波数はこれと一致しないことも多いので、理屈で決めずに実際に撮って目で確かめるのが確実です。
ホワイトバランスも固定します。舞台照明は場面ごとに色が変わるのが演出なので、オートにするとカメラがそれを「間違い」とみなして補正し、演出意図の青や赤が消えます。3200K前後から始めて、ゲネの映像を見ながら決め打ちしてください。
オートに任せず、ゲネプロで決めた設定のまま本番を撮り切る
音声も同じ発想です。カメラの内蔵マイクには客席の咳や衣擦れが入り、舞台上のセリフは遠くなります。可能なら音響の調整卓からライン出力を分けてもらい、別のレコーダーで録ります。それだけだと客席の空気(笑いや拍手)が入らないので、客席前方にステレオマイクを立てて後でミックスするのが定番です。収録開始後に一度カメラの前で手を叩いておくと、あとで音と映像を合わせる目印になります。
カメラは引き固定+寄りの二台|引きは幕が下りるまで止めない
一台で撮ると、寄ったときに舞台の反対側で起きていることが記録から消えます。かといって引きだけだと、誰が喋っているのか分からない映像になります。現実的な最小構成は二台です。
役割をはっきり分けます。一台目は引きの固定 で、舞台全体が常に画面に入る画角に決めて、開演から幕が下りるまで一度も止めません。パンもズームもしません。これが記録の本体であり、同時に予備です。二台目の操作を誰かが失敗しても、引きが回り続けていれば公演の記録としては成立します。二台目は寄り で、セリフを言っている人物を追い、表情や手元を撮ります。
設置場所は劇場との交渉になります。引きは客席の最後列中央か、機材用の雛壇が組めるならそこ。寄りは通路や上手・下手の袖から狙います。三脚は座席を占有するので、小屋によっては該当する座席を販売停止にする、あるいは制作側で買い取る扱いになります。仕込みの段階で劇場に確認し、当日の朝に揉めないようにしておきます。
本番前に取り除いておく事故要因
記録メディアの分割。 SDカードがFAT32でフォーマットされていると、1ファイル4GBで自動分割されます。分割自体は編集で繋げますが、繋ぎ目でコマが落ちる機種もあるため、exFATが使えるならそちらにします。
電源。 2時間以上の長回しはバッテリーでは持ちません。ACアダプタで給電し、ケーブルは客席の動線を跨がないよう養生します。二幕物なら幕間でカードとバッテリーを交換する段取りを、休憩時間の何分目にやるか決めておきます。
ゲネプロも本番と同じ設定で回す。 本番で機材トラブルが起きた場合、ゲネの映像が唯一の記録になります。撮り直しのきかない現場では、二回撮ることが最大の備えです。
収録フォーマットを事前に決める。 1080/30p程度で十分な記録になります。4Kで撮っておくと寄りの画を後からトリミングで作れますが、データ量と編集PCの負荷が跳ね上がるので、編集を誰がやるかで判断してください。
カーテンコールまで必ず入れます。出演者に配る記録映像で、いちばん繰り返し見られるのはカーテンコールと客席の反応です。本編が終わった瞬間に録画を止めてしまう失敗は驚くほど多いので、止めるタイミングは「客電が戻ってお客さんが立ち上がってから」と決めておくといいです。
上演許可と録画許可は別|著作権法38条1項が免除するのは「上演」まで
ここが公演記録でいちばん誤解されている点です。入場無料でギャラも出していない公演だから、権利処理はいらない、と考えている劇団が少なくありません。半分は当たっていますが、DVDを作る話になると当たらなくなります。
根拠条文を見ます。著作権法38条1項はこうです。「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」
免除されているのは「上演し、演奏し、上映し、又は口述する」ことだけで、複製という言葉がどこにも出てきません 。録画は複製にあたり、これは21条の複製権が働きます。つまり、非営利・無料・無報酬の三条件を満たした公演であっても、その舞台を録画してDVDにする行為は38条1項の対象外であり、脚本の著作者から別に許諾を得る必要があるということです。上演の許可をもらったからといって、録画と配布の許可まで含まれているとは限りません。
誰に何を取るのか
公演には著作者が複数います。まず脚本。既成作品なら、作者本人か、作者が委ねている窓口(出版社、劇作家の所属団体、著作権の相続人)に問い合わせます。上演許諾の書面に「記録映像の撮影可否」「配布の範囲」「販売の可否」がどう書かれているかを読み直してください。書かれていなければ、それは許可されていないと考えて追加で確認するのが安全です。
次に出演者です。91条1項は「実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する」と定めています。舞台に立っている俳優には、自分の演技を録画されない権利があります。ここで実務上重要なのが91条2項で、1項の権利者の許諾を得て映画の著作物として録画された実演 については、録音物への録音を除いて1項が適用されなくなります。撮影の時点できちんと許諾を取っていれば、そのあとDVDに複製するたびに一人ずつ承諾を取り直す構造にはならない、ということです。だからこそ、撮影前の一回が決定的な意味を持ちます。
そのほか、演出、美術、照明デザイン、衣裳、オリジナル楽曲の作曲者など、公演に創作的に関わった人の権利も関係しうるので、劇団外のスタッフを起用している場合は契約書の記録映像の扱いを確認しておきます。
上演の許可とは別に、録画と配布の許諾を相手ごとに取る
同意書は稽古初日に配る
実務としては、A4一枚の同意書を稽古の早い段階で全員に配り、ゲネまでに回収するのが最も行き違いが少ないやり方です。書くべき項目は次のとおりです。
本公演を記録目的で撮影すること
その映像をDVD/Blu-rayに複製し、出演者・スタッフ・関係者に配布すること
販売や配信を行う予定があるか(未定なら「別途あらためて同意を得る」と明記する)
稽古やオーディション資料など、内部利用の範囲
撮影を望まない場合の申し出先
未成年の出演者がいる場合は保護者の署名欄も設けます。「あとで揉めたときのため」ではなく、「あとで判断に迷わなくて済むため」の書類だと考えると作りやすいはずです。
音楽はJASRACの非商用複製区分|内国曲は基本400円+複製110円(1分・50枚まで)
上演中に流した音楽をそのまま記録映像に入れる場合、これも上演とは別の手続きになります。38条1項が演奏をカバーしていても、映像に固定する(複製する)行為は別だからです。
JASRACが管理している楽曲を、非営利の団体や個人が営利目的でなく無償で配るDVDに収録する場合は「非商用複製」という区分で申し込みます。JASRACが公開している条件は、教育機関・非営利団体・個人が複製の主体かつ申込者であり、非営利目的で製作すること、そして無償か、製作費の実費以外の対価を得ないことです。出演者から実費相当を集めて配る形は、この範囲に収まると読めます。
使用料は基本使用料と複製使用料の合計に消費税を加えた額です。
費目
計算方法(内国作品・非商用複製)
基本使用料
1分単価400円 × 収録時間(秒単位切り上げ)
複製使用料(製造数50個まで)
1分単価110円 × 収録時間(秒単位切り上げ)
複製使用料(製造数51個以上)
1分単価2.2円 × 収録時間(秒単位切り上げ)× 製造数
ここでいう収録時間は曲のフル尺ではなく、実際に映像に入っている長さです。転換で30秒だけ使った曲は30秒で計算します。試しに、3分の楽曲を5曲、30枚作るケースを当てはめると、基本使用料が400円×3分×5曲で6,000円、複製使用料が110円×3分×5曲で1,650円、合計7,650円に消費税相当額が加わる計算になります。枚数が50枚以下なら製造数が増えても複製使用料が変わらない設計なので、劇団の記録DVDのような規模では、想像しているより負担は軽いことが多いはずです。
JASRACの許諾だけでは足りない場合
注意点が二つあります。ひとつは外国曲 で、映像ソフトへの利用ではライブラリーミュージック等を除き、国内の音楽出版社が指定する額(指し値)を支払う仕組みになっています。金額が事前に読めないので、外国曲を使う予定があるなら早めに確認してください。
もうひとつ、これが実務でよく見落とされる点なのですが、市販CDやダウンロード音源をそのまま使った場合、JASRACの許諾とは別に著作隣接権(レコード会社などの音源製作者やアーティストの権利)の許諾が要ります 。JASRACが扱うのは作詞・作曲の権利であって、その録音物を使う権利ではありません。市販音源をそのまま使うと窓口が二つになり、しかもレコード会社側は少部数の記録映像への許諾に慎重なことが多いので、記録DVDを作る前提の公演なら、上演音楽の段階からオリジナル曲やロイヤリティフリー音源を選んでおくと後工程が一気に楽になります。編曲や替え歌をした場合は、作詞者・作曲者の意向確認も別途必要です。
なお、JASRACの管理状況は作品検索データベース「J-WID」で確認でき、映像ソフトの「複製」区分に管理表示があるかどうかが判断の起点になります。管理外の楽曲は、権利者に直接あたることになります。
出演者・スタッフへの配布は千秋楽から逆算する|人数分を1枚単位で作る
権利の整理が済んだら、あとは物を作る話です。ここでの判断は三つ、メディアをどれにするか、何枚作るか、いつまでに手元に必要か、です。
まずメディアです。判断基準は上演時間で決まります。DVD-Videoの記録容量は片面1層で4.7GB、片面2層で8.5GB、映像は720×480(約35万画素)です。2時間程度の公演なら1層に収まりますが、二幕物で2時間半を超えると画質を落とすか2枚組にするかの選択になります。Blu-rayは1層25GB・2層50GBで1920×1080(約207万画素)なので、長尺でも1枚に収まり、客席後方から撮った引きの画で誰が誰か判別できる度合いが違ってきます。舞台のような細かい動きと暗部の多い映像はもともと圧縮に厳しく、この差は思っているより出ます。詳しくはDVDとブルーレイの違い(画質・容量・互換性) で比較しているので、上演時間と照らして選んでください。
客席後方からの引きの画では、この差が顔の見分けやすさに出る
とはいえ、配る相手の再生環境という現実もあります。実家に送る出演者や、年配の関係者に渡す場合は、Blu-rayプレーヤーがない家庭も普通にあります。上演時間が短くて済むならDVD、長尺で画質を優先するならBlu-ray、両方の事情があるならDVDを基本にしてBlu-rayを希望者だけ、という配り方が現実的です。家庭用プレーヤーの互換性 の考え方を押さえておくと、渡したあとに「見られなかった」と言われる確率を下げられます。
枚数は「出演者+スタッフ+保管用」で数える
劇団の記録DVDは、たいてい20枚から40枚くらいの規模になります。出演者、演出・制作・音響・照明・舞台監督、当日スタッフ、そして劇団の保管用に2枚。この規模はプレス(工場での大量生産)には少なすぎ、かといって全部を自分たちで焼くには多すぎる、という中間帯です。書き込み代行を使えば1枚単位で必要数だけ作れます。1枚から頼める小ロット対応 のような形態なら、出演者が追加で家族の分を欲しいと言い出しても、あとから数枚だけ足すことができます。ディスクメーカーでは基本料金(DVD・1枚あたり)1,500円(税抜)から、1枚単位で受け付けています。
ここで一点、技術的に押さえておくべきことがあります。編集したMP4ファイルをそのままディスクに書き込んでも、家庭用のDVDプレーヤーでは再生できません。プレーヤーが読めるのはDVD-Video形式という決まった構造で、そこに変換して組み立てる作業をオーサリング と呼びます。代行に出す場合はこの工程が料金に含まれているかを確認してください(ディスクメーカーでは料金に含まれます)。
チャプターは幕と場で切る
記録映像は通しで見るより、特定の場面を探して見られることのほうが多いものです。幕・場ごとにチャプターを打っておくと、稽古の振り返りでも出演者の見返しでも実用性が段違いになります。カーテンコールは独立したチャプターにしておくと喜ばれます。メニュー画面に公演タイトルと上演日、劇場名を入れておけば、それ自体が記録になります。
盤面にもレーベル印刷で公演タイトル・上演日・劇場名を入れ、ケースの背表紙にも同じ情報を印刷しておくと、劇団の棚に何本も並んだときに背だけで判別できます。制作担当が数年後に「あの公演の映像どこ」と探す場面を想像すると、この手間は確実に元が取れます。
納期は千秋楽ではなく打ち上げから逆算する
配布のタイミングとして現実的なのは、打ち上げの席か、バラシから数日以内です。解散してしまうと全員に渡す機会がなくなり、郵送の手間と送料が発生します。逆算すると、撮影から編集完了までに何日かかるかがボトルネックになります。編集を担当する人のスケジュールを先に押さえてください。
入稿は編集済みのデータをダウンロードできる共有URLで渡す形が一般的です。ギガファイル便、Google Drive、Dropbox、OneDrive、WeTransfer、firestorage などが使えます。舞台の記録映像は容量が大きくなりがちなので、アップロードにかかる時間も日程に織り込んでおいてください。ディスクメーカーの納期は通常便のほか、お急ぎ(+1,500円、平日15時までの注文・入稿で翌々日までに発送)、特急(+3,000円、平日15時までの注文・入稿で翌日発送)、当日店舗お渡し(+3,500円、平日12時までの注文・入稿、大阪市北区の店舗で受け取り)が選べます。打ち上げの日程が動かせないなら、こうした選択肢を前提に編集の締切を引くのが現実的です。
販売するなら台本・音楽・出演者・劇場の4か所を確認|音楽の単価は基本800円に上がる
「関係者に配る」から「お客さんに売る」に一歩進んだ瞬間、確認すべきことが増えます。無料配布のときに取った許諾は、販売までカバーしていないのが普通だからです。
台本。 上演許諾の書面に、記録映像の販売についての条項があるかを確認します。上演料とは別に、映像化・頒布に対する使用料が設定されているケースがあります。書かれていない場合は「触れていない=許可されていない」と読んで、あらためて許諾を取りに行くのが安全です。
音楽。 非商用複製の条件は「無償又は製作費の実費以外の対価を得ないこと」なので、利益を乗せて売った時点でこの区分から外れます。演劇の記録映像は、劇場で公開されていないドラマ・アニメなどと同じ「ドラマ・アニメのビデオグラム」の区分で扱われ、基本使用料は内国作品で1分単価800円になります。無償配布の400円のちょうど倍です。複製使用料は、映像全体に占める音楽の割合が60%までなら1分単価1.8円以上、60%を超えるなら2円以上を製造数に掛ける計算で、税抜小売価格の4.5%を基準にした単価がこれを上回る場合はそちらが適用されます。要するに、売るなら音楽コストは確実に上がります。
出演者。 撮影時の同意書に販売が含まれていなければ、販売についての合意を取り直します。売上をどう扱うか(劇団の運営費に充てるのか、出演者に分配するのか)を先に決めて、書面に書いてから合意を求めるほうが話が早く進みます。
劇場。 小屋の使用規約に、撮影した映像の商業利用を制限する条項が入っていることがあります。仕込みの前に確認しておくべき項目です。
枚数が数百枚を超えるならプレスも検討する
販売を前提にすると枚数の桁が変わることがあります。1枚ずつ書き込む方式(コピー)と、工場で原盤から量産する方式(プレス)では、単価が逆転する分岐点があります。プレスとコピーの違い で採算の考え方を整理していますが、劇団の記録映像で数百枚に達するのは大きな公演に限られるので、多くの場合は必要数だけ書き込む方式が合理的です。売れ残りの在庫を抱えないという点でも、少部数を追加で作れる体制のほうが劇団の実情に合います。
通信販売で不特定多数に売るなら、特定商取引法に基づく表示(販売者名、所在地、連絡先、価格、送料、引渡し時期、返品条件など)が必要になります。劇団名義で通販ページを作る場合は、この表示の準備も日程に入れておいてください。
配るときの許諾は販売までは含まない。4か所に加えて通販の表示も
記録は次の公演の資料になる|客席の見え方と、5年後に再生できるかの両方を残す
記録映像の価値は、思い出としてよりも資料としてのほうが長く続きます。演出席から見ていたときには気づかなかったことが、客席後方の固定カメラの画には全部写っています。
次の公演に向けて具体的に分かるのは、たとえばこういうものです。暗転が体感より長く感じられる箇所。セリフの語尾が客席後方まで届いていない場面。上手に寄りすぎて下手の客席から見えない立ち位置。転換音楽が本編より明らかに大きい箇所。客席が笑った位置と、笑うだろうと想定していたのに笑わなかった位置。最後のひとつは、記録映像でしか手に入らないデータです。稽古場で「ここはウケるはず」と話し合っていた箇所が実際にはどうだったか、映像の音声トラックが正確に記録しています。
次回作の稽古初日に前作の記録を全員で見る、という運用を続けている劇団は少なくありません。オーディション用の資料や、助成金申請の添付資料としても使えます。ただしこの用途で外部に出すときは、同意書で内部利用の範囲をどう定めたかを確認してから使ってください。
ディスクだけを保存先にしない
最後に保存の話をします。DVDやBlu-rayは受け渡しと閲覧には便利ですが、それだけを唯一の保存先にするのは避けたほうがいいです。ディスクは物理的に傷つきますし、ケースに入れずに重ねて置けば読み取り面が擦れます。
実務的には、編集前の元データ(カメラから吸い出したファイル)と編集済みのマスターデータを別々に保存し、そのうえで配布用のディスクを作る、という三層構造にしておくのが安全です。保存先も一箇所にまとめず、劇団のPC・外付けHDD・クラウドのように分散させます。この考え方は3-2-1バックアップの実践 で整理しているとおりで、データを3つ持ち、2種類の媒体に置き、1つは別の場所に、というのが基本形です。劇団の場合、機材と一緒に稽古場に全部置いていると、そこで何かあったときに丸ごと失われます。
ディスクは立てて保管し、直射日光と高温多湿を避けるだけでも寿命は変わります。劇団の資料棚に、公演ごとにケース入りで並べておく。背表紙に上演日が印刷されていれば、10年後に「あの年の公演」を探す人が困りません。記録を作るところまでは多くの劇団がやっていて、探せる形で残すところまでやっている劇団は意外と少ない、というのが実感です。
よくある質問
Q. 入場無料の公演でも、上演台本を録画するのに許可は必要ですか A. 必要です。著作権法38条1項は、非営利・無料・無報酬という条件を満たす場合に「公に上演し、演奏し、上映し、又は口述する」ことを認めていますが、条文に複製という言葉はありません。録画は複製にあたるため、21条の複製権が働きます。無料公演として上演の許可を得ていても、その舞台を録画してDVDにする行為は別の許諾が必要だと考えてください。上演許諾の書面に記録映像の扱いが書かれていない場合は、書かれていない=許可されていない、と読んで確認するのが安全です。
Q. 上演で使った市販CDの曲を、そのまま記録DVDに入れられますか A. 二つの許諾が要ります。ひとつは作詞・作曲の権利で、JASRAC管理曲なら映像ソフトの複製として申し込みます。もうひとつが著作隣接権で、その録音物を使う権利はレコード会社などの音源製作者が持っており、JASRACの許諾には含まれません。この二つ目が実務では通りにくく、少部数の記録映像への許諾に慎重な権利者もいます。記録DVDを作る前提の公演なら、上演音楽を選ぶ段階でオリジナル曲やロイヤリティフリー音源にしておくと、後工程が大幅に楽になります。
Q. 出演者20人に配る記録DVDで、音楽の使用料はいくらぐらいになりますか A. 非営利・無償配布でJASRAC管理の内国曲なら、基本使用料が1分単価400円×収録時間、複製使用料が製造数50枚までは1分単価110円×収録時間で、合計に消費税相当額が加わります。収録時間は曲のフル尺ではなく映像に実際に入っている長さです。3分の曲を5曲使って30枚作る場合、基本6,000円と複製1,650円で7,650円+税という計算になります。50枚以下なら枚数が増えても複製使用料は変わらない設計です。外国曲は音楽出版社の指し値になるため、別途確認が必要です。
Q. 公演時間が2時間半あります。DVD1枚に収まりますか A. 収めることは可能ですが、画質を落とす必要が出てきます。DVD-Videoは片面1層で4.7GB、映像は720×480です。2時間を超えると1枚に押し込むためにビットレートを下げることになり、舞台のような暗部と細かい動きの多い映像では圧縮の粗が目立ちやすくなります。選択肢は、片面2層(8.5GB)を使う、2枚組にして幕で分ける、Blu-ray(1層25GB・1920×1080)にする、の三つです。配る相手の再生環境も踏まえて選んでください。
Q. 編集したMP4をそのままDVDに焼けば、家のプレーヤーで見られますか A. 見られないことがほとんどです。家庭用DVDプレーヤーが再生できるのはDVD-Videoという決まった構造で、MP4ファイルをデータとして書き込んだだけのディスクは、対応していないプレーヤーでは読み込めません。動画をDVD-Video形式に変換して、メニューやチャプターを含む構造に組み立てる工程をオーサリングと呼びます。書き込み代行に出す場合は、この工程が料金に含まれているかを確認してください。ディスクメーカーでは料金に含まれています。
Q. 記録映像はYouTubeの限定公開で共有するほうが手軽ではありませんか A. 配るだけならそのとおりです。ただし公開範囲の管理が続く点、アカウントを持たない関係者に渡しにくい点、そして音楽が含まれる場合に自動検出で制限がかかる可能性がある点が違います。またプラットフォーム側の仕様変更やアカウントの状況によって、数年後に同じURLで見られる保証はありません。手元に残す前提の記録と、すぐ見せる手段は分けて考え、配布用のディスクとデータ保存を別に用意しておくほうが安全です。
Q. ゲネプロと本番、どちらを収録すべきですか A. 両方を同じ設定で回してください。本番は客席の反応や俳優の勢いが入る一方、機材トラブルや客の頭が入り込む事故が起きても撮り直しがききません。ゲネはその備えであり、同時に露出やシャッター速度を決めるためのテスト撮影にもなります。ゲネで一番明るい場面と一番暗い場面を撮って再生し、全灯で顔が飛ばない絞りを見つけてから本番に臨むと、失敗の確率が大きく下がります。
Q. 劇場での撮影に、事前の許可はいりますか A. 多くの小屋で必要です。三脚を立てる位置、客席の占有、通路への機材設置、電源の使用などが規約に関わります。三脚が座席をふさぐ場合、その席を販売停止にするか制作側で買い取る扱いになることもあります。さらに、撮影した映像を販売や配信に使うことを制限する条項が入っている劇場もあるため、仕込み前ではなく小屋を押さえる段階で使用規約を確認しておくと、当日の交渉が不要になります。