この記事の要点
5.1chは5本のフルレンジと120Hz以下のLFE という構成で、AC-3の規格ではLFEは120Hzでローパスされます。「.1」は本数ではなく帯域の狭さを指す表記です。
DVDの5.1chはドルビーデジタル448kbpsが上限 です。ブルーレイはリニアPCM・ドルビーデジタル・DTSが必須で、TrueHDなどのロスレスも任意コーデックとして載せられます。
ステレオ環境でも音は消えません 。デコーダーが規格で決められた係数で2chに畳むためで、5.1chトラック1本だけでもテレビのスピーカーから鳴ります。
センターは-3.0dB、-4.5dB、-6.0dBのいずれかで畳まれます 。セリフがL/Rの音楽や効果音と同じチャンネルに混ざることが、埋もれて聞こえる原因です。
DVDは音声トラックを8本まで持てます 。5.1chとは別に2ch専用ミックスを1本足せば、ステレオ環境での聞こえ方を制作側で決められます。
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スタジオで5.1chにミックスした作品を、ディスクにして人に渡す。ここで多くの制作者がつまずくのは「相手の家にサラウンドのスピーカーが5本ない」という現実です。試写室では完璧に鳴っていたのに、テレビの内蔵スピーカーで再生した人から「セリフが聞き取りにくい」と言われる。これは機材の故障でも入稿ミスでもなく、プレーヤーの中で規格どおりの処理が走った結果です。
DVDやブルーレイのプレーヤーは、5.1chの音声を2本のスピーカーで鳴らすときに「ダウンミックス」という決まった計算をします。そのため、スピーカーが2本でも音が消えることはありません。その計算式と係数は規格書に明記されていて、センターチャンネルは3.0dBから6.0dB下げてL/Rに混ぜる、と数値まで決まっています。つまりステレオ環境での聞こえ方は、偶然ではなく事前に予測できます。
2chに畳まれるとセリフが聞き取りにくくなるのも、この計算から説明できます。制作側で聞こえ方を決めたいときは、2ch専用のミックスを別のトラックとして併録する方法があります。数値はATSC A/52(AC-3の規格書)などの一次資料で確認したものだけを載せています。
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5.1chは5本のフルレンジと120Hz以下のLFE。「.1」は帯域が狭いという意味 DVDとブルーレイの違い|DVDの5.1chは448kbpsが上限、ブルーレイはロスレスも載せられる ステレオで再生すると音は消えるのか。プレーヤーが規格の係数で2chに畳んで出す ダウンミックスの中身|センターは-3.0/-4.5/-6.0dB、サラウンドは-3/-6dBまたはカット なぜセリフが聞こえにくくなるのか。センターが最大6dB下がり、音楽と同じチャンネルに混ざるから 2ch版を併録する|DVDは音声8本まで、2ch専用ミックスを1本足すのが確実 制作時に確認すること。チャンネル配列、LFEの帯域、2chでの実聴が最優先 よくある質問 撮った動画は、1枚1,500円(税抜)からDVD・ブルーレイにできます。料金を見る
5.1chは5本のフルレンジと120Hz以下のLFE。「.1」は帯域が狭いという意味
5.1chは、フロント左(L)、センター(C)、フロント右(R)、サラウンド左(Ls)、サラウンド右(Rs)の5本と、低域専用のLFE(Low Frequency Effects)を合わせた構成です。ドルビーデジタル(AC-3)の規格書では、この配置は「3/2モード」と呼ばれ、前方3本・後方2本という並びで定義されています。
誤解されやすいのが「.1」の意味です。これはスピーカーが0.1本という意味ではなく、LFEチャンネルの帯域が他のチャンネルの約10分の1しかないことを指した表記です。ATSC A/52はLFEを「帯域が120Hz未満に制限されたオプションの単一チャンネル」と定義し、エンコード時には120Hzでローパスフィルタをかけるべきだと記しています。規格書には「典型的なエンコーダーは8次の楕円フィルタでカットオフ120Hzに処理する」とまで書かれています。
「.1」は本数ではなく、LFEの帯域が他の約10分の1と狭いことを指す
LFEとサブウーファーは分けて考える
ここは制作時に混同しやすいところです。LFEは制作側が作るチャンネル で、サブウーファーは再生側にある装置 です。再生環境によっては、L/RやCの低域をベースマネジメント機能でサブウーファーに回すこともあり、その場合サブウーファーからはLFE以外の音も出ます。逆にサブウーファーを持たない環境では、LFEの内容は他のスピーカーに回されるか、そのまま出ないことがあります。
ATSC A/52は、理想的なダウンミックスではLFEをL/Rに対して+10dBの音圧で再生すべきだとしています。一方で、「このチャンネルを含めるかどうかは任意なので、実際にはどのような係数が使われる可能性もある」とも明記しています。つまりLFEに入れた音は、ステレオ環境では聞こえない前提で設計するのが安全 です。爆発音の迫力をLFEだけに頼ると、テレビのスピーカーでは何も起きていないように聞こえます。
スピーカーの角度は規格で決まっている
ITU-R BS.775が定める配置では、センターが0度、フロントL/Rが映画で±22.5度・音楽で±30度、サラウンドが±110度とされています。試写環境をこの角度に近づけておくと、2chダウンミックスとの差を判断しやすくなります。逆にサラウンドスピーカーを真横や真後ろに置いた環境でミックスすると、ダウンミックス時の印象がさらに変わります。
DVDとブルーレイの違い|DVDの5.1chは448kbpsが上限、ブルーレイはロスレスも載せられる
同じ5.1chでも、DVDに載せるのとブルーレイに載せるのとでは使えるコーデックと帯域がかなり違います。両者の違いはDVDとブルーレイの違い(画質・容量・互換性) で全体像を整理していますが、音声だけを取り出すと次のようになります。
DVD-Video
ブルーレイ(BD-ROM)
リニアPCM
48kHz/96kHz、16bit/24bit、2〜6ch、最大6,144kbps
必須コーデック
ドルビーデジタル(AC-3)
48kHz、1〜5.1ch、最大448kbps
必須コーデック(規格上の最大符号化レートは640kbps)
DTS
5.x/6.1chで754.5kbpsまたは1,509.75kbps
必須コーデック
ロスレス系
なし
Dolby TrueHD、DTS-HD Master Audioが任意コーデック
音声トラック数
最大8本
複数トラック可
DVDで5.1chを載せるならドルビーデジタルが現実的
DVD-Videoは映像と音声を合わせて最大10.08Mbpsという上限があります。ここにリニアPCMで5.1chを入れると、48kHz・16bit・6chで4,608kbpsを占有します(48,000×16×6)。残りは約5.4Mbpsで、これを映像に割り当てることになります。長尺の作品でこの帯域は苦しく、画質に影響します。
一方、ドルビーデジタル448kbpsなら音声の占有は0.45Mbps程度で、映像に9Mbps以上を回せます。DVDで5.1chを扱うなら、ドルビーデジタル448kbpsが実質的な標準 と考えてよいでしょう。DTSの1,509.75kbpsは音質面で有利ですが、その分だけ映像の帯域が削られる点と、DTS音声のみのディスクは再生側の条件が厳しくなる点を天秤にかける必要があります。
ブルーレイでは「ロスレス+互換用」の二段構え
ブルーレイの必須コーデックは、リニアPCM、ドルビーデジタル、DTSです。Dolby Digital Plus、Dolby TrueHD、DTS-HD Master Audio、DTS-HD High Resolution Audioなどは任意コーデックの扱いです。任意ということは、再生機側がデコードするとは限らないという意味です。
そのためTrueHDのトラックには、デコードできない機器のためにドルビーデジタルのトラックが併せて収録される設計になっています。DTS-HD Master Audioも、ロッシーなDTSコアの上にロスレス用の差分データを載せる構造で、コアだけを読める機器はコアを再生します。TrueHDはメタデータ込みで瞬時最大18Mbps、7.1ch・96kHz・24bitまたは5.1ch・192kHz・24bitまで扱えます。DTS-HD Master Audioは、瞬時最大24.5Mbpsまで扱えます。
ただし、ここまでの帯域を使えるのは、相手が対応機器を持っている場合だけです。受け取る人の環境が読めないなら、ブルーレイでもドルビーデジタル5.1chと2chの組み合わせのほうが結果的に破綻が少ない と考えられます。
ステレオで再生すると音は消えるのか。プレーヤーが規格の係数で2chに畳んで出す
「サラウンドのディスクをステレオのテレビで再生したら音が出ないのでは」という心配をよく聞きますが、そうはなりません。ATSC A/52は「再生システムのスピーカー数がエンコードされたチャンネル数と一致しない場面は多い。番組全体を再生するにはダウンミックスが必要である」と述べ、続けて「デコーダーが用いるべきダウンミックス係数を規定する」と書いています。つまり5.1chを2chに畳む処理は、プレーヤー側の親切機能ではなく規格の一部 です。
規格が係数まで固定している理由も明記されています。標準化されていれば「制作者はダウンミックス版がどう聞こえるかをモニターでき、すべてのリスナーに許容できる結果になるよう必要な調整ができる」ためです。制作側がダウンミックスを試聴して直すことは、規格が想定している作業だということになります。
どこでダウンミックスされるかは環境によって変わる
プレーヤーの出力設定を「PCM 2ch」にしている場合は、プレーヤー内蔵のデコーダーが畳んで出します
「ビットストリーム出力」にしていると、5.1chのまま接続先へ送られ、AVアンプやテレビ側のデコーダーが畳みます
テレビの内蔵スピーカーで鳴らす場合は、テレビ側の音声処理も加わります
パソコンのソフトで再生する場合は、OSのスピーカー構成設定に従って処理されます
同じディスクでも、この経路の違いでセンターの持ち上がり方やサラウンドの回り込み方が変わります。制作側が確認するなら、一番弱い環境、つまりテレビの内蔵スピーカーとノートパソコンとイヤホンの3つ で聴いておくのが実務的です。再生機ごとの相性については家庭用プレーヤーの互換性 で扱っている論点とも重なります。
LoRoとLtRtという2種類のダウンミックス
ATSC A/52は、2チャンネルへのダウンミックスとして2種類を用意すべきだとしています。ひとつはマトリクスサラウンドでエンコードされたステレオペアであるLtRt、もうひとつは通常のステレオ信号であるLoRoです。LtRtはドルビープロロジックのようなマトリクスデコーダーを通せばサラウンド成分を復元できる形式で、LoRoは素直な加算です。
規格には「LtRtのダウンミックスをモノラルに合成すると、サラウンド情報は失われる」「モノラル信号が必要な場合はLoRoが望ましい」と明記されています。モノラルスピーカーしかない機器での再生も想定するなら、LoRo側を基準に確認しておくと安全です。
モノラルの機器での再生も考えるならLoRoを基準に確かめる。下げ幅はオーバーフローを防ぐスケールダウン
ダウンミックスの中身|センターは-3.0/-4.5/-6.0dB、サラウンドは-3/-6dBまたはカット
ATSC A/52が定める3/2(5.1ch)からのダウンミックス式は、オーバーフロー防止のスケーリングをかける前の形で次のとおりです。
LoRo(通常のステレオ)
Lo = 1.0 × L + clev × C + slev × Ls
Ro = 1.0 × R + clev × C + slev × Rs
LtRt(マトリクスサラウンド)
Lt = 1.0 × L + 0.707 × C − 0.707 × Ls − 0.707 × Rs
Rt = 1.0 × R + 0.707 × C + 0.707 × Ls + 0.707 × Rs
LtRtでサラウンド成分の符号がLt側だけマイナスになっているのが、マトリクスエンコードの仕組みです。この位相差があるからこそ、対応デコーダーがサラウンド成分を取り出せます。逆に言えば、Lt+Rtとして単純加算するとサラウンドは打ち消し合って消えます。
clevとslevの実際の値
LoRo式のclev(センターのミックスレベル)とslev(サラウンドのミックスレベル)は、ビットストリーム内のcmixlev・surmixlevというメタデータで指定されます。取り得る値は規格で次のように決まっています。
パラメータ
選べる値
備考
clev(センター)
0.707(−3.0dB)/0.595(−4.5dB)/0.500(−6.0dB)
未指定時は中間値の−4.5dBを使う
slev(サラウンド)
0.707(−3dB)/0.500(−6dB)/0(混ぜない)
未指定時は−6dBを使う
注目すべきはslevに0という選択肢があることです。サラウンドチャンネルの内容が、2ch環境ではまるごと落ちる設定が規格上あり得ます 。サラウンドにしか入っていない音(後方から聞こえるナレーション、拍手、環境音)は、その場合だけでなく−6dBの設定でもかなり後退します。
全体の音量が下がるのはスケーリングのため
ダウンミックスで音が小さくなるのは仕様です。全チャンネルが同時にフルスケールになったときに演算がオーバーフローしないよう、係数全体を下げる必要があるためです。規格には具体的な数字が書かれています。
LoRoでは係数の和が 1 + 0.707 + 0.707 = 2.414 になるため、全係数に 1/2.414 = 0.4143(−7.65dBのスケールダウン)を掛ける
LtRtでは和が 1 + 0.707 + 0.707 + 0.707 = 3.121 になるため、1/3.121 = 0.3204(−9.89dBのスケールダウン)を掛ける
さらにモノラルへ落とす場合は、LoRo係数にもう1/2を掛ける
この結果、5.1chトラックをステレオで聴くと、同じ素材の2chミックスより明らかに小さく聞こえます。「サラウンド版のディスクだけ音量を上げないと聞こえない」という感想は、この処理が理由です。
LFEは落ちる前提で設計する
規格はLFEのダウンミックスを任意としています。含めるかどうかも係数もデコーダー任せです。低域の芯をLFEだけに置いた作りにすると、ステレオ環境では中身が薄くなります。作品として成立させたい低域は、LFEだけに任せずL/Rにも入れておく のが安全です。
なぜセリフが聞こえにくくなるのか。センターが最大6dB下がり、音楽と同じチャンネルに混ざるから
ダウンミックスが起きると、センターは規格の係数で−3.0dBから−6.0dB下げられたうえで、音楽と効果音がすでに入っているL/Rに加算されます。セリフだけが下がり、伴奏はそのままの倍率で残る わけですから、相対的なS/N比は悪化します。5.1chの試写では気にならなかったバランスが、2chで急に聞き取りにくくなる仕組みはここにあります。
5.1chでセリフをセンターに置くのは、画面中央から声が聞こえる定位を作るためであり、同時に音楽や効果音が入るL/Rから物理的に分離できるからでもあります。センターだけが独立したスピーカーから出ている限り、セリフはマスキングされにくく、少し音量が控えめでも明瞭に聞こえます。ダウンミックスでは、この分離が消えます。
セリフだけが下がり、伴奏はそのまま残る。2ch専用ミックスの併録がいちばん確実
制作側で打てる手
センターのミックスレベル(cmixlev)を−3.0dB寄りに設定して、ダウンミックス時のセリフの落ち幅を抑える
5.1chミックスの段階で、センターに対する音楽・効果音の相対レベルを控えめにしておく
セリフの帯域(おおむね1kHz〜4kHz)で音楽側を軽く整理し、加算されたときの衝突を減らす
2ch専用ミックスを作り、そちらでバランスを取り直す
dialnormを実際のミックスと合わせておく
ドルビーデジタルには、dialnormという5ビットのメタデータがあります。ATSC A/52によれば、これは「平均的な対話レベルがデジタルフルスケールからどれだけ下にあるか」を示す値で、1から31が−1dBから−31dBに対応します。デコーダー自身が使わない場合でも、再生機器の別の部分がこの値を使って再生レベルを調整する、と規格は定めています。
この値がミックスの実態とずれていると、同じディスク内で他のトラックと音量差が出たり、テレビの音量設定に対して意図と違う大きさで再生されたりします。オーサリング時にエンコーダーが自動で入れる値をそのまま通すことも多いのですが、セリフ中心の作品ではdialnormを測定値に合わせておく と、視聴者側での音量操作が減ります。
目安として使えるラウドネス基準
ディスクの規格そのものにはラウドネス基準はありません。ただし測定の枠組みとしてITU-R BS.1770があり、放送分野ではEBU R 128が目標値−23 LUFS(許容偏差±0.5 LU)、制作時の最大トゥルーピーク−1 dBTPを定めています。配信サービスでは−14 LUFS前後を採用しているところが多いという状況です。ディスク向けにそのまま適用する義務はありませんが、「何dBか」ではなく「何LUFSか」で自分のミックスを把握しておくと、2ch版と5.1ch版の体感音量を揃えやすくなります 。
2ch版を併録する|DVDは音声8本まで、2ch専用ミックスを1本足すのが確実
プレーヤー任せのダウンミックスは規格どおりに動きますが、係数が固定されている以上、制作側が細かく結果をコントロールすることはできません。ステレオ環境での聞こえ方まで自分で決めたいなら、答えはひとつです。5.1chとは別に、2ch専用にミックスした音声トラックをもう1本入れる ことです。
DVD-Videoは1つの映像に対して最大8本の音声トラックを持てます。多言語や解説音声のための仕組みですが、ここに「5.1ch版」と「2ch版」を並べて入れるのは自然な使い方です。ブルーレイでも複数の音声トラックを持たせられます。
帯域の見積もり
構成
おおよその占有
DVDでの扱いやすさ
ドルビーデジタル 5.1ch(448kbps)
0.45Mbps
映像に9Mbps以上を残せる
ドルビーデジタル 2ch(192〜256kbps)
0.19〜0.26Mbps
5.1chと併録しても余裕がある
リニアPCM 2ch(48kHz/16bit)
1.536Mbps
音質重視ならこちら。合計10.08Mbpsの上限内で調整
リニアPCM 5.1ch(48kHz/16bit)
4.608Mbps
映像の帯域を大きく削る
ドルビーデジタル5.1ch(448kbps)とドルビーデジタル2ch(192kbps)を併録しても、音声全体で0.65Mbps程度です。映像には十分な帯域が残ります。音質にこだわるなら2ch側をリニアPCMにしても、合計は約2Mbpsで収まります。
どちらを1本目に置くか
音声トラックの並び順は、そのまま「何もしなければ再生される音」を決めます。渡す相手がホームシアターを組んでいるとは限らない配布物なら、2ch版を1本目、5.1ch版を2本目にする ほうがトラブルが減ります。逆に上映用や納品用で環境が確定しているなら5.1chを先頭にします。
何もしなければ1本目の音が鳴る。環境が読めない配布物は2ch版を先頭に
音声トラックの並び順、既定トラックの指定、メニューからの音声切り替えは、いずれもオーサリングの工程で決める項目です。動画ファイルをそのまま書き込んでもディスクとして再生できない理由や、この工程で何が組み立てられているのかはDVDオーサリングとは(焼くだけでは再生できない理由) で解説しています。当社では、オーサリングを基本料金(DVD・1枚あたり)1,500円(税抜)からの料金に含めて行っています。音声を切り替えられるディスクを当社に頼めるかは、相談・問い合わせフォームで確かめてください。
2ch専用ミックスで直すべきこと
セリフを、5.1ch版のセンターより相対的に前に出す
サラウンドにしか入っていなかった音(後方の環境音、観客の反応など)をL/Rに配置し直す
LFEに置いていた低域を、L/Rの低域として鳴るように入れ直す
ダウンミックスによる−7.65dBのスケールダウンがない分、全体レベルを2ch版として適正に取り直す
自動ダウンミックスと2ch専用ミックスは、名前が似ていても違うものです。前者は規格の固定係数による機械的な加算、後者は人が判断したバランスです。
制作時に確認すること。チャンネル配列、LFEの帯域、2chでの実聴が最優先
入稿前に確認しておくと失敗が減る項目を、優先度の高い順に並べます。
1. チャンネルの並び順を明示する
マルチチャンネル音声で最も多い失敗が、チャンネル配列の取り違えです。現場では、L・R・C・LFE・Ls・Rsの順(SMPTE順)と、L・R・Ls・Rs・C・LFEの順(フィルム順)が併存しています。取り違えると、センターとサラウンドが入れ替わったり、セリフがLFEに入って120Hzのローパスで消えたりします。6本のモノラルWAVに分けて、ファイル名にL/R/C/LFE/Ls/Rsを書いて渡す のが、誤解の余地がなく確実です。1本のマルチチャンネルWAVで渡す場合は、並び順を文書で添えます。
2. サンプルレートを48kHzに揃える
DVD-Videoのドルビーデジタルは48kHzのみ、リニアPCMは48kHzまたは96kHzです。音楽制作でよく使う44.1kHzのままだと変換が発生します。書き出しの段階で48kHzにしておくと、変換に伴う劣化の心配がなくなります。
3. LFEには120Hz以下だけを入れる
規格上、LFEは120Hz未満に制限されたチャンネルです。エンコード時に120Hzでローパスされるため、それより上の帯域を入れても消えます。書き出す前に、LFEトラックにローパスをかけて確認しておきます。
4. 2chダウンミックスを実際に鳴らして聴く
編集ソフトのダウンミックスモニター機能でも構いませんが、可能ならテスト盤を1枚焼いて、テレビの内蔵スピーカー、ノートパソコン、イヤホンの3系統で聴きます。セリフが聞き取れるか、低域が消えていないか、サラウンドにしかない情報が失われていないか。この3点だけでも確認しておくと、納品後の指摘がほぼなくなります。1枚から注文できるので、テスト盤を1枚だけ作ってから本番の枚数に進む進め方も取れます。
5. 映像と音声の尺・同期を確認する
マルチチャンネルを別ファイルで書き出すと、頭のフレームがずれることがあります。各チャンネルのサンプル数が一致しているか、映像の総尺と一致しているかを数値で確認します。
いちばん多い事故はチャンネル配列の取り違え。セリフが消えることもある
6. 入稿するファイル形式を決める
マルチチャンネル音声の入稿は、映像に埋め込んだ状態(MOVやMP4のマルチチャンネルトラック、あるいはMXF)で渡す方法と、映像と音声を分けて渡す方法があります。分けて渡すほうが、チャンネル配列の確認もレベルの調整もしやすくなります。MXFや、映像と音声を分けたファイルで当社に入稿できるかは、相談・問い合わせフォームで確かめてください。コンテナと中身の関係については動画ファイル形式の基礎(MP4/MOV/AVI) で整理しています。
7. 入稿方法と納期を逆算する
マルチチャンネルのWAVは容量が大きくなります。48kHz・24bitの6chなら1分あたり約50MBで、90分の作品では音声だけで4GB台に達します。当社では、ギガファイル便のURLでの入稿を受け付けています。ギガファイル便、Google ドライブ、Dropbox、OneDrive、WeTransfer、firestorageなどが使えます。ギガファイル便での具体的な手順はギガファイル便での入稿ガイド にまとめています。
納期は通常便のほか、お急ぎお届け(+1,500円、平日15時までの注文・入稿で翌々日までに発送)と特急お届け(+3,000円、平日15時までの注文・入稿で翌日発送)から選べます。当日店舗お渡し(+3,500円、平日12時までの注文・入稿、大阪市北区の店舗で受け取り)もあります。音声の確認に時間を使いたい場合は、テスト盤を通常便、本番を特急お届けという組み合わせも可能です。盤面へのレーベル印刷、ケースと背表紙の印刷、メニュー画面の作成、チャプター分けにも対応しています。
よくある質問
Q. 5.1chのDVDは、ステレオのテレビでも再生できますか? A. 再生できます。ドルビーデジタルの規格書(ATSC A/52)は、スピーカー数がチャンネル数と一致しない場合に備えてダウンミックスを規定しており、デコーダーが用いるべき係数まで定めています。5.1chの音声トラックが1本だけのディスクでも、テレビの2つのスピーカーから音は出ます。ただし、センターは3.0dBから6.0dB下げてL/Rに加算され、全体もオーバーフロー防止のために下げられるため、聞こえ方は5.1ch環境とは変わります。
Q. ダウンミックスすると、なぜ全体の音量が小さくなるのですか? A. 全チャンネルが同時にフルスケールになったときに演算がオーバーフローしないよう、係数全体を下げているためです。ATSC A/52では、通常のステレオ(LoRo)の場合、係数の和が2.414になるため全係数に1/2.414=0.4143を掛けるとされ、これは7.65dBのスケールダウンにあたります。マトリクスサラウンド(LtRt)では和が3.121で、1/3.121=0.3204、9.89dBのスケールダウンです。さらにモノラルにする場合はもう1/2が掛かります。
Q. 5.1chと2ch、両方の音声を1枚のディスクに入れられますか? A. 入れられます。DVD-Videoは1つの映像に対して最大8本の音声トラックを持てるため、5.1ch版と2ch版を並べて収録できます。ドルビーデジタル5.1ch(448kbps)と2ch(192kbps)の組み合わせなら音声全体で0.65Mbps程度で、映像の帯域をほとんど圧迫しません。何もしなければ再生されるのは1本目のトラックなので、配布先の環境が読めない場合は2ch版を1本目に置いておくとトラブルが減ります。
Q. セリフが聞き取りにくいと言われました。何を直せばいいですか? A. 5.1chでセンターに置いたセリフが、ダウンミックス時に3.0dBから6.0dB下げられてL/Rに加算されることが原因です。L/Rには音楽や効果音がそのままの倍率で残るため、相対的にセリフが埋もれます。対処としては、センターのミックスレベル(cmixlev)を−3.0dB寄りに設定する、5.1chミックス段階で音楽の相対レベルを控えめにする、1kHzから4kHzの帯域で音楽側を整理する、そして最も確実なのは2ch専用ミックスを別トラックとして併録することです。
Q. LFEチャンネルにはどんな音を入れればいいですか? A. 120Hz未満の低域だけを入れます。ATSC A/52はLFEを帯域が120Hz未満に制限されたオプションのチャンネルと定義し、エンコード時に120Hzでローパスすべきとしています。それより上の帯域を入れても消えます。また規格はLFEのダウンミックスを任意としており、ステレオ環境ではLFEの内容が出ないことがあります。作品として必要な低域はLFEだけに任せず、L/Rにも入れておくと、2chで再生する環境でも成立します。
Q. DVDとブルーレイ、5.1chならどちらを選ぶべきですか? A. 帯域に余裕がほしいならブルーレイです。DVDは映像と音声を合わせて10.08Mbpsが上限で、5.1chをリニアPCMで入れると4.608Mbpsを占有し映像が苦しくなるため、ドルビーデジタル448kbpsが現実的な選択になります。ブルーレイはリニアPCM、ドルビーデジタル、DTSが必須コーデックで、Dolby TrueHDやDTS-HD Master Audioといったロスレスも任意コーデックとして載せられます。ただし任意コーデックは再生機側が対応しない場合があるため、互換用のトラックを併せて持たせる設計になります。
Q. 5.1chの音声ファイルは、どんな形で入稿すればいいですか? A. チャンネルごとに分けたモノラルWAVを6本、ファイル名にL・R・C・LFE・Ls・Rsを書いて渡す方法が最も誤解が起きません。1本のマルチチャンネルWAVで渡す場合は、L・R・C・LFE・Ls・Rsの順なのか、L・R・Ls・Rs・C・LFEの順なのかを文書で添えてください。サンプルレートは48kHzに揃えます。容量が大きくなるため、ギガファイル便のURLでの入稿に対応しています。WAVなど音声だけのファイルで当社に入稿できるかは、相談・問い合わせフォームで確かめてください。
Q. サラウンドに入れた音がステレオで聞こえないことはありますか? A. あります。ATSC A/52のサラウンドミックスレベル(surmixlev)は0.707(−3dB)、0.500(−6dB)、そして0の3つから選ばれ、0の場合はサラウンドチャンネルがダウンミックスに加算されません。−6dBの設定でもかなり後退します。後方から聞こえるナレーション、拍手、環境音などをサラウンドにしか置いていないと、ステレオ環境ではそれらが薄くなるか消えます。重要な情報はフロントのL/Rにも入れておくのが安全です。