この記事の要点
長期保存で先に失われるのは媒体ではなく読む手段 で、これはフォーマットの陳腐化と呼ばれ、対処はマイグレーションかエミュレーションの二択に整理されています。
Adobe Flash Playerは2020年12月31日に配布終了 し翌2021年1月12日から実行がブロックされました。予告は2017年に出ていた点が重要です。
形式選びの基準はISO規格になっているか・仕様が公開されているか・実装が複数あるか の三点で、PDF/AはISO 19005として2005年から規格化されています。
PNGは可逆圧縮、JPEGは非可逆圧縮 です。開いて保存し直すたびに再圧縮が起きるため、原本を触らない層と作業する層を物理的に分けます。
確認は年に一度、作成者以外の環境で三本開く だけで足ります。国税関係帳簿書類の保存期間が7年から10年である以上、その間に環境は二回変わります。
外付けHDDは通常どおり認識されている。ディスクもドライブが読み込む。それなのに、中に入っていたファイルをダブルクリックすると「このファイルを開けるアプリがありません」と表示される。長期保存の失敗は、媒体が壊れる形ではなく、こういう形でやってくることがあります。
保存の話題は「HDDは何年もつか」「ディスクは何年もつか」といった媒体の寿命に寄りがちです。しかし実際には、媒体が無事なまま中身だけが読めなくなる経路が確実に存在します。データを読む側の仕組み、つまりファイル形式とそれを解釈するソフトウェアにも寿命があるからです。
この記事では、形式の寿命をどう見積もり、どの形式を選び、いつ移し替えるかを扱います。独自形式に依存しているかの見分け方、可逆圧縮と非可逆圧縮の使い分け、ファイルの外に何を書き残すか、確認の頻度と手順、移行に踏み切る三つのサインまで、そのまま手を動かせる粒度で並べました。
媒体が無事でも開けなくなる|先に古びるのは物ではなく「読む手段」
デジタルデータの保存を専門に扱う分野では、この現象をフォーマットの陳腐化と呼びます。新しい符号化フォーマットが普及した結果、古いフォーマットが使われなくなり、データそのものより先に読む手段のほうが失われる、という整理です。
対処法は大きく二つに分類されています。ひとつはマイグレーションで、データをより新しいシステム環境へ移行すること。ワープロ文書をPDFに変換する、といった作業がこれにあたります。もうひとつはエミュレーションで、旧式のシステムの機能を複製し、当時の環境そのものを再現する方法です。ただしエミュレーションは環境の維持に手間がかかるため、個人や中小規模の現場で現実的に選べるのは、ほぼ前者だと考えられます。
ここから導かれる結論はひとつです。長期保存の計画は「どこに置くか」だけでは足りません。「いつ、何に、移し替えるか」まで含めて初めて計画になります。置きっぱなしにできる形式を選ぶか、置きっぱなしにできないことを前提に移行の予定を立てるか、どちらかを決める必要があります。
まず保存対象を三列で棚卸しする
抽象論に進む前に、手元のデータを一覧にしてください。表計算ソフトを開いて、列を三つ作ります。
中身 |何のデータか。契約書、発表会の映像、設計図面、家族の写真、といった粒度で構いません
形式 |拡張子だけでなく、書き出したソフト名とバージョンまで書きます。ここが空欄なら、それ自体が危険信号です
開くのに必要なもの |OS標準の閲覧ソフトで開くのか、専用ソフトが要るのか、ライセンス認証やインターネット接続が要るのか
三列目に「専用ソフトが要る」「ライセンス認証が要る」と書かざるを得なかった行が、この先いちばん早く壊れる行です。実際に書き出してみると、そういう行は全体の一部に集中していることが多く、対象は思ったより少なくなります。そこだけ手を打てば、残りは媒体の管理という別の問題に落とし込めます。
独自形式に依存する危険|提供元がやめた日にファイルは動かなくなる
具体例で見たほうが早いので、実際に起きたことを挙げます。Adobe Flash Playerは、2020年12月31日をもって開発と配布が終了しました。さらに翌2021年1月12日以降は、Flashコンテンツの実行がブロックされています。そしてこの終了方針が公表されたのは2017年です。三年以上の予告期間があったにもかかわらず、期限が来てから手元のファイルが動かないと気づいた例は少なくありませんでした。
ここから学べることは二つあります。ひとつは、提供元の一存で読めなくなる形式が現実に存在すること。もうひとつは、予告があっても、ファイルを持っている側が動かなければ結果は同じだということです。予告期間は猶予ではなく、作業の締め切りです。
独自形式かどうかを見分ける三つの質問
手持ちのファイルについて、次の三つを確認してください。
仕様が公開されているか |規格書や技術文書が誰でも読める状態にあるか。公開されていれば、提供元が消えても読み解く道が残ります
実装が複数あるか |そのファイルを開けるソフトが、作った会社の製品以外にも存在するか。一社しか読めない形式は、その一社の事業判断がそのまま寿命になります
書き出しメニューに逃げ道があるか |「エクスポート」「名前を付けて保存」に、他のソフトでも開ける形式が並んでいるか
三つ目は今日試せます。試すのに一分もかかりません。そして重要なのは、契約中のソフトやサービスを解約する前に書き出すことです。解約後に「やっぱり出しておけばよかった」と気づいても、その形式を開ける手段はもう手元にありません。クラウド型のサービスを解約する際は、解約日の前に全データを書き出す作業を必ず……ではなく、解約手続きと同じ日のタスクとして予定表に入れておくと取りこぼしが減ります。
形式の陳腐化は文字コードにも起きる
見落とされがちなのが文字コードです。日本語のテキストで長く使われてきたShift_JISには、二バイト目が0x5Cになりうる文字があり、これがプログラミング言語のエスケープ文字と衝突して文字化けを起こす問題が知られています。さらに、実装ベンダがJIS X 0208で規定されていない機種依存の拡張を施している例が多く、広く普及したマイクロソフトのコードページ932はShift_JIS-2004と併用できません。こうした不都合が多いため、Unicodeへの移行が呼びかけられています。
古い顧客名簿や実験データがCSVやテキストで残っているなら、UTF-8への変換を検討する価値があります。変換の際は、丸数字やローマ数字といった機種依存文字が化けていないか、変換前後を並べて目視で確認してください。
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広く使われている形式を選ぶ意味|ISO規格・仕様公開・複数実装の三点で選ぶ
持続可能な形式を選ぶ観点としては、情報が開示されているか、普及しているか、構造が透明かといった要素が挙げられます。これを実務の言葉に直すと、先ほどの三つの質問とほぼ同じものになります。国際規格として文書化されていれば情報開示と透明性は担保され、規格に沿った実装が複数あれば普及の条件も満たされます。
用途ごとに、規格として確立している選択肢を挙げます。
用途
形式
規格
閲覧用の文書(版面を固定したいもの)
PDF/A
ISO 19005-1(2005年9月28日/PDF 1.4基準)、19005-2(2011年6月20日/PDF 1.7基準)、19005-3(2012年10月15日)、19005-4(2020年11月/PDF 2.0基準)
編集を続ける文書・表計算
Office Open XML(.docx / .xlsx など)
ISO/IEC 29500。2006年12月にECMA-376として標準化され、2008年4月にISO/IEC承認
同上(別系統)
OpenDocument(.odt / .ods など)
ISO/IEC 26300:2006、v1.2対応版がISO/IEC 26300:2015
画像(劣化させたくないもの)
PNG
1996年10月1日にW3C勧告、ISO/IEC 15948として国際標準化
動画の入れ物
MP4
ISO/IEC 14496-14:2003。ISOベースメディアファイルフォーマット(MPEG-4 Part 12)を基礎とする
PDF/Aが長期保存向きとされる理由は「制約」にある
PDF/Aは、ふつうのPDFから機能を削った規格です。フォントはすべて埋め込みが求められ、しかも法的に埋め込み可能なフォントでなければなりません。暗号化は禁止、外部コンテンツへの参照も禁止、JavaScriptや実行ファイルの起動も禁止、音声と動画の埋め込みも禁止されています。
できないことばかりに見えますが、これは裏を返せば「そのファイル一個だけで表示が再現できる」という設計です。外部のフォントやサーバーに依存していれば、依存先が消えた時点で表示は変わります。暗号化されていれば、鍵を失った時点で開けません。制約は不便ではなく、将来の不確実性を減らすための仕様だと理解すると選びやすくなります。
なお、PDF/A-3ではXML、CSV、CAD、ワープロ文書、表計算文書といった任意の形式のファイルをPDF/A準拠文書の中に埋め込むことが認められており、ここがPDF/A-2との主な違いです。見た目を固定したPDFと、編集可能な元データを一本のファイルにまとめられるため、請求書や設計書のように「表示の証跡」と「再利用可能なデータ」の両方を残したい場面に向いています。
規格に沿っていても、保存先の指定は自分でやる
Office Open XMLは、ZIP形式で圧縮されたXMLを基礎とする構造で、従来の.doc、.xls、.ppt形式とはバイナリ互換性がありません。OpenDocumentも同様に複数のXMLファイルをZIPで固めた構造です。つまり、拡張子を.zipに変えれば中身のXMLを取り出せます。将来どのソフトも起動しなくなったとしても、テキストとして本文を救い出す余地が残っている、という意味で心強い性質です。
一方、旧来のバイナリ形式にはその逃げ道がありません。手元に.docや.xlsが残っているなら、今のうちに新しい形式で保存し直しておくのが素直な判断です。
圧縮の有無という判断|PNGは可逆、JPEGは非可逆で開くたびに削れる
形式を選ぶときにもうひとつ決めるべきなのが、圧縮の種類です。PNGは圧縮アルゴリズムとしてDeflateを採用した可逆圧縮で、圧縮による画質の劣化がありません。対してJPEGはISO/IEC 10918-1:1994(JIS X 4301:1995)として規定された非可逆圧縮で、圧縮率を上げるとブロックの境界にブロックノイズと呼ばれるノイズが生じます。
実務で問題になるのは、非可逆圧縮のファイルを「開いて、保存し直す」操作です。回転、トリミング、明るさ調整のような軽い編集でも、上書き保存すれば再圧縮が走ります。一度きりなら気にする必要はありませんが、五年、十年のあいだに何度も手を入れれば、その回数分だけ情報は削られていきます。
原本の層と作業の層を物理的に分ける
対策は単純です。フォルダを二つに分けます。
原本フォルダ |カメラやスキャナから取り込んだままのファイルを置く。ここのファイルは開いてもよいが、上書き保存はしない
作業フォルダ |編集や共有に使うコピーを置く。ここは何度書き換えても構わない
原本フォルダの読み取り専用属性をオンにしておくと、うっかり上書きを機械的に防げます。動画も同じ考え方です。編集のたびに書き出しをくり返すと再エンコードが重なるため、カメラから取り込んだ元ファイルは編集プロジェクトとは別の場所に確保しておきます。
可逆がいつも正解ではない
可逆圧縮は容量を食います。写真数千枚をすべてPNGや無圧縮で持つと、保存先のコストが跳ね上がり、結果として「容量が足りないから整理せずに放置」という別の失敗を招きます。判断の軸は再作成できるかどうかに置くのが現実的です。
再撮影・再取得できないもの (式典の記録、事故現場の写真、故人の映像、原資料のスキャン)は原本を可逆または撮って出しのまま保持する
再作成できるもの (元データから書き出せる図版、資料の配布用画像)は非可逆でよい。ただし元データのほうを原本フォルダに入れる
この線引きをしておくと、容量をかけるべき対象がはっきりします。全部を最高品質で残そうとするより、残すべきものを絞ったほうが結局長持ちします。
メタデータを別に残す|ファイル名の外に、UTF-8のテキストで書く
形式を選び、圧縮を決めても、まだ足りないものがあります。そのファイルが何なのかという情報です。デジタル保存の枠組みであるOAIS参照モデルでは、識別情報、出所来歴、文脈、固定性、表現という五種類のメタデータを付与することが推奨されています。専門機関ではPREMISという標準が事実上の基準として使われています。
これを個人や中小規模の現場に翻訳すると、やることは一枚のテキストファイルを置くことです。保存フォルダの中にREADME.txtをUTF-8で作り、次の項目を書きます。
これは何か |案件名、日付、場所、被写体や当事者。将来の自分は覚えていません
どこから来たか |撮影・作成した機材やソフト、受け取った相手、取り込んだ日
どういう形式か |拡張子、コーデック、解像度、文字コード。書き出し設定を控えておくと再現しやすくなります
壊れていないと確認する方法 |ハッシュ値のファイル名と、照合コマンド
誰に権利があるか |公開してよい範囲、写っている人の許諾の有無
固定性はハッシュ値で残す
五項目のうち技術的なのは固定性だけです。ファイルが黙って壊れていないかを確かめるために、保存時点でハッシュ値を取り、テキストに残しておきます。
macOS・Linux|フォルダに移動して shasum -a 256 * > checksums.txt
Windows|certutil -hashfile ファイル名 SHA256
数年後に同じコマンドを走らせて値が一致すれば、中身は当時のままです。値が変わっていれば、媒体の側で異常が起きています。開いて目視するより速く、確実に判定できます。
業務データなら、メタデータは法令の要件そのもの
仕事のデータでは、これは任意の心がけではありません。電子取引データを電子のまま保存する場合、検索できる状態が求められ、実務上はファイル名とフォルダ名に日付・金額・取引先名を規則的に付けて管理するか、索引簿を作る方法が採られています。命名規則を決めて運用すること自体が、そのまま保存要件への対応になります。
命名規則はシンプルなほど続きます。「20260809_取引先名_金額_内容」のように、先頭を年月日の八桁にしておくと並べ替えだけで時系列になります。
定期的に開けるか確認する|年に一度、作った本人以外の環境で三本開く
ここまでの作業をしても、確認しなければ意味がありません。ただし全ファイルを毎年開き直すのは現実的ではないので、抜き取りにします。手順は次のとおりです。
頻度 |年に一度。予定表に繰り返し予定として入れます。時期は年度末や年末など、他の整理作業と重なる日がおすすめです
対象 |三本だけ選びます。いちばん古いもの、いちばん失いたくないもの、いちばん形式が特殊なもの。この三本が通れば、間にあるものはたいてい無事です
環境 |作成した本人のパソコン以外で開きます。作った端末には、当時のソフトも設定も残っています。それでは確認になりません。家族の端末、職場の共用機、貸出用のノートなど、素の環境で試します
照合 |開く前にハッシュ値を照合します。値が一致していれば、開けない原因は媒体ではなく形式の側だと切り分けられます
記録 |結果をREADME.txtの末尾に一行追記します。「2026-08-09 確認済 三本とも開封可 環境:Windows 11標準アプリ」程度で十分です
なぜ年に一度で足りるのか
保存が必要な期間から逆算します。法人の帳簿書類は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から七年間の保存が求められます。青色申告で欠損金が生じた事業年度などは十年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は九年間)です。総勘定元帳や仕訳帳のような帳簿だけでなく、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書といった書類も対象に含まれます。
七年から十年という期間は、パソコンを二回買い替え、OSが二世代進み、使っている業務ソフトが別会社に売却されてもおかしくない長さです。この間に一度も開いていないファイルは、開けるかどうかが検証されていないファイルにすぎません。年に一度の抜き取りは、その未検証の期間を最長一年に抑えるための仕組みです。
家庭のデータでも考え方は同じです。子どもの記録や家の記録は、七年より長く持つことになります。確認の回数が少ないぶん、一回あたりを軽くして続けるほうが結果が出ます。
移行のタイミングの決め方|「まだ開ける」うちに動く三つのサイン
移行は、開けなくなってからでは間に合いません。次のいずれかに当てはまったら着手する、と決めておくと判断で迷わなくなります。
サイン1|開くのに旧バージョンの専用ソフトが要ると気づいたとき
最新版では開けず、古いバージョンを探してくる必要があるファイルは、次のOS更新で開けなくなる可能性があります。まだ開ける環境が手元にある今が、書き出しの最後のチャンスです。
サイン2|提供元がサポート終了を予告したとき
Flashの例では、2017年の公表から2020年12月31日の終了まで三年以上ありました。予告が出たら、終了日ではなく公表日から数えて動きます。予告直後は情報も変換ツールも揃っていて、いちばん作業が楽な時期です。
サイン3|OSやパソコンを買い替えるとき
データを移す作業が発生するタイミングは、形式を見直すコストがいちばん低い瞬間です。どうせ全ファイルに触るので、棚卸しの表を横に置き、三列目に印を付けた行だけ書き出し直します。
移行するときの実務ルール
マイグレーションには、変換の過程で真正性に疑義が生じる可能性と、時間とコストがかかるという課題が指摘されています。作業を安全に進めるために、次の三点を守ってください。
変換しても元は消さない |変換後のファイルに問題が見つかるのは、たいてい数か月後です。元ファイルは別フォルダに残し、次の確認で問題がなければ判断します
新旧を並べて目視する |文書ならフォントの置き換わりと表の崩れ、画像なら色味、動画なら音ズレ。自動変換で最も壊れやすい箇所を先に見ます
フォルダ単位でまとめて処理する |一ファイルずつ手作業で変換すると、途中で止まって二度と再開されません。同じ設定で通せる単位に区切って一気に処理します
そして、変換した事実をREADME.txtに書き足します。いつ、何から何へ、どのソフトで変換したか。これが出所来歴の記録になり、次に見直すときの判断材料になります。
映像は媒体と形式が一体になる|DVDは約35万画素、ブルーレイは約207万画素
ここまでは、ファイルを置いたまま形式を管理する話でした。映像だけは事情が少し違います。DVDやブルーレイという形にすると、媒体と形式が規格として一体で固定されるからです。
DVD-Videoの映像は、NTSC方式で720×480ピクセルのインターレース、29.97fpsが標準です。コーデックはMPEG-2で、映像ビットレートは最大約9.8Mbps、音声はドルビーデジタル(AC-3)の2chおよび5.1chが標準とされ、PCMやDTSも選べます。ブルーレイのBDMVは1920×1080i/1080p、720pに対応し、映像コーデックはMPEG-2、H.264/MPEG-4 AVC High Profile、VC-1 Advanced Profileが規定されています。記録容量は1層で25GB、2層で50GBです。
画素数で比べると、DVDの720×480は約35万画素、ブルーレイの1920×1080は約207万画素で、およそ6倍の差があります。ここは用途で選ぶところで、記録として残すだけなら前者で足り、大画面で見返す前提なら後者を選ぶ、という分け方になります。
規格が固定されていることの意味
手元のファイルは、拡張子が同じでも中身のコーデックや設定はまちまちです。再生できるかどうかは、開く側のソフトが何に対応しているかに左右されます。一方でDVD-VideoやBDMVは、解像度もコーデックもフォルダ構造も規格として決まっています。再生機器はその規格に沿って作られているため、ファイルごとの当たり外れが起きにくい。形式の自由度を捨てる代わりに、読み方が公開された規格として残る、という性質です。
ただしそのためには、動画ファイルを規格どおりに組み立てる作業が要ります。これがオーサリングと呼ばれる工程で、映像と音声を規格に合う形式へ変換し、メニューやチャプターの情報とあわせてディスクの構造を作ります。手元のパソコンでも可能ですが、規格の細部で再生機器と相性が出やすい部分でもあります。
ディスクメーカーでは、この工程を料金に含めた形で書き込み代行を行っています。基本料金(DVD・1枚あたり)1,500円(税抜)からで、1枚から注文できます。盤面へのレーベル印刷、ケースと背表紙の印刷、メニュー画面の作成、チャプター分けにも対応しています。入稿はダウンロードできる共有URLで、ギガファイル便、Google Drive、Dropbox、OneDrive、WeTransfer、firestorageなどが使えます。納期は通常便のほか、お急ぎ便が+1,500円(15時までの注文・入稿で翌々日までに発送)、特急便が+3,000円(15時までの注文・入稿で翌日発送)、当日店舗お渡しが+3,500円(平日12時までの注文・入稿、大阪市北区の店舗で受け取り)です。
ディスクにしたら終わり、ではない
最後に念を押しておきます。ディスクも媒体である以上、傷や経年の影響を受けます。形式を規格で固めることと、媒体を複数持つことは別の対策です。手元のファイル、ディスク、クラウドやHDDのバックアップ、というように置き場所を分け、そのうえで形式の寿命を年に一度見直す。媒体と形式の両輪がそろって、はじめて長期保存の体裁が整います。
よくある質問
Q. 長期保存に一番向いているファイル形式は何ですか
A. 用途によって変わりますが、判断の軸は共通しています。国際規格として文書化されていること、仕様が公開されていること、その形式を開ける実装が複数あることの三点です。閲覧用の文書ならPDF/A(ISO 19005)、編集を続ける文書ならOffice Open XML(ISO/IEC 29500)やOpenDocument(ISO/IEC 26300)、画像で劣化を避けたいならPNG(ISO/IEC 15948)、動画の入れ物ならMP4(ISO/IEC 14496-14:2003)が該当します。迷ったら、自分が使っているソフトの書き出しメニューを開き、この中にある形式を選んでください。
Q. 独自形式かどうかは、どうやって見分ければいいですか
A. 三つ質問すれば判別できます。仕様が公開されているか、そのファイルを開けるソフトが作った会社の製品以外にもあるか、書き出しメニューに他のソフトでも開ける形式が並んでいるか。三つ目は今すぐ確認できます。書き出せる形式が同じ会社の製品向けしかない場合、その形式の寿命はその会社の事業判断に連動します。契約中のソフトやサービスを解約する予定があるなら、解約手続きと同じ日のタスクとして書き出し作業を入れておくと取りこぼしません。
Q. JPEGで保存した写真は、置いておくだけで劣化しますか
A. 置いておくだけでは劣化しません。JPEGは非可逆圧縮なので保存の瞬間に情報が削られますが、その後ファイルを触らなければ中身は変わりません。問題になるのは開いて上書き保存する操作で、回転やトリミングのような軽い編集でも再圧縮が走り、圧縮率によってはブロックノイズが増えます。対策は、取り込んだままの原本を別フォルダに読み取り専用で置き、編集はコピーに対して行うことです。これだけで劣化の積み重なりは止まります。
Q. ZIPで固めて保存しておけば安全ですか
A. 容量は減りますが、形式の寿命の問題は解決しません。ZIPは中身を包むだけで、中に入っている独自形式のファイルはやはり専用ソフトがないと開けないからです。加えて、圧縮ファイルは一部が壊れると全体が展開できなくなる場合があり、リスクをまとめる側面もあります。長期保存では、圧縮するかどうかより、中身の形式を規格化されたものにしておくこと、そしてハッシュ値を控えて壊れていないか確認できるようにしておくことのほうが効きます。
Q. 何年ごとにファイル形式を移行すればいいですか
A. 年数で決めるより、きっかけで決めるほうが実行できます。目安は三つで、最新版のソフトでは開けず旧バージョンが必要だと気づいたとき、提供元がサポート終了を予告したとき、OSやパソコンを買い替えるときです。特に三つ目は、どうせ全ファイルに触るので追加の手間が最小になります。あわせて年に一度、いちばん古いもの・いちばん失いたくないもの・いちばん形式が特殊なものの三本を、作成した端末以外で開いてみてください。
Q. Shift_JISで保存した古いテキストは、今すぐ変換すべきですか
A. 業務で使い続けるデータなら、変換を検討する価値があります。Shift_JISは二バイト目が0x5Cになりうる文字で文字化けが起きる問題があり、JIS X 0208にない機種依存の拡張をベンダが加えている例も多く、広く普及したコードページ932はShift_JIS-2004と併用できません。こうした事情からUnicodeへの移行が呼びかけられています。変換する際は、丸数字やローマ数字などの機種依存文字が化けていないか、変換前後を並べて目視で確認してください。
Q. クラウドに預けておけば形式の問題は解決しますか
A. 解決しません。クラウドが担うのは媒体の役割で、ハードウェアの故障や紛失には強くなりますが、預けたファイルの形式が読めなくなる問題はそのまま残ります。むしろサービス独自の形式で編集している場合、解約や仕様変更のときに手元へ持ち出せる形式が限られる点に注意が必要です。契約中のうちに、標準的な形式で一度書き出しておくこと、そして書き出したものが別の環境で開けるかを確かめておくことをおすすめします。
Q. 動画はMP4のまま置くのと、ディスクにするのとどちらがいいですか
A. 目的が違うので、片方だけを選ぶ必要はありません。MP4はISO/IEC 14496-14として規格化された入れ物で、編集や共有には向きます。一方DVD-VideoやBDMVは解像度もコーデックもフォルダ構造も規格で固定されているため、再生側の当たり外れが起きにくいという性質があります。渡す相手がいる記録や、パソコンが無くても見返したい映像はディスクにし、原本のファイルは別途保管する。この二本立てが現実的です。