この記事の要点
フリーランス法は2024年11月1日施行 で、対象は従業員を使用しない個人と、代表者ひとりだけの法人です。動画編集や撮影の請負は情報成果物作成委託 にあたります。
報酬の支払期日は給付を受領した日から60日以内 と定める必要があり、期日を決めなかった契約では受領日そのものが支払期日 とみなされます。
受領拒否・報酬減額・買いたたき、不当なやり直しの強要などの禁止 は、1か月以上の業務委託(更新で1か月以上になるものを含む)が対象です。
6か月以上続く継続的業務委託を中途解除・不更新にする場合、発注側には少なくとも30日前の予告 と、請求があったときの理由開示が求められます。
フリーランス・トラブル110番 (0120-532-110)は相談も和解あっせんも無料です。厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営しています。
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編集を終えて納品したのに、検収の連絡が来ないまま2か月が過ぎた。発注書は最後までもらえず、やりとりはチャットの短文だけ。追加で頼まれたテロップ差し替えは「軽い修正だから」と言われて見積もりに入れられなかった。映像を個人で請け負っていると、こういう状態がめずらしくありません。
2024年11月1日にフリーランス法が施行され、2026年1月1日には旧下請法が中小受託取引適正化法(取適法)として動き出しました。従業員を使用しない個人と、代表者ひとりだけの法人はフリーランス法の対象です。発注元が一定規模を超える法人なら、取適法も重ねて働きます。ただ、法律の名前を覚えても現場は変わりません。役に立つのは、「自分の取引がどちらの射程に入るか」を先に判定し、その射程に合った証跡を、案件の途中で淡々と残しておくことです。
具体的には、着手前に条件を整理した確認メールを自分から送り、納品の送信日時を残し、仕様変更のたびに差分・工数・金額・納期を1通で確定させます。
この記事の目次見出しを押すと、その場所へ移ります
自分の取引にかかるのはどの法律か|従業員を雇っていなければフリーランス法、発注側の規模しだいで取適法も重なる 書面がもらえないときは、3条明示の8項目を並べた確認メールを自分から出す 支払期日は受領日から60日以内|期日を決めていない契約は「受領日払い」とみなされる 無償のやり直し要求は1か月以上の委託で禁止|「責めに帰すべき事由」の線を見積書で先に引く 仕様変更を追加費用にするには、変更のたびに「差分・工数・金額・納期」を1通の記録で確定させる 6か月以上の継続案件の打ち切りには30日前の予告が要り、理由も請求できる ディスク納品込みの案件は枚数変更が費用に直結する|数量は「発注日」でなく工程の着手で線を引く 相談窓口のフリーランス・トラブル110番は、相談も和解あっせんも無料で使える よくある質問 撮った動画は、1枚1,500円(税抜)からDVD・ブルーレイにできます。料金を見る
自分の取引にかかるのはどの法律か|従業員を雇っていなければフリーランス法、発注側の規模しだいで取適法も重なる
最初に確かめるのは、自分がフリーランス法で守られる側の「特定受託事業者」にあたるかどうかです。フリーランス法(正式名称は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、令和5年法律第25号)は2024年11月1日に施行されました。対象になるのは、業務委託を受ける事業者のうち、従業員を使用しない個人と、代表者ひとりだけで他に役員も従業員もいない法人です。法人化していても、ひとり社長で従業員を雇っていなければ射程に入ります。
「従業員を使用する」の判断は、公正取引委員会のQ&Aで、週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を使っているかどうかで示されています。撮影当日だけスポットで人を頼む、繁忙期に数日だけ手伝ってもらう、という程度であれば、この基準には届かないと考えられます。外注先に業務を再委託しているだけの場合も、雇用ではないため従業員には数えません。
次に発注側です。フリーランス法の支払期日ルールと禁止行為がかかるのは「特定業務委託事業者」、つまり従業員を使用する個人事業主か、役員が複数いるか従業員を使用する法人です。発注元がひとりのディレクターで従業員を雇っていない場合、支払期日や禁止行為の規定は及びません。
ただし取引条件の明示義務は「業務委託事業者」全般に課されているため、相手が個人でも条件を書面や電磁的方法で示す義務は残ります。ここは実務で誤解されやすい分かれ目です。
映像の仕事は「情報成果物作成委託」にあたる
フリーランス法の業務委託には、物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供が含まれます。動画データや編集済みマスターの納品は情報成果物の作成、撮影当日のオペレーションやカメラマンとしての稼働は役務の提供として整理されるのが素直な読み方です。どちらであっても法の対象であることに変わりはありませんが、支払期日を数え始める日(起算日)が変わるため、契約の中身がどちらなのかは意識しておくと有利です。
取適法(旧下請法)と重なる場合がある
発注元が一定規模を超える法人なら、2026年1月1日施行の取適法も重ねて働きます。情報成果物作成委託・役務提供委託では、資本金5,000万円超の法人が5,000万円以下の相手に委託する場合などが対象で、今回の改正で常時使用する従業員100人超という基準も加わりました。
フリーランス法
取適法(2026年1月1日施行)
受注側の要件
従業員を使用しない個人/代表者ひとりだけの法人
個人、または資本金5,000万円以下の法人など(情報成果物・役務の場合)
発注側の要件
従業員を使用する個人/役員複数または従業員のいる法人
資本金5,000万円超、または常時使用従業員100人超の法人など
支払期日
受領日から60日以内
受領日から60日以内
遅延利息の規定
置かれていない
あり(公正取引委員会規則で定める率)
両方の射程に入る案件では、遅延利息の規定がある取適法を根拠にできる分だけ交渉材料が増えます。相手の資本金は登記情報や会社概要ページで確認できるので、大きめの制作会社やメーカー直の案件を受けるときは、契約前に一度見ておく価値があります。
従業員の目安は週20時間以上かつ31日以上の雇用見込み。スポットの手伝いや再委託は数えない
書面がもらえないときは、3条明示の8項目を並べた確認メールを自分から出す
フリーランス法第3条は、業務委託事業者に対して、給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法で直ちに明示するよう求めています。メールやチャットでも電磁的方法にあたるため、体裁の整った発注書である必要はありません。逆にいえば、相手が発注書を出さない案件でも、条件がテキストで残っていれば明示義務の水準に近づきます。
公正取引委員会のQ&Aで示されている明示事項は次のとおりです。相手が出してこないなら、この並びをそのまま自分の確認メールの見出しに使えば、争点になりやすい項目が漏れなく埋まります。
発注する側と受ける側の名称
業務委託をした日
給付または役務の内容
給付を引き渡す期日、役務を提供する期日
給付の場所、役務提供の場所
報酬の額と支払期日
検査をする場合はその検査を完了する期日
現金以外の方法で支払う場合は支払方法に関すること
確認メールの書き方は「合意の再掲」にする
ここで大事なのは、要求の形にしないことです。「発注書をください」と書くと相手の作業が増えるだけで返信が止まります。すでに口頭で合意した内容を、こちらが整理して書き出し、相違があれば直してくださいと伝える形にすると、返信のコストが下がって返ってきます。
実際の文面は次の程度で足ります。「先ほどお打ち合わせいただいた内容を、認識合わせのため整理しました。相違があればこのメールへの返信でご指摘ください。相違のご連絡がなければ、この内容で着手します。」に続けて、次の項目を並べます。
件名:◯◯様インタビュー動画 本編8分・ダイジェスト60秒
納品形式:MP4(H.264、1920×1080、29.97fps)
初稿提出:11月14日
修正対応:初稿提出後2回まで
報酬:税込◯◯円
支払期日:納品月の翌月末
この「相違のご連絡がなければこの内容で着手します」という一文が役に立ちます。後から条件がずれたとき、どちらの主張がいつ提示されたのかが日時付きで残るからです。チャットでやりとりしている案件でも、着手前の一度だけはメールに移しておくと、後で検索して引き出せます。
条件が固まらないまま始めるときの書き方
第3条には、内容を定められないことに正当な理由がある場合の例外があり、その場合は内容が定まった後に直ちに明示することが求められます。素材が揃わないと尺が決まらない、といった案件はこの形になります。
受注側としては「現時点で未確定の項目」を確認メールに明記しておくのが安全です。未確定であることが共有されていれば、後から確定させるタイミングで報酬を協議する流れを自然に作れます。「本編尺は素材受領後に確定。10分を超える場合は分単位で追加費用を協議」と1行入れておくだけで、後の交渉の前提が変わります。
支払期日は受領日から60日以内|期日を決めていない契約は「受領日払い」とみなされる
フリーランス法第4条は、特定業務委託事業者に対し、給付を受領した日から起算して60日の期間内で支払期日を定めることを求めています。ここで受注側が知っておくと強いのは、期日を定めなかった場合と、60日を超えて定めた場合のみなし規定です。
支払期日を定めなかったときは、給付を受領した日が支払期日とみなされます
60日を超える期日を定めたときは、受領した日から起算して60日を経過する日が支払期日とみなされます
つまり、条件を詰めずに納品してしまった案件は、法的には即日払いの扱いになります。「発注書がないから支払時期も曖昧」ではなく、「発注書がないなら受領日が期日」です。督促するときの立ち位置がまるで変わるので、覚えておく価値があります。
起算日は「受領した日」で、検収完了日ではない
60日の数え始めは受領日です。Q&Aでは、情報成果物の場合は記録媒体を受け取った日、あるいはメールが到達した日、役務の場合は役務の提供を受けた日とされています。検収が長引いても、それだけで起算が遅れるわけではありません。情報成果物では、一定の水準を満たすかを確かめた日を受領日とすることを前もって合意しておく扱いもありますが、その場合も遅くとも納期の日を受領日として数えます(公正取引委員会の考え方)。
だからこそ、納品した瞬間の記録が役に立ちます。共有URLで渡す案件なら、送信メールの日時とURLの発行記録がそのまま受領日の証拠になります。ダウンロード期限のある共有サービスを使うときは、期限切れで「受け取っていない」と言われないよう、送信控えと期限日をセットで残しておくと安全です。ディスク制作で当社に入稿いただく場合も同じ考え方で、ギガファイル便での入稿ガイド にまとめている手順のように、URLと期限を明記して送る形が結局いちばん揉めません。
再委託のときは30日ルールがある
受けた仕事をさらに外部へ再委託する立場になったときは、第4条第3項の特例が関係します。元委託の支払期日から起算して30日の期間内で、再委託先への支払期日を定めることになります。所定の明示をしていない場合はこの特例は使えず、原則どおり受領日から60日以内です。撮影を他のカメラマンに振る、MAを外に出す、といった案件では自分が発注側になるので、同じ物差しで見られることになります。
遅れたときの督促は、事実だけを時系列で並べる
期日を過ぎたときの最初の一通は、感情を入れずに事実を並べるほうが動きます。納品日、合意した支払期日、経過日数、請求書番号と金額、この4点です。そのうえで「本日時点でご入金を確認できておりません。行き違いでしたら申し訳ありません。処理状況をご教示ください」と結ぶ。ここで法律名を出す必要はまだありません。
2通目以降で動かないときに、初めて根拠を添えます。「フリーランス法第4条により、支払期日を定めていない場合は給付を受領した日が支払期日とみなされます。◯月◯日の納品分について、◯月◯日までにお支払いの見込みをご連絡ください」という程度で十分です。相手が取適法の対象規模なら、遅延利息の規定がある点にも触れられます。フリーランス法には遅延利息にあたる規定が置かれていないので、そこを補うために、契約書や見積書の備考に遅延損害金の条項を自分で入れておく意味があります。
証跡は案件の途中で残す。督促は事実から始め、法律の根拠は2通目で添える
無償のやり直し要求は1か月以上の委託で禁止|「責めに帰すべき事由」の線を見積書で先に引く
フリーランス法第5条は、禁止行為を二段構えで置いています。ここの構造を理解しておくと、目の前の要求が断れるものかどうかを自分で判定できます。
第5条第2項に含まれるのは、自己のために金銭や役務その他の経済上の利益を提供させること、そして受注側の責めに帰すべき事由がないのに給付の内容を変更させたり、受領後にやり直させたりすることです。第5条は、第1項で対象の業務委託を「政令で定める期間以上の期間行うもの」に限り、「以下この条において同じ」と定めているので、第2項も1か月以上の業務委託(契約の更新で1か月以上になるものを含む)が対象です。1か月に満たない単発の案件は、この規定の対象から外れます。
第5条第1項には、受領拒否、報酬の減額、返品、著しく低い報酬の不当な決定(買いたたき)、購入・利用の強制が並び、こちらも政令で1か月以上の期間行う業務委託とされているものが対象です。契約の更新によって1か月以上になるものも含まれるので、月ごとに更新しているレギュラー案件は入ると考えられます。
争点は「責めに帰すべき事由」があるかどうか
やり直しの禁止は無条件ではありません。こちらの責めに帰すべき事由があれば、修正は受注側の負担になります。合意した仕様と違うものを出した、指定のコーデックで書き出していない、指示されたテロップの誤字を直していない。これらは自分の側の問題です。
問題になるのは、仕様が言語化されていない案件です。「なんとなく思っていたのと違う」で無限に修正が続く状態は、仕様が存在しないから起きます。だから、線を引くのは修正が始まってからではなく、見積書を出す段階です。
修正回数を書く。「初稿提出後、修正2回まで見積もりに含む。3回目以降は1回あたり◯◯円」
修正の単位を定義する。「1回の修正は、まとめてご指示いただいた内容を一括で反映する作業を指します」
範囲外を先に書く。「構成変更、使用素材の差し替え、尺の変更は修正回数に含みません」
確定のタイミングを書く。「ナレーション収録後の原稿変更は別途費用が発生します」
この4行があるだけで、追加要求が来たときの会話が「断る/断らない」から「どちらの範囲か」に変わります。相手を責めずに済むので、関係を壊さずに費用を積める形になります。
断るときの文面は、代案とセットにする
やり直しを求められたときに「それはできません」だけを返すと関係が止まります。実務では、範囲の確認と代案を同じメールに入れるのが通りやすい形です。「今回のご依頼は構成の変更にあたるため、お見積もりに含めた修正2回とは別の作業になります。差分の工数は◯時間、追加費用は◯◯円です。ご承認いただければ◯月◯日に再提出します。ご予算の都合でしたら、テロップ調整のみに絞る案もご提案できます」。金額と納期と代案が並んでいれば、決裁する側も動きやすくなります。
第5条は、発注側が従業員を使う事業者で、1か月以上の委託のときにかかる
仕様変更を追加費用にするには、変更のたびに「差分・工数・金額・納期」を1通の記録で確定させる
未払いや値引き要求が起きる案件を振り返ると、原因の多くは「いつ仕様が変わったのか誰も指し示せない」ことにあります。争いになってから過去のチャットを掘り返しても、決定の瞬間は散らばっていて、相手も悪意なく「そんな話でしたか」と言います。ここを防ぐのは記憶ではなく運用です。
変更のたびに1通、テンプレートを固定する
仕様が動いたと感じた時点で、作業を止めて1通だけ送ります。中身は毎回同じ4項目でかまいません。
差分:「当初:本編8分/変更後:本編8分+SNS用縦型30秒×3」
工数:「縦型リサイズと字幕再配置で約6時間」
金額:「追加◯◯円(税込)」
納期:「初稿提出を11月14日から11月18日に変更」
そして末尾に「このメールへのご返信をもってご承認とさせていただきます」と置きます。承認の証跡が1通に閉じるので、後から探すときも一発で出てきます。案件が終わったら、この変更メールだけを別フォルダにまとめておくと、請求内訳を作るときにそのまま使えます。
納期の変更を必ずセットにする理由
追加費用だけを伝えて納期に触れないと、「お金は払うから期日は変えないで」という圧力に変わります。工程が増えたのに期日が動かない状態は、結果としてこちらの深夜作業か、品質の妥協で吸収されます。金額と納期は切り離せないものとして、必ず並べて提示するほうが実務は安定します。
とくに、レンダリングや書き出しのように機械の処理時間で決まる工程は、人の頑張りで短縮できません。ディスクを含む納品なら、この性質はさらに強くなります。動画データをそのまま焼いただけでは家庭用プレーヤーで再生できず、再生できる形式へ組み立てる工程が挟まるからです。
この工程の中身はDVDオーサリングとは何かを解説した記事 にまとめていますが、要点は「編集の完了と、ディスクとして完成することは別の工程である」という一点です。仕様変更の連絡でも、編集の締切とディスク工程の締切を分けて書くと、相手の理解が早くなります。
口頭やオンライン会議で決まったことの扱い
打ち合わせで決まった変更は、その日のうちに議事メモを送ります。長文である必要はなく、決まったこと、決まらなかったこと、次に誰が何をするか、の3行で足ります。「本日の打ち合わせで、オープニングのモーション追加が決定しました。BGMは候補3案から先方でお選びいただき、11月10日までにご連絡いただく想定です。追加費用のお見積もりは明日お送りします」。この程度でも、後から時系列を再現できる記録になります。
6か月以上の継続案件の打ち切りには30日前の予告が要り、理由も請求できる
月極めで編集を回している案件や、シーズンを通した撮影の契約が、ある日いきなり止まることがあります。フリーランス法第16条は、継続的業務委託の中途解除と不更新について、少なくとも30日前までの予告を求めています。ここでいう継続的業務委託は、政令で6か月以上の期間行うものとされ、契約の更新によって6か月以上継続することになるものも含まれます。
予告の対象になる案件かどうかは、1回の契約期間ではなく、更新を含めた通算で見ます。1か月契約を5回更新して6か月目に入っているレギュラー案件は、この射程に入ると考えられます。月々の更新だから自由に切れる、という理解のままの発注担当者もいるので、契約を始める段階で「6か月を超える見込みですか」と一度確認しておくと、後の認識ずれが減ります。
また、解除や不更新の理由についても、受注側が請求したときは開示することが求められます。理由を聞くのは角が立つように感じますが、次の営業のためにも、改善できる点があるのかどうかは知っておいたほうが得です。「今後の体制づくりの参考にしたいので、差し支えない範囲で理由をご教示いただけますか」という聞き方であれば、関係を壊さずに引き出せます。
明示以外は、発注側が従業員を使う事業者のとき。期間は更新を含めた通算で見る
予告なしで止まったときに確認する順番
通算の委託期間が6か月以上になっているかを、請求書と契約書で数える
相手が特定業務委託事業者(従業員を使用する個人、または役員複数か従業員のいる法人)かを確認する
すでに着手している分の報酬が支払われるかを、先に文面で確定させる
予告の有無とは別に、仕掛かり分の受領拒否になっていないかを見る
実務でいちばん切実なのは3番目です。契約が終わること自体より、途中まで進めた分の扱いが宙に浮くほうが損害が大きくなります。「◯月◯日時点で、初稿までの作業が完了しています。この分のご精算について、金額と支払期日をご連絡ください」と、終了の話とは切り離して1通送っておくのが実務的です。
なお、フリーランス法にはこのほかにも、募集情報を正確かつ最新の内容に保つ義務、育児介護等への配慮、ハラスメント対策のための相談体制整備といった就業環境に関する規定が置かれています。報酬まわりの話に埋もれがちですが、募集内容と実際の条件が食い違う案件に当たったときには、この規定が拠り所になります。
ディスク納品込みの案件は枚数変更が費用に直結する|数量は「発注日」でなく工程の着手で線を引く
データ納品だけの案件と、ディスクまで含む案件では、仕様変更のコスト構造が変わります。データなら書き出し直しで済む変更が、ディスクでは物理の工程を巻き戻すことになるからです。ここを見積もりの前提として先に共有しておくと、後から「枚数を減らすので減額してほしい」という話が来たときに、根拠をもって説明できます。
枚数が動くと何が動くか
枚数の変更が費用に響くのは、単価×枚数の部分だけではありません。盤面印刷やジャケット印刷が入る案件では、印刷の準備が枚数と独立して発生します。データ入稿から工程に入った後の減数は、すでに使った準備分を回収できません。逆に増数の依頼は、資材と工程の空きしだいで納期が動きます。
だから、クライアントに提示する見積書には、数量変更の期限を工程で書いておくのが実務的です。「数量の変更は、ディスク工程着手の前営業日まで。着手後の減数はご請求額を変更できません」。日付ではなく工程で書くのは、入稿が遅れて工程が後ろにずれたときに、条件が自動で追随するからです。
納期オプションは条件とセットで伝える
当社は、動画データからDVD・ブルーレイを作る書き込み代行の店で、基本料金(DVD・1枚あたり)1,500円(税抜)から、1枚から注文を受け付けています。再生できる形式へ組み立てるオーサリングは料金に含まれています。盤面へのレーベル印刷、ケースと背表紙の印刷、メニュー画面の作成、チャプター分けにも、オプションで対応しています。少部数で受けられる体制については1枚から頼める小ロット対応の記事 で詳しく書いています。
当社の納期は、通常便のほか、お急ぎお届け(内容1種類につき)+1,500円(平日15時までの注文・入稿で翌々日までに発送)と、特急お届け(内容1種類につき)+3,000円(平日15時までの注文・入稿で翌日発送)から選べます。当日店舗お渡し(内容1種類につき)+3,500円(平日12時までの注文・入稿で、大阪市北区・梅田の店舗で受け取り)も選べます。
クライアントに伝えるときは、金額だけでなく締切時刻とデータが完成している前提もあわせて示してください。「特急にすれば間に合う」とだけ伝わると、入稿が遅れた責任がこちらに寄ってきます。急ぐときの締切と逆算はDVDを急いで作るときの締切と逆算 にまとめています。
入稿はギガファイル便のURLで受け付けています。ギガファイル便、Google ドライブ、Dropbox、OneDrive、WeTransfer、firestorage などが使えます。クライアントから素材を受け取る導線と、こちらから制作会社へ渡す導線を同じ方式に揃えておくと、受領日の記録も一本化できます。
見積もりの根拠を持っておくと値引き交渉に耐える
フリーランス法第5条第1項は、通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めることを禁じています。ただし「著しく低い」を主張するには、比較の物差しが要ります。ディスク部分については、外注費が実費として明確なので、内訳を分けて出すのがいちばん強い形です。編集費・オーサリング費・ディスク実費・印刷費を分けた見積書は、値引き要求が来たときにどこを削るかの会話に持ち込めます。料金の決まり方の整理はDVDのコピー・焼き増しを頼む料金 が参考になります。
相談窓口のフリーランス・トラブル110番は、相談も和解あっせんも無料で使える
自分で督促しても動かないときの外部窓口は、思っているより手前にあります。まず使えるのがフリーランス・トラブル110番です。厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営し、公正取引委員会・中小企業庁と連携しています。
電話 0120-532-110、受付は9時30分から16時30分(土日祝を除く)
電話をすると簡単な聞き取りのうえで予約が入り、弁護士から折り返しの電話がある流れ
問い合わせフォームからのメール相談は、通常2から3営業日で弁護士から返信
ビデオ通話によるWeb相談も完全予約制で対応
相談は無料。和解あっせんの手続も無料で、10年以上の経験を持つ弁護士が仲介して解決案を示す
和解あっせんまで無料という点は、金額が数万円から数十万円の案件を抱えている個人にとって大きい条件です。弁護士に単独で依頼すると費用が回収額を上回ることがありますが、この窓口ならその心配なく、まず専門家の見立てを得られます。
法令違反として申し出るルート
フリーランス法には、違反行為があるときに受注側から国へ申し出る仕組みがあります。取引条件の明示や報酬支払、禁止行為については公正取引委員会と中小企業庁、就業環境に関する事項については厚生労働省が窓口です。申出を受けた行政庁は必要な調査を行い、違反が認められれば勧告、勧告に従わない場合は命令、そして公表という段階を踏みます。命令違反や虚偽報告には50万円以下の罰金が定められています。
申し出を検討する段階では、これまで書いてきた記録がそのまま資料になります。着手前の確認メール、仕様変更ごとの承認メール、納品時の送信控えと共有URL、請求書と督促のやりとり。この4種類が日付順に並んでいれば、状況の説明にかかる時間が大幅に短くなります。
相談する前にそろえておくと早いもの
相手方の正式な商号と所在地、担当者名(法人か個人事業主かも分かる範囲で)
契約の開始時期と、更新を含めた通算の委託期間
納品日が特定できる記録(送信メール、共有URLの発行記録など)
請求書の発行日、請求額、記載した支払期日
督促の送信日時と、相手からの返信
逆にいえば、ここに挙げたものは案件が順調なうちに勝手に貯まる情報です。トラブルが起きてから作るものではなく、通常運転の副産物として残しておく。そう考えると、確認メールを1通出す手間も、変更のたびに4項目を書く手間も、保険料として妥当な水準に見えてきます。
ディスクの仕様や納期の相談は当社の相談・問い合わせフォームで受け付けていますが、契約や報酬に関する法的な判断は上記の窓口や弁護士にご相談ください。
よくある質問
Q. フリーランス新法は動画編集や映像制作にも適用されますか? A. 適用されます。フリーランス法の業務委託には、物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供が含まれます。編集済みの動画データやマスターの納品は情報成果物の作成、撮影当日のカメラマンとしての稼働は役務の提供として整理されるのが素直な読み方です。業種による限定はないため、映像・音響・デザインといった制作系の請負は広く射程に入ります。ただし適用されるのは、受注側が従業員を使用しない個人か代表者ひとりだけの法人であり、かつ発注側が従業員を使用する事業者である場合です。
Q. 法人化していてもフリーランス法の保護対象になりますか? A. なります。フリーランス法の「特定受託事業者」には、個人だけでなく、代表者ひとりだけで他に役員も従業員もいない法人が含まれます。ひとり社長の制作会社として法人化していても対象です。判断で迷いやすいのが従業員の有無で、公正取引委員会のQ&Aでは、週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を使っているかどうかが基準として示されています。撮影日だけスポットで人を頼む形や、外注先に再委託しているだけの場合は、雇用ではないため従業員には数えません。
Q. 発注書をもらえないまま作業を始めてしまいました。どうすればいいですか? A. 気づいた時点で、自分から条件を整理した確認メールを1通送ってください。フリーランス法第3条の明示事項として、名称、委託した日、給付の内容、期日、場所、報酬額と支払期日、検査完了日、現金以外の支払方法が挙げられているので、この並びを埋める形にします。要求ではなく「合意内容の再掲」として書き、末尾に「相違のご連絡がなければこの内容で進めます」と添えると返信が得やすくなります。メールやチャットも電磁的方法にあたるため、整った発注書でなくても証跡としては機能します。
Q. 支払期日が「納品月の翌々月末」と言われました。問題はありませんか? A. 起算日しだいで60日を超える可能性があります。フリーランス法第4条は、給付を受領した日から起算して60日以内で支払期日を定めることを求めており、これを超えて定めた場合は、受領日から60日を経過する日が支払期日とみなされます。たとえば月初に納品して翌々月末払いだと、90日近くになることがあります。起算日は検収完了日ではなく受領日である点も重要です。まずは納品日を特定できる記録を確認し、そのうえで支払期日の見直しを依頼してください。
Q. 無償で修正を何度も求められます。断ることはできますか? A. こちらに責めに帰すべき事由がないのであれば、フリーランス法第5条第2項が、給付内容の変更や受領後のやり直しを不当にさせることを禁じています。この規定は1か月以上の業務委託(更新で1か月以上になるものを含む)が対象で、1か月に満たない単発の案件には及びません。ただし、合意した仕様と違うものを納品した場合は自分の負担になります。実務では、見積書の段階で修正回数、1回の修正の定義、範囲外にあたる作業を書いておくと、その後の会話が「断るかどうか」ではなく「どちらの範囲か」に変わり、費用を積みやすくなります。
Q. レギュラー案件を突然打ち切られました。予告は必要ないのですか? A. 通算6か月以上続いている継続的業務委託であれば、フリーランス法第16条により、中途解除や不更新の際に少なくとも30日前の予告が求められます。1か月契約の更新を重ねて6か月以上になっているケースも含まれるため、月々の更新だから自由に切れる、という理解は正確ではありません。あわせて、受注側が請求したときは解除の理由を開示することも求められています。まずは請求書などで通算期間を数え、それとは別に、着手済みの分の精算について金額と支払期日を文面で確定させてください。
Q. 未払いのまま連絡が取れません。どこに相談できますか? A. フリーランス・トラブル110番(0120-532-110、平日9時30分から16時30分)が最初の窓口として使えます。厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営しており、相談も和解あっせんの手続も無料です。電話のほか、フォームからのメール相談は通常2から3営業日で弁護士から返信があり、ビデオ通話によるWeb相談も予約制で対応しています。法令違反として国へ申し出るルートもあり、報酬や取引条件に関する事項は公正取引委員会と中小企業庁、就業環境に関する事項は厚生労働省が窓口です。
Q. 下請法は名前が変わったと聞きました。受注側に何か影響はありますか? A. 下請代金支払遅延等防止法は改正され、2026年1月1日から中小受託取引適正化法(取適法)として施行されています。受注側にとっての実益は、適用範囲が広がった点です。従来の資本金基準に加えて常時使用する従業員数の基準が追加され、情報成果物作成委託・役務提供委託では従業員100人超の法人などが委託事業者に含まれます。あわせて手形払い等の禁止や、協議を適切に行わない一方的な代金決定の禁止も明示されました。取適法には遅延利息の規定があるため、対象になる取引では交渉材料が増えます。