この記事の要点
品質記録は、製品が要求を満たしたこと、決めたとおりに作業したことを後から示すための記録です。ISO 9001を担当する委員会のサイトで公開されている解説は、記録を、達成した結果の証拠として保持する文書化した情報と説明しています。
何年残すかは、ISO 9001の解説にも示されていません。取引先との取り決め、法令、製造物責任法の期間を突き合わせて自社で決め、規定に書いておきます。なお、ISO 9001の第6版(2026年版)が2026年9月16日に発行されています。
年数の目安は製造物責任法です。同法の損害賠償の請求権は、製造業者が製品を引き渡した時から10年で時効になります。人の生命・身体の被害は「知った時から5年」で、体内に蓄積する物質や潜伏期間のある被害は、損害が生じた時から数える決まりです。
取引先との取り決めや業界の法令に年数があれば、それも満たします。医療機器の記録は作成の日から5年、特定保守管理医療機器は15年(有効期間に1年を足した期間が長ければその期間)、電気用品の検査記録は検査の日から3年です。
残すのは、ロット番号で材料から出荷先までたどれる記録の組み合わせです。保存先は2か所以上に分け、書き換えのできないディスクを使うときも、定期的に読めるかを確かめます。
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品質記録とは、製品が決められた要求を満たしていたこと、決めた手順どおりに作業したことを、後から示すために残す記録のことです。製造業なら、受入・工程内・出荷の検査記録や検査成績書、測定機器の校正の記録、教育訓練の記録、不適合と処置の記録などが当たります。ISO 9001を担当する委員会(ISO/TC 176/SC 2)のサイトで公開されている解説は、記録を、達成した結果の証拠として組織が保持する文書化した情報と説明しています。
品質記録を何年残すかという保管期間は、その解説にも示されていません。年数は、取引先との取り決め、法令、製造物責任法の期間を突き合わせて自社で決め、規定に書いておきます。目安になるのが製造物責任法で、製造業者が製品を引き渡した時から10年たつと、同法による損害賠償の請求権は時効で消えます(第5条)。取引先との取り決めや業界の法令に年数があれば、それより短くはできません。出荷から10年を目安にして、取り決めと法令の年数のうち長いものに合わせる のが、年数を決める順番です。
この記事の目次見出しを押すと、その場所へ移ります
品質記録とは|要求を満たし、決めたとおりに作った証拠 ISO 9001は記録について何を求めているか 品質記録の保管期間は自社で決める。目安は3つ 医療機器・医薬品・食品・電気用品は、法令に保存の定めがある ロット番号でたどれる記録の組み合わせ 検査の画像は、長く残すものと短く残すものに分ける 電子の記録の保存先|読めること、書き換えられないこと 監査・遡及調査・リコールで記録を出すとき 残りの3項目を見る 専任者がいなくても始められる最小の形 作業手順や教育の動画は、DVD・ブルーレイにして配れる よくある質問 撮った動画は、1枚1,500円(税抜)からDVD・ブルーレイにできます。料金を見る
品質記録とは|要求を満たし、決めたとおりに作った証拠
同じ解説は、文書化した情報の使い道として、情報を伝えること、計画したことが実際に行われた証拠を示すこと、知識を共有することの3つを挙げています。品質記録が受け持つのは、2つ目の、証拠を示す役割です。手順書は内容を直しながら使い続けますが、記録はそのときの結果を書き留めたもので、普通は後から変えません。
製造の現場で残す主な品質記録と、それぞれが後から何を示すかを並べました。
記録
後から示せること
受入検査の記録
買った材料や部品が仕様に合っていた
工程内検査の記録
途中の工程で基準を満たしていた
出荷検査の記録・ 検査成績書
出荷してよいと判定した根拠と、判定した人
測定機器の校正・点検の記録
測った値を信頼してよいこと
教育訓練の記録
作業した人が必要な力量を備えていた
工程の条件・ 設備の記録
その日の設備が決めた条件で動いていた
変更の記録
人・設備・材料・方法を、いつ、誰の許可で変えたか
不適合と処置の記録
基準から外れたものをどう扱い、誰が決めたか
内部監査の記録
品質の仕組みが決めたとおりに回っていること
手順書は「維持」し、記録は「保持」する
ISO 9001の2015年版は、文書と記録をまとめて「文書化した情報(documented information)」と呼ぶようになりました。そのうえで、手順書や作業指示書のように内容を更新していくものは「維持する(maintain)」、記録のように普通は変えないものは「保持する(retain)」と書き分けています。ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されているFAQの説明です。
同じサイトの解説も、達成した結果の証拠として保持する文書化した情報を「記録(records)」としています。つまり、規格が保持(retain)を求める文書化した情報が、品質記録にあたります。
規格が保持(retain)を求める文書化した情報が、品質記録にあたる
検査成績書と検査記録の違い
検査成績書は、検査の結果を取引先に示すためにまとめた書類です。その元になるのが、社内に残す検査記録、つまり測った値そのものと、どの測定機器で、誰が、いつ測ったかの記録です。後になって成績書の数値の確かさを問われたとき、成績書だけでは答えきれません。成績書と、その数値の元になった記録を、同じロット番号で結んで残しておきます。
ISO 9001は記録について何を求めているか
2015年版の解説は、保持する記録の種類を挙げていますが、何年残すかは示していません。FAQにも年数の記述はありません。2015年版は品質マネジメントシステムの文書化のしかたに幅を持たせていて、必要な文書化した情報の量は組織ごとに決められる、というのが解説の説明です。
ISO 9001は2026年9月16日に改訂され、第6版のISO 9001:2026が発行されました(ISO、日本規格協会)。ISOは2015年版を廃止の扱いとし、認証を受けている組織は、認証の周期の中で決まる期間のうちに新しい版へ移る、と案内しています。移る時期は、認証機関に確かめてください。日本産業規格のJIS Q 9001は、2026年9月25日の時点では2015年版(2025年3月21日に追補1)のままです。
この節は、ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されている、2015年版についての解説とFAQに沿って書いています。このサイトは第三者が運営していて、ISOが直接の責任を負うものではない、と注記されています。2026年版で変わった点や、社内の規定に写すときの細かな言い回しは、使っている版の規格の本文と認証機関で確かめてください。
年数は自社で決めて規定に書く
まず、記録の種類ごとに、取引先との取り決めと、扱う製品の法令に年数がないかを確かめます。次に、製造物責任法の期間(次の節)を目安にして、何年残すかと、いつから数えるかを決めます。決めた年数と、年数を過ぎた記録の捨て方を社内の規定に書いておけば、いつ捨ててよいかで迷いません。
記録の種類ごとに、取り決め・法令・製造物責任法の期間を突き合わせる
2015年版の解説が挙げる、保持する記録
解説が、保持する文書化した情報として挙げているもののうち、製造の品質記録にかかわる主なものを訳して並べました。リリースは、製品を顧客に引き渡すために出してよいと判断することです。
場面
保持する記録
測定の資源
監視・測定に使う資源が目的に合っている証拠
力量
品質にかかわる仕事をする人の力量の証拠
仕入先・ 外注先
外部提供者の評価・選定、パフォーマンスの監視、再評価の記録
識別・追跡
トレーサビリティが要求事項のときの、一意の識別の証拠
変更の管理
製造などの変更のレビューの結果、許可した人、とった処置
リリース
合否判定基準に適合した証拠と、許可した人へのトレーサビリティ
不適合
不適合、とった処置、特別採用、処置を決めた権限者
内部監査
監査プログラムの実施と監査結果の証拠
是正処置
不適合の内容とその後の処置、是正処置の結果
解説は、ここにない記録も、適合を示すのに必要なら組織が作ってよい、としています。
ISOの規格は、それ自体は法律ではありません。ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されているQ&Aは、規格の要求に従うことが契約の一部になっていれば、その要求に従う法的な義務が生じる、と説明しています。取引先との取り決めに「ISO 9001に沿った記録の管理」が入っているなら、それは取り決めとして守るものになります。
品質記録の保管期間は自社で決める。目安は3つ
扱う製品に保存の年数を定めた法令がなければ、年数は自社で決めることになります。製造物責任法は、記録の保存を事業者に義務づける法律ではありません。消費者庁の「製造物責任法の概要Q&A」は、同法は事業者に対する規制を定めたものではなく、部品の保存期間についても規定はない、と答えています。
目安
期間と数え始め
製造物責任法(第5条)
製品を引き渡した時から10年で時効。損害と賠償義務者を知った時から3年(人の生命・身体は5年)
取引先との取り決め
品質保証の協定書や購買の仕様書に書かれた年数
業界の法令
医療機器・医薬品・食品・電気用品などの法令の定め
3つのうち、いちばん長いものに合わせます。法令の年数は「少なくともこれだけは残す」という下限で、製造物責任法の10年は、同法による損害賠償を求められうる期間の目安です。たとえば電気用品の検査記録は法令上は3年ですが、製造物責任法の10年とは別に考えます。法令の年数を満たしただけでは、責任を問われうる期間をまかなえない場合があります。
製造物責任法の10年は、引き渡した時から数える
製造物責任法第5条第1項が定める時効は2つです。被害者が損害と賠償義務者を知った時から3年行使しないときと、製造業者等がその製造物を引き渡した時から10年を経過したとき。10年の数え始めについて、消費者庁のQ&Aは、消費者の手に渡った時ではなく、製造業者等が製造物を引き渡した時、つまり流通させた時からだと説明しています。
例外は2つです。人の生命や身体を害した場合は、知った時からの3年が5年になります(第5条第2項)。体内に蓄積して健康を害する物質による損害や、一定の潜伏期間の後に症状が出る損害は、10年を「損害が生じた時」から数えます(第5条第3項)。引き渡しから10年たてば、どの請求もなくなる、というわけではありません。
10年という長さは、品質記録とも関係して決められました。消費者庁の逐条解説は、製品の通常の使用期間・耐用期間(比較的長く使う製品でも、平均的な耐用期間は10年程度、使用期間は7年程度が通常)、検査記録等の保存期間、外国の立法例などを考えて10年にした、と説明しています。2020年4月1日の改正で、この10年が時効の期間であることが条文に明記されました。年数は変わっていません。
製造物責任法は、民法の不法行為(第709条)の特則です(消費者庁)。民法の不法行為による損害賠償の請求権は、不法行為の時から20年で時効になります(民法第724条)。また、製造物責任法の「欠陥」は製品が通常備えるべき安全性を欠いていることで、安全にかかわらない品質の不具合は含みません。どの年数を自社の目安にするかは、製品の使われ方や取引先の求めを見て決め、個別の判断に迷うときは弁護士に相談してください。
数え始めは、製造日ではなく出荷の日にそろえる
製造物責任法の10年は、製品を作った日ではなく、引き渡した時から数えます。作ってから出荷するまで在庫の期間がある品目で、記録の廃棄の期限を製造日から数えると、出荷の日から数えるより早く記録がなくなります。廃棄の期限は「そのロットを最後に出荷した日から10年」のように、出荷の側の日付で決めておくと、この食い違いが起きません。そのためにも、製造ロットと出荷の記録を結びつけておく必要があります。
体内に蓄積する物質や潜伏期間のある損害は、損害が生じた時から数える
取引先との取り決めを確かめる
部品や材料を納める会社は、取引先と結ぶ品質保証の協定書や購買の仕様書に、記録の保存年数や、求められたときに出す記録の範囲が書かれていないかを確かめます。書かれていれば、その年数は取り決めとして守るものです。反対に、自社が部品を買う側なら、仕入先が記録を何年残すかを取り決めに入れておくと、遡って調べるときに上流で記録が切れるのを防げます。
検査成績書・検査記録の保管期間
2015年版の解説は、保持する記録の一つに、顧客へ引き渡すためのリリースの記録を挙げ、合否判定基準に適合した証拠と、許可した人へのトレーサビリティを含む、としています。検査成績書と、その元になった出荷検査の記録は、この記録の中心になります。年数の決め方は、ほかの品質記録と同じです。製造物責任法の10年を出荷の日から数えて目安にし、取引先の指定と、扱う製品の法令の年数を重ねます。
電気用品の届出事業者なら、検査記録の作成と保存は電気用品安全法第8条第2項の義務です。保存の期間は同法施行規則第11条で検査の日から3年と決まっていて、記録に書く事項として、次のものも同じ条文にあります。
品名と型式の区分
検査の年月日と場所
検査した人の氏名
数量、方法、結果など
どの場合も、成績書の数値の元になった測定値、測った機器、測った人の記録を同じ期間残しておかないと、後から数値の確かさを示せません。
医療機器・医薬品・食品・電気用品は、法令に保存の定めがある
扱う製品によっては、法令が記録の保存期間や、その決め方を定めています。主なものを並べました(条文はe-Gov法令検索で確かめたもの)。
製品
保存期間(法令)
医療機器
作成の日から5年。特定保守管理医療機器は15年。有効期間に1年を足した期間が長ければその期間(QMS省令第68条)
医薬品
作成の日から5年。有効期間に1年を足した期間が長ければその期間。原薬・生物由来の医薬品 などは別の期間(GMP省令第20条・第22条・第30条)
食品
使用・消費されるまでの期間を踏まえて 合理的に設定(食品衛生法施行規則 第66条の2)
電気用品
検査記録は検査の日から3年(電気用品安全法施行規則 第11条)
医療機器のQMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)は、製造販売業者等に、要求事項への適合を示すのに必要な記録を作って保管することを求めています(第9条)。記録の管理の手順に入れる事項は、次のとおりです。
識別
保管
漏えいや滅失・毀損を防ぐ安全管理
検索
保管期間と廃棄
記録が正確で、作成した時から不適切な改変がない状態を保つことも、手順に入れる事項です。記録は、読みやすく、検索できるようにしておくことも求められています。教育訓練に係る記録は5年です(第68条)。
特定保守管理医療機器は、保守点検や修理などの管理に専門的な知識と技能が要り、管理が適正でないと診断や治療に重大な影響を与えるおそれがあるとして、厚生労働大臣が指定する医療機器です。定義は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の第2条第8項にあります。
医薬品では、GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)第20条が、文書と記録の保管の期間を決めています。作成の日(手順書などは使わなくなった日)から5年で、製品の有効期間に1年を足した期間が5年より長ければ、その期間です。原薬は第22条、生物由来医薬品などは第30条に別の期間があり、特定生物由来医薬品などは有効期間に30年を足した期間です。
食品では、食品衛生法第3条第2項が食品等事業者に、仕入先の名称など必要な情報の記録を作って保存するよう努めることを求めていて、条文に年数はありません。営業者が衛生管理の実施状況を記録するときの保存期間は、食品衛生法施行規則第66条の2第3項第3号が、取り扱う食品が使用され、消費されるまでの期間を踏まえて合理的に決めるよう定めています。
自社にこうした法令が直接かからなくても、納め先がこれらの法令の対象なら、記録の年数と中身を、取引を始める段階で取り決めて確かめておきます。
ロット番号でたどれる記録の組み合わせ
トレーサビリティは、製品の履歴や行き先をたどれることです。品質記録に置きかえると、1つのロット番号から、上流の材料、工程の中の出来事、出荷した先の3方向へたどれるように、記録をつないでおくことです。2015年版の解説も、トレーサビリティが要求事項のときの、アウトプットの一意の識別の証拠を、保持する記録に挙げています。
たどる先
つなげておく記録
材料・部品
受入のロット番号 材料の証明書 受入検査の記録
工程の履歴
作業した日と人 設備と工程の条件 検査の測定値と画像
出荷した先
出荷先・出荷日・数量 出荷したロットの範囲
変更と不適合
人・設備・材料・方法の変更の記録 不適合と処置の記録
専用のシステムがなくても、どの記録にもロット番号が正しく書かれ、台帳で対応を引ければ、たどることはできます。運用を続けるための決め事は次のとおりです。
番号の体系は、年月日・ライン・連番のように、現場が見て意味の分かる形にする
手で書き写す回数を減らす。ラベルの印字、バーコード、設備からの自動の記録を使う
日報、検査の記録、出荷の記録の様式で、ロット番号を書く欄の位置を決めておく
材料のロットが製品のロットに変わる工程(投入・混合・組付けなど)は、記録を詳しく取る
材料のロットが途中で切り替わった日の扱い(新旧の両方を記録するなど)を、規定に書いておく
つながり具合は、過去の出荷を1つ選び、材料の受入まで遡ってみると確かめられます。途中で記録が切れたところが、直す場所です。
検査の画像は、長く残すものと短く残すものに分ける
外観検査の装置やカメラの画像を、合格品の分まで同じ期間残すか、種類ごとに期間を分けるかは、規定で決めておきます。画像を何年残すかもISO 9001の解説には示されていないので、法令や取り決めがなければ、分け方も自社で決められます。分ける場合の例です。
不合格になった品と、判定が境目だった品の画像は、ほかの品質記録と同じ期間残す
ロットごとに代表の画像を決め、同じ期間残す
合格した品の画像は、問い合わせに備える期間を自社で決め、その期間で入れ替える
判定の基準(しきい値)と、その設定を変えた記録は、画像より長く残す
判定の基準の記録を長く残すのは、過去の画像が示すのは「そのときの基準で合格した」ことまでだからです。いつ、どの基準で判定していたかが残っていなければ、当時の判定が妥当だったかを説明できません。基準を変えたときは、変えた日と理由、許可した人を記録しておきます。
画像を、検査装置の中の記憶装置だけに置くのは避けます。装置の故障や入れ替えのときに、一緒に失うおそれがあるためです。決めた間隔で装置の外の保存先へ移し、装置を入れ替える前には、中のデータを移し終えたかを確かめる手順を入れておきます。保存用に画像を圧縮するなら、実際の不良品の画像で試し、圧縮した後も不良を見分けられる度合いにとどめてください。
電子の記録の保存先|読めること、書き換えられないこと
品質記録は紙でなくてかまいません。ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されている解説は、文書化した情報はどんな形式・媒体でもよいとしています。媒体の例には、紙、磁気、電子式や光学式のコンピュータディスク、写真、マスターサンプルを挙げています。
紙の記録をスキャンして残すときに気を配りたいのが、ファイルの形式です。JIIMA(日本文書情報マネジメント協会)のガイドラインは、JIS Z 6017の運用例として、長く保存した後も原文どおりに見られるTIFFかPDF/Aを使うことを紹介しています。
電子で残すときに守りたいのは、読めることと、書き換えられないことです。医療機器のQMS省令は、記録を読みやすく検索できるようにしておくことと、記録が正確で、作成した時から不適切な改変がない状態を保つことを求めています。設備が独自の形式で出すログは、10年後にそれを開けるソフトが手元にあるとは限らないので、CSVなど広く読める形式でも書き出して一緒に残します。
保存先は2か所以上、1つは社外に
米国の政府機関US-CERT向けにまとめられたバックアップの手引きは、大事なファイルを元と2つのバックアップの3つ持ち、2種類の違う媒体に分け、1つは事務所の外に置く「3-2-1」を勧めています。
社内のNASは出し入れしやすい保存先ですが、RAIDは別の場所に置く複製の代わりになりません。バッファローは、RAIDを組んだ製品の中のHDDは同じ時期に寿命を迎えることが想定され、壊れたHDDを替えたあとの再構築(リビルド)中に、劣化した別のHDDが壊れることもあると説明しています。組み方の例は写真・動画の長期保存はクラウドとDVDのどっち?|3-2-1バックアップの組み方 にまとめました。
書き換えのできないディスクで残す場合
確定した記録を閉じて残す1か所として、BD-Rのように一度しか書き込めないディスクを使う方法があります。先の手引きによれば、書き換えのできないディスクのデータは、誤って消されることも、あとで元のファイルに起きた破損やマルウェアを引き継ぐこともありません。
JIIMAのガイドラインも、誤操作や意図的な上書き・消去を防ぐため、追記型の光ディスクを選ぶのが望ましいとしています。ネットワークから切り離した複製を持つ意味は、ランサムウェア対策のオフラインバックアップ|中小企業・学校・家庭のやり方とBCP で説明しています。
ただし、書き換えのできない媒体に入れたことだけで、監査や裁判で記録がどう扱われるかが決まるわけではありません。同じガイドラインは、必要とする法的要件に応じて電子署名やタイムスタンプを併用する、としています。求められる証明の方法は、取引先や認証機関、法令ごとに確かめてください。
何年もつかは、ディスクの種類と製品、置き場所の温度・湿度・光で変わります。種類ごとの目安と劣化の兆しは、CD・DVD・ブルーレイの寿命は何年か に書きました。HDD・SSD・クラウドと比べた保存先の選び方は、HDD・SSD・USBメモリ・光ディスクの寿命比較 にまとめました。
JIIMAのガイドラインが紹介するJIS Z 6017は、長期保存を「保存期間10~30年程度」とし、それを超えて残すときは媒体を移し替えて年限を延ばす考え方です。10年を超えて残す記録は、途中で移し替える前提で計画し、読むためのドライブも手元に残してください。ソニーは、記録用のブルーレイディスクの生産を2025年2月で終えています(後継機種なし)。
電子の記録で守りたいのは、読めることと、書き換えられないこと
監査・遡及調査・リコールで記録を出すとき
保存の仕組みは、記録を求められる場面から逆に考えると決めやすくなります。
認証の審査や取引先の監査では、求められた記録を、台帳から保管場所まで迷わずにたどって出せるか
納め先からの遡及調査では、指定されたロットの受入・工程・出荷の記録を、ロット番号でそろえて出せるか
事故やリコールでは、対象になるロットの範囲を、出荷の記録と工程の記録から絞り込めるか
リコールでは、どこからどこまでのロットが対象かを決めなければなりません。記録で範囲を絞れないと、対象を広めにとることになります。監査で出す電子データの扱いと媒体の選び方は、監査で提出を求められる記録 にまとめています。
呼び出しの練習をしておく
年に一度、内部監査や品質の会議の場で、実際に記録を呼び出してみます。
2年前のある月に出荷したロットを1つ選び、出荷検査の記録と検査成績書を出す
そのロットに使った材料の受入の記録と、材料の証明書を出す
同じ期間の工程の条件の記録と、長く残すと決めた検査の画像がそろうかを見る
途中で出せなかったところが、台帳の抜けや、ロット番号のつながりが切れている場所です。練習の結果と直したことを残しておけば、それ自体が内部監査の記録になります。
専任者がいなくても始められる最小の形
品質保証の専任者を置けない会社でも、次の順で形を作れます。
検査の記録、日報、出荷の記録に、例外なくロット番号を書く
記録の種類ごとに、残す年数と数え始めの日(出荷の日など)を決め、社内の規定に書く
月ごとに、その月の検査の記録、スキャンした成績書、設備のログ、長く残す画像を1つのフォルダにまとめて閉じる
閉じたフォルダを、社内の保存先と社外の保存先の2か所以上に置く
台帳に、保存先や媒体の番号、収めた範囲(年月・ロット)、置き場所、確かめた日を書く
年に一度、実際にファイルを開いて確かめ、年数を過ぎた分は、廃棄したことを記録してから消す
作業した人の氏名などが入った記録は、個人情報として扱います。媒体の保管から廃棄までの手順は、個人情報の入ったUSBメモリ・DVDの管理|保管・持ち出し・紛失・廃棄の決まり にまとめました。
作業手順や教育の動画は、DVD・ブルーレイにして配れる
作業手順や安全教育、技能の伝承のために社内で動画を撮っているなら、拠点や新しく入った人に配るDVD・ブルーレイにする方法があります。
当社(ディスクメーカー・大阪市北区梅田)は、動画ファイルからプレーヤーで再生できるDVD・ブルーレイを1枚から作る小さな店です。自社で撮影した動画を上げたギガファイル便のURLを注文フォームに貼っていただければ、再生できる形に組み立てて書き込み、実際のプレーヤーで再生を確かめてから、ケースに入れて発送するか、店舗でお渡しします。
教材にするときの考え方は、講演会・セミナーの映像をDVDにして配る方法|講師の了解・資料の文字・教材の管理 に書きました。テレビで見る映像のディスクと、記録のファイルを入れるデータのディスクの違いは、データDVDと映像DVDの違い にまとめました。
よくある質問
Q1. 品質記録とは何ですか? 製品が決められた要求を満たしていたこと、決めた手順どおりに作業したことを、後から示すために残す記録です。ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されている解説は、記録を、達成した結果の証拠として保持する文書化した情報と説明しています。製造業では、受入・工程内・出荷の検査記録や検査成績書、測定機器の校正の記録、教育訓練の記録、不適合と処置の記録などが当たります。
Q2. 品質記録の保管期間は、何年にすればいいですか? 年数はISO 9001の解説にも示されていないので、自社で決めて社内の規定に書きます。目安になるのは、製品を引き渡した時から10年という製造物責任法の時効の期間です。取引先との取り決めや、医療機器・医薬品・食品・電気用品などの法令に年数や決め方があれば、それも満たす年数にします。
Q3. ISO 9001では、記録の保存期間は何年ですか? ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されている2015年版の解説は、保持する記録の種類を挙げていますが、年数は示していません。取引先との取り決め、法令、製造物責任法の期間を突き合わせて自社で決め、規定に書いておきます。ISO 9001の第6版が2026年9月16日に発行されたので、認証を受けている会社は、新しい版へ移る時期と、使う版の要求を認証機関と確かめてください。
Q4. 検査成績書は何年保管すればいいですか? 一律の年数はなく、ほかの品質記録と同じ考え方で決めます。製造物責任法の10年を出荷の日から数えて目安にし、取引先の指定と、扱う製品の法令の年数を満たします。電気用品の検査記録は、電気用品安全法施行規則で検査の日から3年です。成績書の数値の元になった測定値や、測った機器と人の記録も、同じ期間残します。
Q5. 製造物責任法の10年は、いつから数えますか? 製造業者等が製品を引き渡した時からです(第5条第1項第2号)。消費者庁は、消費者の手に渡った時ではなく、製品を流通させた時から数えると説明しています。体内に蓄積する物質による損害や、潜伏期間の後に症状が出る損害だけは、損害が生じた時から数える決まりです。被害者が損害と賠償義務者を知った時から3年(人の生命・身体は5年)行使しない場合も、時効になります。
Q6. 検査成績書や品質記録(トレーサビリティ)に、顕微鏡の観察・測定データは使えますか? 使えます。ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されている解説が引くISO 9000の説明でも、客観的な証拠は観察、測定、試験などで得られるものです。記録にするときは、どの製品・ロットを、いつ、誰が、どの顕微鏡と条件で観察・測定したかを結びつけ、画像や測定値は元のファイルのまま残します。2015年版の解説は、保持する記録の一つに、監視・測定に使う資源が目的に合っている証拠を挙げているので、顕微鏡の校正や点検の記録もそろえてください。取引先が測定の方法や様式を指定していれば、それに合わせます。
Q7. 紙の品質記録をスキャンして、電子で残してもいいですか? 記録の媒体は紙に限られません。ISO/TC 176/SC 2の委員会のサイトで公開されている解説は、文書化した情報はどんな形式・媒体でもよいとし、媒体の例に紙、磁気、光学式のディスク、写真などを挙げています。JIS Z 6017の運用例で、長く見られる形式として紹介されているのはTIFFかPDF/Aです。法令で保存が義務づけられた記録は、電子で保存できるかと、その条件を法令ごとに確かめます。電気用品の検査記録は、必要なときにすぐ画面に表示できることを条件に、電子で保存できます。
Q8. 保管期間を過ぎた記録は、捨ててもいいですか? 自社で決めた期間と、法令・取り決めの期間をすべて過ぎていれば、規定に従って廃棄できます。廃棄の手順も、年数と一緒に規定に書いておくものです。問い合わせや係争が続いている製品の記録は、期間を過ぎていても残しておき、いつ、何を、どう廃棄したかは記録に残します。氏名などの個人情報を含む記録は、消し方にも気をつけてください。
Q9. 検査装置の画像は、すべて残す必要がありますか? 画像を何年残すかもISO 9001の解説には示されていないので、法令や取り決めがなければ自社で決めます。不合格品と判定が境目だった品、ロットごとの代表の画像はほかの品質記録と同じ期間、合格品の画像は短い期間で入れ替える、と分ける方法があります。判定の基準(しきい値)と、それを変えた記録は、画像より長く残してください。
Q10. BD-Rに入れておけば、改ざんされていない証拠になりますか? BD-Rのように一度しか書き込めないディスクのデータは、誤って消されることがなく、あとで元のファイルに起きた破損も引き継ぎません(US-CERT向けの手引き)。ただ、媒体を選んだだけで、監査や裁判での扱いが決まるわけではありません。JIIMAのガイドラインは、法的要件に応じて電子署名やタイムスタンプを併用するとしています。ディスクの寿命は製品と置き場所で変わるので、ほかの保存先にも複製を置きます。
参考にした公式の情報
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法令の条文や規格は、改正で変わります。この記事は、2026年9月25日時点でe-Gov法令検索に載っている条文と、各機関の公式ページの記載をもとにしたものです。個別の製品や契約の判断に迷うときは、所管の行政庁や認証機関、弁護士などの専門家に確かめてください。
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