この記事の要点
監査で確認されるのは内容の正しさだけでなく、記録された時点から変わっていないこと であり、この二つはそれぞれ別の方法で示す必要があります。
提出用のデータは抽出した時点で保管用から切り離して凍結 しておくと、監査人が指摘した数字と手元の数字が食い違う事故を避けられます。
Windowsはcertutil -hashfile 、macOSはshasum -a 256 を使えば、渡したファイルが同じものかどうかを一行の値で照合できます。
共有フォルダやUSBメモリは権限のある人が上書きできるため、追記型のDVD-RやBD-R のように後からファイル単位で書き換えられない媒体が提出用途に向きます。
提出したら終わりではなく、受け渡し台帳に返却期限と廃棄日まで記録 しておくことで、次回監査での二重作業と個人情報の滞留を同時に防げます。
監査人から「該当期間のデータを出してください」と言われて、共有フォルダをそのままZIPにして渡す。多くの現場がここで止まっています。困るのは次の一言が来たときです。「これは当時のままですか」。
この質問に答えるには、データの中身とは別に、そのデータが記録された時点から変わっていないことを示す仕組みが要ります。そして仕組みは、提出の当日に用意できるものではありません。抽出する前の段階で決まっています。
この記事では、監査対応の担当者が実際に手を動かせる粒度で、提出用データの切り出し方、同一性を示すハッシュ値の取り方(コマンドまで書きます)、媒体ごとの向き不向き、映像記録という厄介なケースの扱い、そして返却・廃棄までの設計を順に整理します。
監査で問われるのは内容と、記録時点から変わっていないことの二つ
監査人が電子データを受け取ったとき、頭の中では二つの問いが同時に走っています。一つは「この内容は事実か」。もう一つは「このファイルは記録された時点から変わっていないか」です。前者は残高照合や証憑突合で確かめますが、後者は内容をいくら眺めても分かりません。別の仕掛けが要ります。
後者を支えるのが監査証跡です。監査証跡とは、誰が、いつ、どんな操作をしたかを時系列で追跡できるようにした記録を指します(出典:カミナシ「監査証跡とは?」)。取引そのものの記録ではなく、記録に対して行われた操作の記録である点が要点です。
電子ファイルの真正性が争われる場面では、デジタル署名やタイムスタンプによって原本性を確保する方法のほか、ハッシュ値を提供して照合する方法、他の痕跡情報と齟齬がないかを確認する方法が挙げられています(出典:BUSINESS LAWYERS「電子ファイルを裁判の証拠として扱ううえでの留意点」)。裁判での証拠の話ですが、監査での提出物にもそのまま応用できる考え方です。
法令側でも「変わっていないこと」の担保方法は選択制になっている
国税関係の電子取引データを保存する場合、改ざん防止措置として次の四つのいずれかを行うこととされており、どれを選ぶかは保存義務者の任意です(出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」)。授受の方法に応じて複数を使い分けることも認められています。
措置
内容
1
タイムスタンプが付された後のデータを授受する
2
授受後、速やかにタイムスタンプを付す
3
訂正・削除を行った記録が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムで授受・保存する
4
正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を備え付けて運用する
注目したいのは3番です。「訂正・削除ができないシステム」という選択肢が、法令の側でもきちんと並んでいます。あとから書き換えられない状態にしておくことは、履歴を残すことと同じ土俵の対策として扱われている、ということです。この発想は監査提出物にもそのまま持ち込めます。
なお同法では、保存したデータを日付・金額・取引先で検索できることも求められています(出典:国税庁の電子帳簿保存法特設サイト掲載資料)。提出用のフォルダを作るときに、この三つで引ける状態にしておくと、監査人からの追加依頼にも同じ構造で応じられます。
提出用と保管用は分けて考える|抽出した時点で凍結する
最も多い事故は、監査人が見ているデータと、社内で動き続けているデータが同じ場所にあることです。監査の途中で誰かが月次を締め直す。仕訳を1本修正する。フォルダに新しいファイルを追加する。すると監査人が指摘した数字と、こちらが画面で見ている数字が合わなくなります。原因を突き止めるのに半日かかり、しかも「管理が甘い」という印象だけが残ります。
解決策は単純です。保管用と提出用を物理的に分けます。
保管用 :原本が置いてある場所。会計システム、基幹システム、共有フォルダ。業務が続く以上、更新され続ける。
提出用 :ある時点で切り出したコピー。切り出したあとは誰も書き込まない。
切り出しの手順
順番を決めておくと、担当者が代わっても同じものが出ます。
依頼内容を文章に起こす(対象期間、対象部門、対象勘定、除外するもの)。口頭依頼のままにしない。
その条件でシステムから抽出し、提出用フォルダにコピーする。抽出条件はメモではなくファイルにして同じフォルダへ入れる。
提出用フォルダに書き込み権限を持つ人を、担当者一人に絞る。共有フォルダ上に置くなら読み取り専用にする。
ファイル一覧とハッシュ値を作る(次の章で手順を書きます)。
提出する。以後、このフォルダには追加も修正もしない。
追加依頼が来たら、既存の提出用フォルダに足すのではなく、第2弾として別フォルダを作ります。「第1回提出分」「第2回提出分」と番号を振り、どの時点で何を出したかを日付とセットで残します。監査は数週間から数か月続きますし、翌年も同じ監査人が来ます。前回何を出したかが残っていないと、毎年ゼロから抽出条件を組み立て直すことになります。
抽出条件を書き残す価値は、翌年に出る
抽出条件書には、システム名とバージョン、検索に使ったパラメータ、実行日時、実行者を書きます。1行でも構いません。「販売管理システムVer.○、伝票日付 2025-04-01〜2026-03-31、区分=売上のみ、取消伝票を含む、2026-05-12 14:20 経理課○○が実行」。これがあると、監査人から件数の食い違いを指摘されたときに、条件の違いなのかデータの違いなのかを即座に切り分けられます。
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ハッシュ値を取れば「渡した時と同じファイル」を一行で示せる
ハッシュ値は、ファイルの中身から計算される固定長の文字列です。中身が1バイトでも違えば、まったく別の値になります。逆に言えば、提出時に控えたハッシュ値と、後日そのファイルから計算した値が一致すれば、実務上は同一のファイルとみなせます。追加のソフトも費用もいりません。OSに最初から入っているコマンドで取れます。
Windowsの場合
コマンドプロンプトで次のように実行します。構文は certutil [options] -hashfile InFile [HashAlgorithm] です(出典:Microsoft Learn「certutil」)。
certutil -hashfile C:\audit\shiwake_2025.csv SHA256
フォルダ内の全ファイルをまとめて取りたい場合は、for %f in (*.csv) do certutil -hashfile "%f" SHA256 のように回して、出力をテキストファイルに落とします。
macOS・Linuxの場合
ターミナルで shasum を使います。-a で アルゴリズムを指定します。
1ファイル:shasum -a 256 shiwake_2025.csv
フォルダ内をまとめて一覧化:shasum -a 256 * > checksums.txt
あとで照合:shasum -a 256 -c checksums.txt
3つ目の -c が実務では効きます。返却されたディスクやUSBを受け取ったとき、このコマンドを1回叩けば、全ファイルについて OK か FAILED かが並んで出ます。目視で突き合わせる必要がありません。
ハッシュ値が示せること、示せないこと
ハッシュ値が示すのは「二つのファイルの中身が同じかどうか」だけです。「そのファイルがいつ作られたか」は示しません。日付まで担保したい場合は、タイムスタンプのサービスを使うか、提出物一覧を書面にして受領印をもらう、といった別の手段を重ねる必要があります。
また、ハッシュ値を提出物と同じ媒体に入れただけでは、両方を書き換えられたときに検知できません。ハッシュ値の一覧は、提出物とは別の経路で残すのが基本です。提出書に印字して手渡しする、メール本文に貼って送る、社内の台帳に記録する。三つとも並行してやっても手間は数分です。
書き換えできる媒体の弱点|上書きできる場所に提出物を置かない
提出用フォルダを凍結したつもりでも、置き場所が書き換え可能なら、凍結は運用ルールでしかありません。ルールは破られます。媒体ごとの性質を、提出用途という観点だけで整理します。
媒体
提出後に中身が変わりうるか
実務上の注意点
共有フォルダ・ファイルサーバ
変わりうる
権限のある人が上書き・削除できる。バージョン履歴を持つ製品でも、管理権限があれば履歴ごと削除できる構成があります
USBメモリ・外付けHDD
変わりうる
接続した相手先の環境でも書き込める。紛失・持ち出し記録の問題も伴う
クラウドの共有URL
設定次第で変わりうる
共有設定の変更や有効期限で、後日アクセスできなくなることがある
追記型の光ディスク(DVD-R、BD-R)
ファイル単位の上書き・削除はできない
物理的な破損・紛失には別途対策が要る
クラウド共有URLは、入稿や日常のやり取りでは便利ですが、監査提出物としては期限という弱点があります。監査調書は数年保管されますから、その間ずっとリンクが生きている前提は置きにくい。監査人側が期中に確認したいときにリンクが切れている、という状況は避けたいところです。
追記型ディスクが提出用途に向く理由
DVD-RやBD-Rといった追記型のディスクは、記録層に一度書き込むと、その部分を元の状態に戻すことができません。ファイルを開いて上書き保存する、という操作が成立しないのです。書換型(RW、RE)とは性質が異なります。
これは、前章で見た改ざん防止措置の3番、「訂正・削除ができないシステム」と同じ発想の物理版だと考えられます。運用ルールで「触らないでください」とお願いするのではなく、触れない状態にしてから渡す。監査人にとっても、受け取った時点の状態がそのまま残っているという前提で調書を組めます。
もちろん万能ではありません。ディスクそのものを差し替えられたら意味がありませんし、割れれば読めません。だからこそ、盤面に通し番号と提出日を印刷しておく、ハッシュ値の一覧を別経路で残す、といった組み合わせが要ります。媒体は一つの層であって、それだけで完結させるものではありません。
映像・音声の記録を求められたら、媒体を変えたほうが早い
監査で映像の提出を求められる場面は増えています。防犯カメラの録画、実地棚卸の様子、設備点検の作業記録、研修受講の記録、品質管理の工程動画。これらはテキストデータとは扱いが根本的に違います。
まず容量です。数時間分の映像は簡単に数GBから数十GBになります。共有URLでの受け渡しは、監査人側のダウンロードに時間がかかりますし、監査法人や内部監査部門の端末では、外部クラウドからのダウンロードや外部ストレージの接続が制限されていることがあります。「送ったのに見られない」という往復が発生しがちです。
次に再生環境です。監視カメラの独自形式や、編集ソフトの中間ファイルのままでは、相手のPCで開けないことがあります。ファイルをそのままディスクにコピーしただけのデータディスクも、パソコンでは読めても一般的なプレーヤーでは再生できません。再生できる形にする組み立て(オーサリング)が必要です。
ディスクにすると解決すること
相手の回線やダウンロード制限に左右されない。手渡しでも郵送でも同じものが届く。
追記型を選べば、渡したあとに中身が書き換わらない。
盤面に「○○監査 提出用 第1号 2026-05-12」と印刷でき、ケースの背表紙で棚に並べたまま識別できる。
チャプターを切っておけば、「3月10日の点検」「4月2日の点検」と頭出しできる。監査人が該当箇所を探す時間が減ります。
メニュー画面を付ければ、複数の記録を1枚にまとめても迷わない。
ディスクメーカー(株式会社プラスカルチャー運営)では、動画データからDVD・Blu-rayを制作しています。1枚1,500円からで、1枚から注文できます。再生できる形式への組み立て(オーサリング)は料金に含まれており、盤面へのレーベル印刷、ケースと背表紙の印刷、メニュー画面の作成、チャプター分けにも対応しています。
入稿はダウンロードできる共有URLで受け付けています。ギガファイル便、Google Drive、Dropbox、OneDrive、WeTransfer、firestorage などが使えます。社外に出せないデータかどうかは事前に社内で確認してください。
監査は日程が動きます。納期は次のとおりです。
納期
追加料金
条件
通常便
—
—
お急ぎ
+1,500円
15時までの注文・入稿で翌々日までに発送
特急
+3,000円
15時までの注文・入稿で翌日発送
当日店舗お渡し
+3,500円
平日12時までの注文・入稿、大阪市北区の店舗で受け取り
なお、社名が似ていますが、米国の Disc Makers 社とは別の事業者です。
提出時に添える情報|一覧・抽出条件・文字コードの三点
データだけを渡すと、監査人は必ず質問を返してきます。最初から添えておけば、その往復が消えます。添えるものは三つです。
1. 提出物一覧
表にして、ファイル名、内容、対象期間、件数(行数)、ハッシュ値を並べます。件数を書いておくと、相手が取り込んだあとの行数と突き合わせられ、途中で欠落していないかがその場で分かります。
2. 抽出条件書
前述のとおり、システム名、期間、絞り込み条件、除外したもの、実行日時、実行者。とくに「除外したもの」を明記してください。取消伝票を除いたのか含めたのか、社内取引を消したのか。ここを書かずに出すと、合計値の差異調査が長引きます。
3. 読み方の情報
CSVで渡すときは、文字コードと区切り文字を書きます。UTF-8なのかShift_JISなのか、BOMの有無、区切りはカンマかタブか。ここが伝わっていないと、開いた瞬間に文字化けした状態でやり取りが始まります。
会計ソフトから出力される仕訳データは、製品によって形式が揃っていません。弥生会計は拡張子が .txt、TKC FXシリーズは .slp、それ以外は .csv というように分かれています(出典:invox受取請求書「会計ソフトごとの仕訳データの出力内容」)。相手が取り込む前提のツールに合わせて出せるかどうかは、事前に一言確認する価値があります。
監査法人側は、入手したデータをExcel、Access、あるいはACL AnalyticsやIDEAといった専用ツールに取り込んで分析するのが一般的です(出典:三恵ビジネスコンサルティング「監査で使うデータ分析ツール」、PwC Japanグループ「会計監査支援(システムレビュー/CAAT)」)。取り込みやすい形で出すこと自体が、監査対応の工数を減らします。PDFで固めた帳票より、素直なCSVのほうが喜ばれる場面は多いはずです。
加えて、システム固有のコードを使っている列(部門コード、取引区分コード、ステータス)は、コード表を1枚付けます。これがないと、監査人は意味不明な数値の列を前にして、一つずつ質問してくることになります。
受け渡しと返却・廃棄を一枚の台帳で管理する
提出はイベントではなく、貸出です。出したものは、いずれ戻ってくるか、廃棄されるかのどちらかになります。ここまでを一枚の台帳で管理します。列は次のとおりです。
通し番号(提出物にも同じ番号を印字・印刷する)
提出日、提出先の組織名と担当者名
媒体(ディスク/USB/共有URL/紙)
提出物一覧のファイル名とハッシュ値、または一覧書の保管場所
受け渡し方法(手渡し・郵送の追跡番号・URL発行日時)
受領の記録(受領印、メールの返信、システムのログ)
個人情報の有無
返却期限、返却日、返却時のハッシュ照合結果
廃棄予定日、廃棄日、廃棄方法、廃棄証明の有無
受け渡しの経路について
パスワード付きZIPを送り、直後に同じメールアドレス宛にパスワードを送る方式は、経路が破られた場合に両方が同時に漏れるため意味をなさないという指摘があります。監査提出物のように個人情報や機微な取引情報を含むものは、経路を分ける(媒体は手渡し、鍵は別の連絡手段)ほうが安全性は高いと考えられます。手渡しできる距離なら、媒体を直接渡してしまうのが結局いちばん早い、という判断も現実的です。
返却・廃棄まで設計する
個人情報を含むデータを渡したまま行方を追えなくなるのは、監査対応そのものより大きな問題になり得ます。台帳に返却期限を入れ、期限が来たら担当者に通知が飛ぶようにしておきます。カレンダーの予定を1本入れるだけでも機能します。
廃棄の方法 も決めておきます。光ディスクは、専用のディスクカッターやシュレッダーで記録層ごと物理的に破壊するのが確実です。USBメモリは、削除しただけのデータが復元される可能性があるため、物理破壊または規格に沿った消去処理を行い、その記録を残します。廃棄を外部業者に委託する場合は、廃棄証明書を受け取り、台帳の該当行に紐づけます。
なお、提出用に切り出したコピーの保管期間は、原本の保管期間と揃えて考えます。法人の帳簿書類は、受領した事業年度から原則として7年間の保存が求められます(出典:OBC「電子帳簿保存法における事務処理規程とは?」)。自社に適用される具体的な年数は、税務・法務の担当者や顧問税理士に確認してください。
日頃の運用で決めておくこと|監査の3か月前では間に合わない
ここまでの手順は、監査の通知が来てから整えると、抽出だけで数日を失います。平時に決めておけるものを挙げます。
命名規則
提出物のファイル名を「監査種別_対象期間_内容_提出回_YYYYMMDD」の形に統一します。naibu_2025FY_shiwake_01_20260512.csv のように。日付は年4桁から始めると、フォルダ内で自然に時系列に並びます。担当者ごとに命名が違うと、翌年の担当者が「これは何の第2弾なのか」を解読するところから始めることになります。
訂正・削除のルールを文書にする
電子帳簿保存法の事務処理規程では、データの訂正削除を原則禁止としたうえで、やむを得ず行う場合の訂正削除日、理由、内容、処理担当者の氏名を記録・保存すること、および管理責任者と処理責任者を明確にすることが求められます(出典:OBC「電子帳簿保存法における事務処理規程とは?」)。国税庁はサンプルを公開しており、目的、適用範囲、管理責任者、対象データ、保存場所と年数、運用体制といった項目で構成されています。
この規程は税務のために作るものですが、中身は監査対応でもそのまま使えます。監査人に「訂正・削除はどう管理していますか」と聞かれたとき、規程と運用実績を出せるかどうかで、その後の質問の深さが変わります。
年1回の棚卸し
次の三つを、決算後などタイミングを決めて点検します。
過去に提出した媒体で、返却も廃棄もされていないものが残っていないか
提出用に使っている共有フォルダの権限が、想定外の人まで広がっていないか
過去のディスクやUSBが読めるか(数枚を抜き取りで確認する)
三つ目は見落とされがちです。光ディスクの記録面は、直射日光や高温多湿で劣化が進むと考えられます。ケースに入れて、直射日光の当たらない常温の場所に立てて保管する。棚卸しのときに数枚を抜き取って読み出せるか確かめておけば、必要になった当日に読めないという事態を減らせます。
誰が答えるかを決める
最後に、監査人からの追加依頼を受ける窓口を一人に決めます。複数人が別々に抽出して渡すと、同じ依頼に対して条件の違うデータが二種類届き、監査人は差異の説明を求めてきます。窓口一本化は、システムの整備よりも先に、今日決められることです。
よくある質問
Q. 監査でデータの提出を求められたら、どの形式で渡すのがよいですか
A. 監査人が分析ツールに取り込む前提であれば、PDFで固めた帳票よりCSVなどの素のデータ形式のほうが扱いやすい場面が多いです。会計ソフトによって出力形式は分かれており、弥生会計は拡張子が.txt、TKC FXシリーズは.slp、それ以外は.csvとなります。渡す前に、想定している形式で問題ないか、また文字コードがUTF-8とShift_JISのどちらがよいかを一言確認しておくと、取り込み時の文字化けや再送のやり取りを避けられます。
Q. 提出したデータが改ざんされていないことは、どうやって示せばよいですか
A. 方法は大きく三つあります。一つ目はハッシュ値です。提出時に各ファイルのハッシュ値を控え、提出物一覧に並記しておけば、後日同じ値が出るかどうかで同一性を照合できます。二つ目はタイムスタンプやデジタル署名で、日付まで含めて担保できます。三つ目は媒体そのものを書き換えられないものにする方法で、追記型のDVD-RやBD-Rはファイル単位の上書きや削除ができません。一つに頼らず、ハッシュ値の記録と媒体の選択を組み合わせるのが実務的です。
Q. ハッシュ値は具体的にどうやって取りますか
A. OSに最初から入っているコマンドで取れます。Windowsはコマンドプロンプトで certutil -hashfile ファイル名 SHA256 と実行します。macOSやLinuxはターミナルで shasum -a 256 ファイル名 です。フォルダ内をまとめて一覧にするなら shasum -a 256 * > checksums.txt とし、後日の照合は shasum -a 256 -c checksums.txt を一度実行するだけで、全ファイルの一致・不一致が並んで表示されます。専用ソフトも費用も不要です。
Q. USBメモリで渡してもよいですか
A. 渡すこと自体は可能ですが、提出用途としては弱点があります。受け取った側の環境で書き込みができてしまうため、渡した時点の状態が保たれている保証がありません。紛失時の影響も大きく、削除したデータが復元される可能性も残ります。どうしても使う場合は、提出物一覧とハッシュ値を別経路で残し、返却期限を台帳に記録し、返却後にハッシュ照合を行ってから消去処理をしてください。書き換えられない媒体を選べるなら、そちらのほうが説明が楽になります。
Q. パスワード付きZIPを送って、別メールでパスワードを送る方法は問題ありませんか
A. 同じメールアドレス宛にパスワードを送る方式は、経路が破られた場合に両方が同時に漏れるため意味をなさない、という指摘があります。監査提出物は個人情報や機微な取引情報を含むことが多いため、媒体と鍵の経路を分けるほうが安全性は高いと考えられます。媒体は手渡しや書留で届け、閲覧に必要な情報は電話や別のメッセージ手段で伝える、といった分離が現実的です。手渡しできる距離なら、媒体を直接渡してしまうのが結局いちばん確実です。
Q. 監査用に提出したデータのコピーは、いつまで保管すればよいですか
A. 提出用に切り出したコピーの保管期間は、原本の保管期間に揃えて考えるのが基本です。法人の帳簿書類は、受領した事業年度から原則として7年間の保存が求められます。ただし適用される年数は書類の種類や自社の状況によって変わるため、具体的な年数は税務・法務の担当者や顧問税理士に確認してください。あわせて、提出物一覧、抽出条件書、受け渡し台帳もセットで同じ期間残しておくと、翌年以降の監査で抽出条件を組み直す手間が消えます。
Q. 防犯カメラの映像を監査で提出することになりました。どう渡すのがよいですか
A. 映像は容量が大きく、共有URLでの受け渡しはダウンロードに時間がかかります。監査法人や内部監査部門の端末では外部クラウドからのダウンロードが制限されていることもあり、送ったのに見られないという往復が起きがちです。DVDやBlu-rayにして手渡しまたは郵送すれば、相手の回線環境に左右されません。追記型のディスクを使えば渡したあとに中身が変わらず、盤面に提出番号と日付を印刷しておけば、監査調書との紐づけも簡単になります。
Q. 動画ファイルをDVDにコピーするだけでは提出物として使えませんか
A. ファイルをそのままコピーしたディスクは、パソコンでは読めても、一般的なDVDプレーヤーでは再生できないことがあります。再生できる形式に組み立てる作業(オーサリング)が必要です。あわせてチャプターを切っておくと、監査人が該当日時の記録を頭出しでき、確認にかかる時間が短くなります。ディスクメーカーではオーサリングを料金に含めており、1枚1,500円から、1枚から注文できます。チャプター分けやメニュー画面の作成、盤面へのレーベル印刷にも対応しています。