この記事の要点
- 体育館で録った声が聞き取りにくいのは、広い部屋の響きと、マイクまでの距離のためです。いちばん効くのは、マイクやレコーダーを話す人や合唱に近づけることです。
- 保護者は学校の撮影の決まりの範囲で撮り、カメラの録音レベルや外部マイクで補います。学校や係が記録するなら、レコーダーを前に置き、放送設備から音をもらえるかを先に学校に聞きます。
- 録音レベルは、リハーサルでいちばん大きな音に合わせて決め、本番中は触りません。ソニーはレコーダーのピークレベルメーターの−12dBを目安にしています。
- 録り込んだ響きや音割れは、あとの編集で直せる範囲が限られます。響きを減らす機能は使える機種や条件が限られ、ひずんだ音は音量を下げても元に戻りません。
- 家で見るために撮るなら曲の手続きは要りませんが、合唱や校歌、市販のCDのBGMが入った映像をDVDにして配るなら、曲の手続きが要ります。
卒業式の映像を見返したら、呼びかけの言葉が語尾から崩れて聞こえ、合唱は歌っているのは分かるのに歌詞が聞き取れない。体育館で聞いていたときは、ちゃんと聞こえていたはずなのに。保護者として撮った家族にも、記録を任された先生や係にも起こることです。
声が聞き取りにくくなるのは、体育館という広い部屋の響きと、マイクまでの距離のためです。当日にできることでいちばん効くのは、マイクやレコーダーを、話す人や合唱に近づけること。式辞や呼びかけを放送設備のマイクで拡声しているなら、その音を録音用にもらえるかを先に学校に聞きます。録音レベルはリハーサルで決めて本番中は触らず、響きや音割れは、あとで直すより録る段階で防ぎます。
撮影してよい場所や、レコーダーを置けるかどうかは、学校が決めることです。録った映像をDVDにして配るなら、合唱や校歌の曲の手続きも要ります。卒業記念DVD全体の段取りは卒業記念DVDの作り方にまとめたので、録る段階から配るまでを続けて確かめられます。
体育館で録った呼びかけや合唱が、聞き取りにくいのはなぜか
体育館は、体育の授業だけでなく、卒業式のような儀式にも使う広い部屋です。文部科学省の小学校施設整備指針は、儀式的行事などにも使う屋内運動場(体育館)について、音響機器や吸音・反射板の設置と、空間の形状に十分配慮して計画するよう求めています。面積の広い部屋に、十分な吸音性をもつ材質を使うことが重要だという記述もあります。どのくらい響くかは、建物によって違います。
話した声は、口からまっすぐマイクに届く音のほかに、床や壁、天井で跳ね返った音としても遅れて届きます。この跳ね返りが重なったものが、響き(反響)です。言葉のあとに響きが残ると、次の言葉と重なって聞き取りにくくなります。録音には、マイクの位置に届いた音が、響きも周りの物音も含めて、そのまま残ります。
そこに距離が加わります。マイクが話す人から遠いほど、声は小さく入り、響きや周りの音に埋もれやすくなります。オーディオテクニカは、マイクと口元の距離が離れすぎていると、声を拾うために入力を増幅する「ゲイン」を上げることになり、声だけでなく周囲の音も大きくなって、雑音が目立ちやすくなると説明しています。保護者席の後ろから撮ったビデオで声が遠く聞こえるのも、この距離のためです。
会場で耳に聞こえた感じと、録れた音が同じとは限りません。ソニーはレコーダーの説明書で、録音の前にためし録りをするか、録音中の音をモニターしながら録るよう勧めています。置き場所や設定は、リハーサルで録った音をイヤホンやヘッドホンで聞いて決めます。
いちばん効くのは、マイクを話す人と合唱に近づけること
当日に体育館の響きを変えることはできません。変えられるのは、マイクと、話す人や合唱との距離です。ソニーはリニアPCMレコーダー PCM-A10 のヘルプガイドで、会議の録音なら発表者に近い場所で録り、授業や講演会ならマイクを音源の方向に向けて録るよう案内しています。卒業式でも考え方は同じで、近づける方法は主に3つあります。
| 近づけ方 |
向いている場面 |
レコーダーを 前に置く |
合唱と、マイクを 使わない呼びかけ。 置く場所は 学校と決める。 |
放送設備の 音をもらう |
式辞や祝辞と、 マイクを使う呼びかけ。 |
カメラに 外部マイク |
保護者の撮影。 声のする方へ向ける。 距離は変わらない。 |
置き場所で気をつけることも、メーカーの説明にあります。
- ひずむときは離す。ソニーは、大きな音でひずむ場合は距離を離して録音するよう書いています
- 揺れるものの上に置かない。ピアノの上に置くと、弾くときの振動も録音されます(ソニー)。オーディオテクニカも、振動はマイクスタンドを通じて伝わり、「ゴソゴソ」「コツコツ」という低い雑音になると説明しています。机の上に置くなら、ハンカチなどの上に乗せると、机から伝わる振動音を減らせます(ソニー)
- 空調の吹き出し口の近くを避ける。エアコンや扇風機の音を拾っていた例を、オーディオテクニカが挙げています
- 録音中は本体に触れない。手が当たったり、こすったりした音も、雑音として録音されることがあります(ソニー)
置いてよい場所と、置いておける時間、回収のしかたは、学校が決めることです。通路や出入り口をふさがない場所を、先生と相談して決めます。前に置くレコーダーの録り方は、学校や係が記録する場合の節に書きました。
保護者が撮るとき|席・カメラの設定・外部マイク・スマホ
保護者がどこから撮ってよいか、三脚を使えるか、録音機を置けるかは、学校が決めることです。決まりは学校ごとに違い、前の年と同じとは限りません。卒業式の案内で確かめ、書かれていないことは学校に聞いてから決めます。撮影を控えるよう求められた場面は撮りません。
席は、決まりの範囲で声のする方に近く
撮ってよい場所の中で選べるなら、呼びかけの列や、合唱の並ぶ場所に近い側を選びます。映像はズームで大きく写せても、マイクと子どもたちの距離は変わりません。入場から退場までの流れと、わが子が呼びかけや合唱でどこに立つかを事前に聞いておくと、撮る位置を決めやすくなります。
保護者席で撮ると、周りの話し声や拍手、撮っている自分の声も録音に入ります。撮っているあいだは声を出さず、家族との会話は撮っていないときにします。
ビデオカメラの音の設定
ソニーのハンディカム(FDR-AX45など)を例にとると、[録音レベル]は[オート]と[マニュアル]から選べます。ヘルプガイドは、ヘッドホンをつけてレベルを確かめながら操作するよう勧め、連続した大きな音を撮り続ける場合は、あらかじめレベルを低めにしておくと臨場感のある音声が記録できるとしています。リミッターは録音レベルの設定にかかわらず常に働き、[マニュアル]にすると、ズームと連動して音を記録する[内蔵ズームマイク]は[切]になります。
撮影者の声を抑える[マイボイスキャンセリング]もあり、撮影者の声を低減して、被写体の音声をはっきり記録する機能と説明されています。ただし、撮影状況によっては希望どおりに働かない場合があり、外部マイクをつないでいるときは無効です。[カメラ・マイク]→[撮影補助]→[音声レベル表示]を[入]にしておくと、画面で音の入り方を見ながら撮れます。機能の名前やあるなしは機種で違うので、手元のカメラの説明書で、録音レベルと音声の表示の項目を探しておきます。
外部マイクは、声のする方へ向ける
マイクをつなげるカメラなら、外部マイクも使えます。オーディオテクニカの説明では、指向性はマイクがどの方向の音を拾いやすいかを示す特性で、用途に合った指向性を選ぶと、不要な音を抑えて狙った音を録りやすくなります。単一指向性は主にマイク正面の音を中心に拾い、周囲360度の音を拾う無指向性は、使う場所によっては不要な音まで拾う可能性がある、というのが同社の説明です。式の声を狙うなら、単一指向性のマイクを呼びかけや合唱の方へ向けます。
ソニーのハンディカムでは、マルチインターフェースシューに付けた専用マイクを使っているあいだは、録音レベルの設定が無効になり、調節できません。外部マイクで変わるのは音を拾う向きで、子どもたちとの距離は変わらない点も覚えておきます。
スマホで撮るとき
スマホのマイクは本体に付いているので、撮る位置がそのまま録る位置になります。iPhoneは複数のマイクでステレオの音を録り、iPhone 16以降は初めの設定で空間オーディオで録音します。録り方は「設定」>「カメラ」>「サウンド収録」で、「空間オーディオ」「ステレオ」「モノ」から選べます(Apple)。空間オーディオで撮っておくと、あとで写真アプリの「オーディオミックス」を使えます(直せることの節)。
手で持って撮るなら、持ち替えや画面の操作は、呼びかけや合唱の合間にします。ソニーもレコーダーについて、録音中に本体に手が当たったりこすったりした音が、雑音として録音されることがあると注意しています。Androidのスマホは、音の設定の名前もあるなしも機種ごとに違うので、説明書で確かめてください。
撮った映像は、家族で見る範囲で
卒業式の映像には、ほかの家の子どもたちも写っています。SNSや動画サイトには載せず、家族で見る範囲にとどめます。家で見るために撮るぶんには、曲の手続きは要りません。DVDにして人に渡すときの扱いは、曲の手続きの節に書きました。充電やメモリーの空き、手ぶれ補正など、音のほかの撮り方は運動会の撮影のコツにまとめています。
学校や係が記録するとき|レコーダーを前に置き、放送設備の音も録る
学校の記録係や、卒業記念DVDを作る係が録るなら、カメラとは別にレコーダーで音を録ると、置き場所を音のために選べます。誰が撮るか、写る子の扱い、配る範囲は、撮る前に学校とPTAで決めておきます。決めることの一覧は体育祭・運動会の映像をDVDで保護者に配布する方法にまとめました。
放送設備から、録音用の音をもらう
式辞や来賓の祝辞、マイクを使う呼びかけの声は、話す人の近くのマイクで拾われ、放送設備を通っています。この音を録音用にもらえれば、響きの割合が小さい声を録れます。どの機器のどの端子から、どの大きさの音でつなぐか、そもそもつないでよいかは、放送設備を管理している先生や設備の業者と決めます。当日にその場で端子を探すことにならないよう、リハーサルの前に聞いておきます。
レコーダーの側は、マイクではなく、ほかの機器の音を入れる設定にします。ソニーの PCM-A10 なら、ほかの機器の音声出力端子(ステレオミニジャック)を、市販のオーディオコードでレコーダーのマイクのジャックにつなぎ、「外部入力設定」で「Audio IN」を選びます。入る音の大きさが合わないときは、つないだ機器の側で音量を調節すること、抵抗入りのコードでは録音レベルが小さくなるので抵抗なしのコードを使うことも、ソニーは書いています。ZOOMの H1essential には外部マイク/ライン入力の端子、TASCAMの DR-05X には MIC/EXT IN の端子があります。
放送設備の音に入るのは、設備のマイクで拾った音と、設備で流した音です。拍手や、マイクを持たない子の声、マイクで拡声しない合唱は入りにくくなります。前に置いたレコーダーでも録っておき、式辞と呼びかけは放送設備の音、合唱と拍手はレコーダーの音、と編集で使い分けます。2つあれば、片方がうまく録れなかったときの備えにもなります。
レコーダーの置き場所は、リハーサルで2〜3か所を試す
合唱や、マイクを使わない呼びかけは、前に置いたレコーダーで録ります。ソニーの PCM-A10 の「歌・音楽」のシーンは、合唱の練習や楽器の音を1〜2mくらいの距離で録るときに向く設定とされています。実際の置き場所は、子どもたちの並び、通路、式の進行との兼ね合いで決まるので、リハーサルで2〜3か所に置いて同じ場面を録り、聞き比べて決めます。レコーダーの置き場所と設定の考え方は、演奏会を例に吹奏楽の定期演奏会をCDにする方法でも説明しています。
当日は、録音係を1人決めます。式が始まる前に録音を始め、終わるまで止めずに回します。場面ごとに録音ボタンを押し直すと、押し忘れや押し遅れで頭が欠けることがあるからです。電池とメモリーカードの残りは前日に確かめ、終わったら、その日のうちに録音をパソコンなどにコピーして、2か所以上に置きます。
録音レベルは、リハーサルで決めて本番中は触らない
録音レベル(入力の大きさ)は、式の中でいちばん大きな音に合わせて決めます。ソニーの PCM-A10 のヘルプガイドは、手動で合わせるとき、ピークレベルメーターの−12dBを目安に、音源に合った範囲に調節するとしています。大きすぎると「OVER」の表示とピークランプが点き、音がひずみます。
リハーサルでは、拍手や、全員で声をそろえる呼びかけ、合唱のいちばん強いところのように、大きな音が出る場面を実際に出してもらって録り、メーターと録れた音の両方で決めます。PCM-A10にはリハーサル機能もあり、最大音量のところを含めて1分ほど演奏すると、そこでひずまないように録音レベルが自動で合わせられます。
本番は録り直せないので、迷ったら低めにします。ソニーのハンディカムのヘルプガイドも、連続した大きな音を撮り続ける場合は、あらかじめレベルを低めにしておくと臨場感のある音声が記録できる、としています。決めたレベルは、本番中は動かしません。途中でつまみを動かすと、その前後で音の大きさが変わり、あとでつなぎにくくなります。
自動調整・リミッター・ローカット・32bitフロート
機種によって、レベルを助ける機能があります。使うかどうかは、リハーサルの録音を聞いて決めます。
| 機能 |
働きと使い方 |
自動調整 (AGC) |
レベルを自動で 合わせる。ソニーは、 歌や音楽の録音には マニュアル録音か リハーサル機能を 勧めている。 |
| リミッター |
突然の大きな音で ひずまないように、 入力を自動で調節する。 PCM-A10は初期設定で オフ、ハンディカムは 常に有効。 |
| ピーク検出 |
ひずむほどの音が 入ると、自動で レベルを下げて 録音を続ける (TASCAM DR-05X)。 |
| ローカット |
空調や振動の 低い音を抑える。 声や伴奏の 低い音も聞いて 使うか決める。 |
| 32bitフロート |
ZOOMは、 レベル調整の 必要がないと 説明している。 置き場所の 試し録りは要る。 |
| モニター |
有線のヘッドホンで 録れている音を聞く。 Bluetoothでは 確かめられない (ソニー)。 |
録音の形式
形式は、圧縮しない WAV(リニアPCM)にします。映像と合わせるなら、選べる機種では48kHzにしておくと、ビデオの音声の形とそろいます。Appleは、CDの規格では44.1kHz、ビデオフォーマットでは一般に48kHzのレートが使われると説明しています。
呼びかけ・合唱・式辞で、録り方を変える
同じ式の中でも、場面によって、どの音を使うかが変わります。
| 場面 |
主に使う音と、 気をつけること |
| 式辞・祝辞 |
放送設備の音。 マイクを通した声を そのまま録れる。 |
| 呼びかけ |
マイクを使うなら 放送設備の音。 使わないなら、 前のレコーダー。 |
| 合唱 |
前のレコーダーで ステレオに録る。 伴奏との釣り合いは、 置く位置で決める。 |
| 拍手 |
前のレコーダー。 レベルは、拍手でも ひずまないように。 |
呼びかけは、声の大きさの差と、言葉の間
一人ずつ短い言葉を言って次の子に渡す呼びかけでは、子どもによって声の大きさが違います。いちばん大きな声でひずまないレベルにしておき、小さな声はあとで少し持ち上げます。持ち上げると周りの音や響きも同じだけ大きくなるので、上げすぎないようにします。
リハーサルで録った音を聞き、語尾が次の言葉に重なって聞き取りにくいところがあれば、言葉と言葉の間を少し長めに取れないか、指導の先生に相談する方法もあります。
合唱は、全体のまとまりを録る
合唱は、一人ひとりの声より、全体のまとまりを録ります。マイクの向きを変えられる機種なら、左右の広がりに合わせます。ソニーの PCM-A10 は、ホールでの演奏のように左右に広がりのある音には、左右のマイクを外側に向ける「ワイドステレオポジション」を勧めています。伴奏のピアノの上には置きません。弾くときの振動も録音されるからです(ソニー)。
伴奏と歌の釣り合いは、レコーダーの位置で変わります。リハーサルの録音で、伴奏が大きすぎないか、左右のどちらかのパートばかりが大きくないかを聞き、置く位置や向きを少しずつ変えて決めます。
式辞や祝辞は、放送設備の音で
式辞や祝辞をマイクで話すなら、放送設備からもらった音を使います。もらえないときは、話す位置に向けてレコーダーを置き、講演会の録音と同じように、マイクを音源の方向に向けます(ソニー)。
カメラの映像と、別に録った音を合わせる
レコーダーで録った音は、編集で映像の音と差し替えます。式が始まる前に、カメラとレコーダーの両方に入る大きさで一度手をたたいておくと、2つの音の波形を見比べて、位置を合わせやすくなります。撮る人と録る人が別なら、この合図を先に決めておきます。
カメラの側の音は、消さずに録っておきます。DaVinci Resolveの波形で合わせる自動同期(Auto Sync Audio)は、カメラで同時に録った音を手がかりにするからです。レコーダーの側にも、合わせるための機能があります。ZOOMの H1essential には、動画と音声の位置合わせに使う録音開始トーンの機能があります。TASCAMの DR-05X は、別売のアクセサリーキット(AK-DR11C)でカメラとつなぐと、動画のファイルと音声のファイルの両方にスレートトーンを記録できます。
合わせる手順と、長い式で後ろほどずれていくときの直し方は、動画の音ズレの直し方にまとめました。
録ったあとで直せること、直せないこと|響きと音割れは録る段階で防ぐ
編集でできるのは、場面ごとの音の大きさをそろえる、一定の雑音を減らす、放送設備の音とレコーダーの音を場面ごとに使い分ける、不要な部分を切る、といったことです。直しにくいものは、次の3つです。
- ひずんだ音。録音レベルが大きすぎて、扱える上限を超えた音はひずみます(ソニー、日本オーディオ協会)。あとで音量を下げても、ひずみは残ります
- 小さすぎる声。あとで大きくすると、周りの音や響きも同じだけ大きくなります
- 録り込んだ響き。減らす機能はあっても、使える機種や条件が限られます
響きを減らす機能の例が、iPhoneの写真アプリの「オーディオミックス」です。Appleによると、iPhone 16以降で空間オーディオを使って撮ったビデオなら、「スタジオ」を選ぶと、バックグラウンドサウンドと反響音を低減させます。「フレーム」を選べば、フレームの外の音源からの音や声を低減させます。使えるのは、対応するモデルで空間オーディオで撮ったビデオです。
雑音を減らす処理にも、向き不向きがあります。無料の音声編集ソフト Audacity のマニュアル(3.7系)を例にとります。雑音を減らす機能(Noise Reduction)は、ファンの音のような一定の雑音は減らせても、観客や車の音のような不規則な雑音には向きません。必要以上に強くかけると、残したい音が傷む、ともしています。体育館の拍手やざわめきは、不規則な側の音です。Audacity は2026年9月に画面を作り直した4.0が出たので、4.0では機能の入口がマニュアルと違う場合があります。雑音の処理のかけ方は、朗読・ボイスドラマのCDの作り方でも触れています。
仕上げでは、式辞・呼びかけ・合唱・拍手の音の大きさを通して聞いてそろえます。ヘッドホンだけでなく、テレビのスピーカーでも聞いて、言葉が聞き取れるかを確かめます。
合唱や校歌が入った映像をDVDにして配るには、曲の手続きが要る
式の中で合唱し、校歌を歌い、呼びかけのBGMにCDを流すことと、その様子を録った映像をDVDにして配ることは、著作権法の上で扱いが違います。前者は演奏や上映、後者は複製と頒布にあたるからです。JASRACの学校向けの解説(JASRAC PARK「入学式・卒業式」)と著作権法をもとに、よくある場面を並べました。
| 場面 |
手続き |
式で歌い、 演奏し、 BGMを流す |
入場料を取らず、 演奏する人に 報酬を払わず、 営利目的でなければ 要らない(第38条)。 |
保護者が 成長記録として 撮る |
家庭内で楽しむなら 要らない。 |
卒業記念DVDに するために 録る |
要る。市販のCDを BGMに使ったなら、 レコード会社や 演奏者の了解も要る。 |
DVDにして 配る |
作るのが学校でも 係でも要る。 無料で配っても 要る。 |
学校の ホームページに 載せる |
要る。 |
当日の例外(第38条)が認めているのは、上演・演奏・上映・口述だけです。文化庁の著作権テキストは、この例外に「複製・譲渡」や「公衆送信」は含まれないと書いています。録った映像をDVDにすれば複製、配れば頒布で、頒布は有償か無償かを問わず、公衆には特定かつ多数の人も含まれます(第2条)。JASRACも、無料で配布する場合でも利用申請が必要だと答えています。
学校が作る場合も同じです。文化庁は学校向けの冊子で、記念品として配る目的で、著作物が含まれる特別活動の映像を保存する場合は、授業に当たらず、著作者や著作隣接権者などの許諾が必要だと書いています。授業のために作った複製物をその目的の外で配ると、複製を行ったものとみなされます(第49条)。PTAや保護者の係が作る場合は、第35条が定める「教育を担任する者及び授業を受ける者」の利用ではないので、初めからこの例外の外です。
合唱・校歌・呼びかけのBGM
児童生徒や先生が自分たちで歌い、演奏した音なら、市販のCDにある歌手やレコード会社の権利は関わりません。それでも曲に作詞者・作曲者がいれば、曲の著作権の手続きは要ります(NexTone)。JASRACも、合唱祭などを録音・録画したCD・DVDを配るときは、歌うことに手続きが要らない場合でも、録音・録画の手続きが要ると案内しています。校歌にも作詞者と作曲者がいて、JASRACの管理曲かどうかは作品検索データベース「J-WID」で確かめられます。
呼びかけの後ろに市販のCDでBGMを流したなら、その音も映像に入ります。JASRAC PARKは、卒業記念DVDなどにするために録画する場合、背景音楽に市販のCDなどを使っていれば、レコード会社や演奏者の了解も必要だとしています。ピアノで生演奏したBGMなら、CDの音源の権利は関わらず、曲の手続きだけです。
手続きの流れと、使用料の区分
JASRACの管理曲は、「J-WID」で調べて、オンラインの窓口「J-RAPP」から申し込みます。NexToneの管理曲なら、作品データベースで調べて、クリアランスシステム「PlayN」から。どちらも、ディスクを作る前の手続きです。許諾までの日数は、J-RAPPなら通常2〜3営業日後に許諾番号がメールで届き、NexToneは申請から許諾まで通常5営業日ほどと案内されています。外国曲の録画は、JASRACだけで許諾できない場合がある、とJASRAC PARKは注意しています。
学校やPTA、個人が営利を目的とせず、無償か製作費の実費だけで配るDVDは、JASRACの使用料では「非商用複製」の区分です。使用料の計算のしかたと申し込みの手順は、学校行事の録画・DVD配布と著作権にまとめました。
家族で見るため、祖父母に渡すため
保護者が子どもの成長記録として撮り、家庭で見るのは、手続きの要らない使い方です(JASRAC PARK)。著作権法の私的使用(第30条)は、文化庁の説明では、家庭内など限られた範囲で、仕事以外で使うために、使う本人が複製する場合の例外です。別の家に住む祖父母に渡す分がこの範囲に入るかは、一律には言えません。店にディスクの作成を頼むと、複製するのが使う本人ではなくなるため、私的使用の例外にはあたりません。
式の前に決めておくことと、DVDにして配るまで
録音の準備は、リハーサルより前に学校と話すところから始まります。次の順に進めます。
- 撮影と録音をしてよい場所、三脚やレコーダーを置けるかを学校に確かめる
- 放送設備から録音用の音をもらえるか、どこにつなぐかを、設備の担当の先生と決める
- リハーサルで、レコーダーを2〜3か所に置いて録り、置き場所と録音レベルを決める
- 本番は式の前に録音を始め、手をたたいて合図を入れ、終わるまで止めずに回す
- その日のうちに、録音と映像を2か所以上にコピーする
- DVDにして配るなら、曲の手続きと写る子の扱い、配る範囲を学校と決める
編集した映像を卒業記念のDVDにして配るまでの段取り(写真の集め方、締め切り、枚数、1枚目を何台かの機器で試すこと)は、卒業記念DVDの作り方にまとめました。
当社(ディスクメーカー・大阪市北区梅田)は、1枚から注文できる、DVD・ブルーレイの書き込み代行の小さな店で、撮影や編集はしていません。編集を終えた動画をギガファイル便やGoogle ドライブなどにアップロードし、その共有URLを注文フォームに貼っていただければ、スマホからも入稿できます。
受け取った動画はプレーヤーで再生できる形に組み立て(オーサリング)、書き込み、実際のプレーヤーで再生を確かめてから、ケースに入れて発送するか、店舗でお渡しします。仕上がりはDVDが720×480(NTSC 29.97fps・MPEG-2)、ブルーレイが1920×1080で、音声はAC-3かリニアPCMで収めます。お引き受けできるのは、撮った本人か権利者の許可がある動画です。
料金は、基本料金(DVD・1枚あたり)1,500円(税抜)で、同じ内容の2枚目からは追加コピー(同一内容の焼き増し・1枚あたり)1,000円です。開式、卒業証書授与、呼びかけ、合唱のように、場面ごとに頭出しできるようにするなら、チャプター分け(1枚あたり)+1,500円を選びます。開いた「チャプター位置の指定」の欄に、2つ目以降の区切りの位置を時刻で入れてください(1つ目は動画の冒頭00:00:00に自動で入り、最大50チャプター)。ほかの項目の金額は料金表に載せています。通常便は受付から5営業日で発送し、お届けは発送から2〜3日です。
よくある質問
Q1. 卒業式の合唱を、きれいに録音するにはどうすればいいですか?
合唱の前に置いたレコーダーで、ステレオで録ります。置き場所は学校と決め、リハーサルで2〜3か所に置いて同じ場面を録り、伴奏との釣り合いを聞き比べて決めます。録音レベルは、合唱のいちばん強いところや拍手でもひずまない高さにして、本番中は触りません。ソニーのレコーダーのヘルプガイドは、ピークレベルメーターの−12dBを目安にしています。
Q2. 体育館で録った呼びかけが、聞き取りにくいのはなぜですか?
広い部屋の響きと、マイクまでの距離のためです。壁や天井で跳ね返った響きが言葉のあとに残って次の言葉に重なり、マイクが遠いほど声は小さく入ります。文部科学省の小学校施設整備指針も、儀式に使う体育館では、音響機器や吸音・反射板の設置に十分配慮するよう求めています。当日にいちばん効くのは、マイクを話す人に近づけることです。
Q3. 保護者席からビデオカメラで撮るとき、音の設定はどうすればいいですか?
録音レベルを手動にできる機種なら、低めにしておき、ヘッドホンで確かめながら撮ります。ソニーのハンディカムのヘルプガイドは、連続した大きな音を撮り続けるときは、あらかじめレベルを低めにしておくと臨場感のある音声が記録できる、としています。撮影者の声を抑える機能を持つ機種もあります。撮ってよい場所と三脚の使い方は、学校の決まりに従ってください。
Q4. スマホだけで卒業式を撮っても、声は聞き取れますか?
聞き取りやすさは、撮る位置しだいです。スマホのマイクは本体にあるので、撮る位置がそのまま録る位置になり、遠い席からでは響きや周りの音が目立ちやすくなります。iPhone 16以降で空間オーディオで撮ったビデオなら、写真アプリの「オーディオミックス」の「スタジオ」で反響音を低減できます(Apple)。撮ってよい場所は学校に確かめてください。
Q5. 学校の放送設備から、音をもらって録音できますか?
放送設備を管理する先生や設備の業者がよいと言えば、できます。どの機器のどの端子から、どの大きさの音でつなぐかを先に決め、レコーダーはほかの機器の音を入れる設定にします(ソニーの PCM-A10 なら「外部入力設定」の「Audio IN」)。放送設備の音には、拍手やマイクで拡声しない合唱が入りにくいので、前に置いたレコーダーでも録り、編集で使い分けます。
Q6. 録音レベルは、どのくらいに合わせればいいですか?
式でいちばん大きな音がひずまない高さにします。ソニーのリニアPCMレコーダー PCM-A10 のヘルプガイドは、ピークレベルメーターの−12dBを目安にし、大きすぎると「OVER」の表示が出て音がひずむとしています。リハーサルで拍手や全員の呼びかけ、合唱の強いところを録って決め、本番中は触りません。迷ったら低めにします。
Q7. 録ったあとで、体育館の反響を消せますか?
減らせる場合はありますが、条件が限られます。Appleによると、iPhone 16以降で空間オーディオを使って撮ったビデオは、写真アプリの「オーディオミックス」の「スタジオ」で、バックグラウンドサウンドと反響音を低減できます。使えるのはその条件で撮ったビデオです。Audacityの雑音を減らす機能も、観客の音のような不規則な雑音には向かないとされています。録る段階で、マイクを近づけて防ぎます。
Q8. カメラの映像と、別に録った音を合わせるにはどうすればいいですか?
式の前に、カメラとレコーダーの両方に入る大きさで一度手をたたき、編集で2つの波形を見比べて合わせます。カメラの側の音は消さずに録っておきます。DaVinci Resolveの波形で合わせる自動同期は、カメラで同時に録った音を手がかりにするからです。ZOOMの H1essential の録音開始トーンのように、位置合わせを助ける機能を持つレコーダーもあります。
Q9. 卒業式の合唱が入ったDVDを保護者に配るのに、手続きは要りますか?
要ります。式で合唱することは第38条の条件で手続き不要ですが、録った映像をDVDにすれば複製、配れば頒布です。JASRACは、合唱祭などを録音・録画したCD・DVDを配るときは、歌うことに手続きが要らない場合でも、録音・録画の手続きが要るとしています。NexToneも、卒業記念の録画物を配るには事前の許諾が要ると案内しています。無料で配っても同じです。
Q10. 保護者が撮った卒業式の動画を、祖父母にDVDで渡してもいいですか?
家庭で楽しむための録画なら、撮ることに手続きは要りません(JASRAC PARK)。私的使用(第30条)は、文化庁の説明では、家庭内など限られた範囲で使う本人が複製する場合の例外で、別の家に住む祖父母に渡す分がこの範囲に入るかは一律には言えません。店にディスクの作成を頼むと、複製するのが本人ではなくなるので、私的使用の例外にはあたりません。
参考にした公式の情報
機器の機能や設定の名前、法律の運用や各団体の手続きは、機種や更新、改正で変わります。この記事は、2026年9月26日時点の各社・各団体の公式ページと法令の記載をもとにしたものです。撮影と録音の決まりは学校の案内を、曲の手続きの個別の判断はJASRAC・NexToneなどの権利者に確かめてください。
ディスクメーカーへのご依頼・お見積りは以下からどうぞ。