この記事の要点
2023年にはCapCutを装う偽の配布サイトが5つのドメインで、2025年には実在のAIサービスの名前を使う偽の動画生成サイトが30以上報告された。名前を使われたソフトは被害者の側
偽物は検索広告やSNS広告から本物そっくりのページへ誘い、ソフトや完成した動画に見せかけた実行ファイルで、保存したパスワードやログイン状態を盗む
防ぐ要は入手先を自分で選び直すこと。公式サイトのアドレスを自分で開き、アプリストアでは提供元の名前を見る。実行を求める「動画」は開かない
入れてしまったら、ネットから切り離し、別の端末でパスワードを変えてログイン状態を切る。警察の相談窓口やIPAの安心相談窓口に相談できる
作品の原本は素材・プロジェクト・書き出しの3つ。外付けHDDは控えるときだけつなぎ、追記型の盤は焼く前に中身を確かめてから閉じて保管する
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新しいパソコンに動画の編集ソフトを入れようとして、ソフトの名前で検索し、いちばん上に出たページの「無料ダウンロード」を押す。SNSで「写真を送るだけでAIが動画にします」という広告を見かけ、子どもの写真を上げて、できあがった動画を受け取る。どちらも、動画を作る人なら一度はしそうな操作です。2023年から2025年にかけて、こうした場面を狙った偽の配布サイトや偽のAI動画サイトが、海外のセキュリティ企業や国内の警察から相次いで報告されました。
偽物の多くは、検索結果の広告やSNSの広告から本物そっくりのページへ人を連れて行き、ソフトや「完成した動画」に見せかけた実行ファイルを開かせます。動き出すのは、ブラウザに保存したパスワードやログインの状態を盗み出すマルウェアです。防ぐには、見た目で見分けようとするより、入手先を自分で選び直すほうが確かです。公式サイトのアドレスを自分で開く、アプリストアで提供元の名前を見る、受け取った「動画」がインストールや実行を求めたら開かない。そのうえで、もし入れてしまっても作品を失わないよう、撮影した素材と書き出した完成版の原本を、パソコンとつながっていない外付けのドライブやディスクに控えておきましょう。
文中に出てくるCapCut、Luma AI、Canva、Kling AIなどは、偽サイトに名前を使われた側です。危ないのは名前を借りた偽の入手先で、ソフトやサービスそのものではありません。事例と数字は、2026年10月時点で、公表された資料と報道で確かめられた範囲に限って書いています。
この記事の目次見出しを押すと、その場所へ移ります
名前を使われたソフトは危ないのか CapCutを装った偽の配布サイト|2023年に見つかった5つのドメイン 「AIで動画を作る」偽サイトは、動画の代わりに実行ファイルを渡した 検索結果のいちばん上が、本物の配布元とは限らない 入れてしまうと、何が持ち出されるのか 動画の作り手が失いうるもの|アカウント、チャンネル、手元の作品 正規の入手先は、自分で決めた道から開く 広告とSNSの誘いで、確かめるところ 残りの15項目を見る ダウンロードの前に、5つの問いで止まる 「動画」のはずのファイルが動画でないとき パソコンとブラウザで、先に整えておく設定 スマートフォンだけで撮って編集する人が確かめること 職場・学校・団体で、動画を作るパソコンの決まり 入れてしまったと気づいたら、最初の1時間でやること 初期化の前に、作品のどれを持ち出してよいか 初期化した後は、更新、設定、ソフト、作品の順に戻す 作品の原本は、事件の前から、つながっていない場所に置く ディスクに焼く控えは、書き換えられない一枚として持つ 再生用のDVD・ブルーレイは、アカウントの要らない「見られる控え」 控えを取る日を、作品の区切りに合わせる 完成した動画を盤で残すとき、当社にできること 今週のうちに、入手先を一つずつ確かめ直す よくある質問 撮った動画は、1枚1,500円(税抜)からDVD・ブルーレイにできます。料金を見る
名前を使われたソフトは危ないのか
「CapCutを装った偽サイト」という見出しを見て、手元のCapCutを消したほうがよいのかと迷う人がいます。報告されたのは、CapCutの名前と見た目をまねた別のサイトが、CapCutとは関係のないプログラムを配っていたという話です。公式の入手先から入れたCapCutと、偽サイトで配られた物は、中身が違います。名前を使われた会社も、被害を受けた側です。
偽物が有名な名前を選ぶのは、その名前で検索する人が多く、名前だけで信用されやすいからです。報告された手口は、おおまかに4つの型に分かれます。1つ目は、人気の動画編集ソフトの配布ページをまねたサイト。2つ目は、「AIで動画を作る」とうたい、写真を受け付けて「完成した動画」を渡す偽のサービス。3つ目は、検索結果の広告やSNSの広告に偽の配布元を出す手口。4つ目は、有料ソフトを不正にコピーした製品版(クラック)や、使用許諾のキーを作る道具を装う配布です。型は違っても、配られる物は似ています。
どの型も、ほぼ同じ段階を通って被害に至ります。ソフトやAIツールの名前で探す、広告から本物そっくりのページに着く、「ダウンロード」や「動画を受け取る」のボタンを押す、見せかけのファイルを開く、保存してあったパスワードやログインの状態が外へ送られる、その情報でアカウントが使われる。この6つです。
止められるのは前の3段階。ファイルを開いた後は画面に何も出ないことが多い
止められるのは前の3つの段階です。ページに着いた時点でアドレスを確かめる、ボタンを押す前に入手先を選び直す、受け取ったファイルの種類を見る。4つ目の段階を過ぎると、利用者の画面では何も起きていないように見えることが多く、気づいたときには情報が持ち出された後です。ここから先は、前半で事例を、後半で「入手先の選び方」「入れてしまった後」「作品の控え方」の3つを書きます。
CapCutを装った偽の配布サイト|2023年に見つかった5つのドメイン
2023年5月、セキュリティ企業のCybleは、動画編集アプリのCapCutを装った偽のダウンロードサイトを報告しました。米国の専門メディアBleepingComputerが5月20日に伝えた内容では、見つかったサイトは5つのドメインにあり、そこから情報を盗む種類のマルウェアが2種類配られていました。報道の時点では、5つのドメインはどれも止まっていたということです。
Cybleは、このサイトが誰を狙ったのかも分析しています。当時、台湾やインドなどではCapCutが国として禁止されていて、ほかの入手先を探す人がいました。偽サイトは、そういう人が検索でたどり着く場所に置かれていたというのが、Cybleの見立てです。
この見立ては、日本で動画を作る人にも当てはまります。公式の入手先から外れたくなる場面は、意外と身近にあります。自分の古いパソコンで動く版を探すとき、有料の機能を無料で使える版がないかと思ったとき、ストアに見当たらない別の版を探すとき。そこで「公式以外の配布元」を開くと、偽物が置かれた場所に近づきます。
古いパソコンの場合は、先に公式の動作条件を見ます。CapCutの公式サイトのよくある質問では、パソコン版の対応はWindows 7以降(Windows 10を推奨)、macOS 10.14以降とされています。条件に合わないなら、非公式の古い版を探すのはやめましょう。条件に合う別のソフトを公式の道から選ぶか、パソコンの買い替えを考えます。遠回りに見えても、こちらが安全です。
国内のCapCutの入手先は、2026年10月に確かめた時点で、パソコン版がCapCutの公式サイト(capcut.com)のダウンロードページ、スマートフォン版がApp StoreとGoogle Playでした。WindowsではMicrosoft Storeにも載っていて、3つのストアとも提供元の表示はBytedance Pte. Ltd.です。Cybleの報告を伝えた記事も、ソフトは公式サイトと公式ストアからだけ入れ、掲示板やSNS、DMで教えられたサイトは避け、検索結果の広告の枠に注意するよう勧めています。
「AIで動画を作る」偽サイトは、動画の代わりに実行ファイルを渡した
生成AIで動画を作るサービスが次々に話題になった2025年には、その名前と期待を使った偽サイトの報告が続きました。この型が厄介なのは、利用者の操作に不自然なところがほとんど無い点です。写真を上げて、待って、できた動画のファイルを受け取る。本物のサービスでも同じ流れなので、ファイルを受け取る段階で疑う人は多くありません。
写真を上げると「完成した動画」が届く
セキュリティ企業のMorphisecは2025年5月8日、「AIで動画を作る」とうたう偽のサイトを報告しました。宣伝の場はFacebookのグループで、ある投稿は6万2,000回を超えて閲覧されていました。利用者が画像や動画をアップロードすると、サイトは「生成された動画」としてZIPのファイルを渡します。中に入っていたのは、動画に見せかけた実行ファイルでした。
開くと、新しい種類の情報窃取型マルウェアが入ります。Morphisecの報告では、盗まれるのはブラウザに保存したログイン情報、ログインの状態を保つクッキーや認証の情報、暗号資産のウォレットで、遠隔操作の道具を一緒に入れる例もありました。実在の動画編集ソフトを元にした部品も使われていたと報告されています。ここでも、ソフトの側は使われた側です。
実在のAIサービスの名前を使った30以上の偽サイト
同じ月の2025年5月27日には、Google傘下のMandiantが、より大きな動きを報告しました。ベトナムとのつながりが指摘される集団が、Luma AI(Dream Machine)、Canva(Dream Lab)、Kling AIなどを装った「AI動画生成」の偽サイトを30以上作っていました。人を集めたのは、Facebookの広告と、LinkedInの約10件の広告です。動画に見せかけた実行ファイルで複数のマルウェアを入れ、ログイン情報、クッキー、クレジットカードの情報などを盗んでいました。Mandiantは、Metaと協力して広告などを削除したとしています。
報告には、調べた120件を超える広告がEU域内で230万人を超える人に届いた、という数字もあります。Mandiant自身が、この到達数は被害に遭った人の数ではないと明記しています。「230万人が感染した」と読むのは誤りで、広告がそれだけ多くの人の画面に出た、という意味です。日本で何人が被害に遭ったかは公表されていません。
本物のAI動画サービスとの違い
本物のAI動画サービスでは、公式のサイトやアプリにログインして使い、できた動画は画面の中で再生されるか、MP4などの動画のファイルとして保存されます。動画のファイルは、再生するソフトで開くものです。開いたとたんにインストールが始まる、パソコンへの変更を許可するかを聞かれる、ファイルの種類が「アプリケーション」と表示される。どれか一つでも当てはまれば、それは動画ではありません。
もう一つ考えておきたいのが、上げた写真や動画の行き先です。偽サイトに上げた素材は、取り戻せません。子どもの顔が写った写真、園や学校の行事の映像、仕事で預かった映像を、運営者のよく分からないサービスに上げてよいかは、ファイルを受け取る前の段階で決まる話です。職場や団体の素材なら、どのAIサービスを使ってよいかを先に決めておきましょう。家族の写真でも、そのサービスの運営会社と公式のアドレスを確かめてから上げる、という順番は変わりません。
仕事でAIの動画サービスを使う前に決めること
IPAが2026年1月29日に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位に初めて入りました。10大脅威は、前の年に社会的な影響が大きかった脅威を選んだ一覧です。AIのサービスが職場に入ってきたことで、守る側が考えることも増えた、という読み方ができます。
制作の現場でAIのサービスを試すなら、使い始める前に確かめることは4つです。運営している会社の名前と所在地が公式サイトに載っているか。公式のアドレスやアプリストアの提供元を、その会社の発表と照らせるか。上げた写真や動画をサービスがどう扱うか、学習に使わない設定があるかを、利用規約や設定の画面で読めるか。そして、上げようとしている素材に、出演者や子どもの顔、依頼主の映像が含まれていないか、含まれるなら本人や依頼主の了解を取ってあるか、です。
確かめた結果は、後で書く「使ってよい編集ソフトと入手先の一覧」と同じ紙に、使ってよいAIのサービスとして書き足します。一覧に無いサービスを試したくなったら、まず担当の人に相談する。それだけで、偽サイトに職場の素材を上げてしまうことはかなり減ります。
検索結果のいちばん上が、本物の配布元とは限らない
検索結果の上や下に並ぶ広告の枠は、お金を払って出す場所です。広告には審査がありますが、2023年以降、この枠が偽の配布元の宣伝に使われた例が、何度も報告されてきました。ソフトの名前に「ダウンロード」を足して検索する人は、まさに今から何かを入れようとしている人です。偽物にとって、これほど都合のよい相手はいません。
有名なソフトを装う検索広告(2023年)
トレンドマイクロは2023年1月の調査報告で、Googleの検索広告を悪用して有名なソフトを装うページへ誘い、マルウェアをダウンロードさせる事例が増えていると伝えました。国際的な迷惑メール対策の団体Spamhausも、同じ傾向を報告しています。検索した人から見ると、広告の見出しも、飛んだ先のページの見た目も、ソフトの会社のものとほとんど区別がつきません。
ソフトを探す人に偽の配布元を見せる(2025年)
Microsoftは2025年5月21日、情報窃取型のマルウェア「Lumma Stealer」の分析を公表しました。配られ方の一つに挙げられているのが、ソフトのダウンロードを検索した人に偽の配布元のサイトを見せる検索広告です。ほかにも、なりすましのメール、改ざんされた正規のサイト、不正にコピーしたソフトへの同梱、ソフト開発者の共有サイトの悪用、偽の確認画面で利用者自身に操作をさせる手口が並んでいます。
Lummaは同じ月に、各国の当局と企業による大がかりな取り締まりを受けました(次の節で書きます)。それでも、トレンドマイクロの分析を伝えた2025年7月22日の報道によると、基盤は数週間で立て直され、ほぼ元の水準に戻りました。移った先の配り方の一つが、ソフトのクラックや使用許諾のキーを作る道具を装う偽サイトで、それを検索広告や検索結果の操作で目立たせていたといいます。取り締まりで一度止まっても、利用者の側の入手の習慣が変わらなければ、同じ場所で待ち受けられるということです。
違法な動画配信サイトの広告から、約100万台(2025年3月)
Microsoftの脅威情報チームは2025年3月6日、2024年12月に見つけた広告の悪用について公表しました。違法な動画配信サイトに埋め込まれた広告から、いくつもの転送を経て、ソフト開発者の共有サイトなどに置かれたマルウェアへ誘導するものです。影響は世界で約100万台に及び、情報窃取型のマルウェアや遠隔操作の道具が入れられました。約100万台はMicrosoftが把握した台数で、日本の台数は分かっていません。
参考にする映像や使えそうな素材を探して、作り手が見慣れないサイトを開くことはよくあります。違法にアップロードされた映像のサイトは、それ自体が著作権の問題を抱えています。さらに、そこに出る広告は出どころを確かめようがありません。参考の映像は、公式の配信や権利者が公開しているものから探しましょう。
入れた直後は普通に動く偽ツール(2025年9月)
国内では、栃木県警察のサイバー対策センターが「サイバーだより」2025年9月号で、Webの広告で「無料で便利なPDF編集ツール」として紹介される偽のツールに注意を呼びかけました。TamperedChefと呼ばれるマルウェアで、インストールした後はPDFの編集ツールとして普通に使えます。ところが、自動の更新をきっかけに、ログイン情報やクッキーを集める機能が働き出すというものです。
この例から分かるのは、「入れて使えているから本物だ」とは言えないことです。動画を作る人も、ファイルの変換や圧縮、書き出しの補助など、一度きりの作業のために小さな無料ツールを探す場面がよくあります。栃木県警察は、「便利」「無料」を理由に安易に入れないこと、入れる前にツールの名前などで検索して安全かを確かめることを勧めています。
ここまでの報告を時期の順に並べると、検索広告、SNSの広告、AIの流行、クラックと、入り口になる場所は移っても、配られる物と狙われる情報はほとんど変わっていないことが分かります。
入り口になる場所は移っても、配られる物と狙われる情報はほとんど変わらない
入れてしまうと、何が持ち出されるのか
ここまでの事例で配られていたのは、多くが情報窃取型のマルウェア(インフォスティーラー)です。ランサムウェアのようにファイルを開けなくして脅すのとは違い、利用者に気づかれないうちに情報を集めて送り出します。画面に何も出ないので、入れたことに気づかないまま何週間も使い続けることがあります。
何が盗まれるのかは、Microsoftが2025年5月21日に公表したLumma Stealerの技術解説が具体的です。ブラウザに保存したパスワード、ログインの状態を保つセッションのクッキー、フォームの自動入力のデータ。暗号資産のウォレット。VPNの設定ファイル、メールソフトやファイル転送ソフトのデータ、メッセージアプリのデータ。利用者のフォルダにあるPDFやWordなどの文書。OSやCPU、入っているアプリといった端末の情報まで集めます。
作り手の側に置き換えると、ブラウザに入っているのは、動画の投稿サイト、クラウドの保存先、SNS、編集ソフトのアカウント、メールのログインです。書類のフォルダには、請求書、見積書、依頼主とのやり取り、出演者の連絡先が入っているかもしれません。盗まれたものは本人の分だけで終わらず、取引先や出演者に関わる情報にも広がります。
クッキーを盗まれると、パスワードを入れ直さずに入られる
ログインの状態を保つクッキーは、毎回パスワードを入れなくて済むようにするための仕組みです。これが盗まれると、相手はパスワードを入れ直さなくても、ログインした後の状態を使えてしまうおそれがあります。2段階認証やパスキーは、ログインする瞬間を守る仕組みです。パソコンに入り込んだマルウェアから、ログインした後の状態を守るものではありません。
だからといって、2段階認証が役に立たないわけではありません。Microsoftは対策として、電話やSMSより、偽サイトにだまされにくいFIDOやパスキーの方式を勧めています。パスキーなどでログインの入り口を固め、マルウェアを入れない入手の習慣で端末を守り、もし入れてしまったらログインの状態を切る。この3つがそろって、はじめて守りに抜けがなくなります。
取り締まりの規模と、数字の読み方
Lummaへの取り締まりは、Microsoftが2025年5月21日に発表しました。同社のデジタル犯罪対策部門が5月13日に提訴し、米国の連邦地裁の命令に基づいて、約2,300の悪性ドメインを差し押さえ・停止・遮断したというものです。2025年3月16日から5月16日の2か月で、世界で39万4,000台を超えるWindowsのパソコンの感染を確認したとしています。Europolの欧州サイバー犯罪センターと、日本のJC3(日本サイバー犯罪対策センター)が、各地域の基盤の停止を支援しました。
米司法省は同じ日に、管理画面として使われていた5つのドメインを押収したと発表し、FBIはLummaで情報が盗まれた事例を少なくとも170万件確認したとしています。数字はそれぞれ意味が違います。39万4,000台はMicrosoftが2か月で見た感染パソコンの台数、170万件はFBIが確かめた情報窃取の事例の数で台数ではありません。約2,300はMicrosoftの側、5つは司法省の側のドメインの数です。
国際刑事警察機構(INTERPOL)も2025年6月11日に、日本を含むアジアなどの26か国が参加した作戦の結果を発表しました。2025年1月から4月に、情報窃取型のマルウェアに関わる2万を超えるIPアドレスとドメインを止め、サーバー41台と100GBを超えるデータを押収し、32人を逮捕しています。INTERPOLは、盗まれた記録がランサムウェアやビジネスメール詐欺の足がかりになると説明しています。情報窃取は、それだけで終わる被害ではありません。
動画の作り手が失いうるもの|アカウント、チャンネル、手元の作品
盗まれた情報は、次の被害の材料になります。動画を作る人にとって大きいのは、作品を公開している場所、作品を置いている場所、作品を作っているパソコンの3つです。どれも、実際に起きた形で説明できます。
チャンネルを狙った「企業案件」の誘い
Googleの脅威分析グループは2021年10月20日、YouTubeのクリエイターを狙ったフィッシングを2019年末から防いできたと報告しました。手口は、企業を名乗ってスポンサーやコラボの案件を持ちかけ、宣伝してほしいソフトとして、ウイルス対策ソフト、VPN、音楽プレーヤー、写真編集、ゲームなどの偽の配布サイトからマルウェアを入れさせるものです。Gmailで止められると、別のメッセージアプリへやり取りを移していました。
入れられたのは、ブラウザのクッキーを盗む型のマルウェアで、パスワードも2段階認証も要らずにアカウントに入られました。乗っ取られたチャンネルは名前を変えられ、大手のIT企業や暗号資産の会社になりすました詐欺のライブ配信に使われたり、登録者数に応じて約3ドルから4,000ドルで売られたりしたと、報告にあります。Googleは関連のフィッシングメールを160万通止め、約4,000のアカウントを元に戻したとしています。2021年11月1日からは、収益化しているクリエイターに2段階認証を義務づけました。
チャンネルが戻っても、消されたり差し替えられたりした動画が元どおりになるかは、場合によります。手口と、YouTubeのヘルプにある復旧の手順はYouTubeチャンネル乗っ取りの手口と対策 に、自分のチャンネルの動画を手元に残す方法は自分のYouTubeチャンネルの動画を手元に残すにまとめています。
パソコンの中の作品は、初期化で消える
入れられた物に遠隔操作の道具が含まれていたら、パソコンの中で何をされたかを利用者が見きわめるのは困難です。IPAは、遠隔操作された後の対処として、Windowsの「システムの復元」で事件の前の状態に戻し、それができなければ初期化することを勧めています。初期化すると、パソコンの中のデータは消えます。撮影した素材も、編集のプロジェクトも、書き出した完成版も、ほかの場所に写していなければ一緒になくなります。
もう一つの道すじが、ランサムウェアです。INTERPOLが説明するとおり、盗まれたログイン情報は、ランサムウェアの攻撃の足がかりにも使われます。暗号化はパソコンの中だけでなく、つながっている外付けのドライブやNASにも及ぶことがあります。企業が実際にどこまで止まったかは、大手企業のランサムウェア被害に学ぶ で、公表資料に沿って追っています。
依頼を受けて動画を作る人なら、失うのは自分の作品だけではありません。預かった素材や、出演者が映った映像、依頼主の書類が外へ出れば、依頼主や出演者への連絡が要る場面も出てきます。入れてしまった後の手順と、事業者が確かめる報告の決まりは、後半の節で書きます。
正規の入手先は、自分で決めた道から開く
偽サイトの見た目は、ロゴも色も文章も本物に近づけて作られます。見た目で見分ける力をどれだけ磨いても、偽物を作る側が一枚上手なら追いつけません。それより、ソフトごとに「ここから入れる」という道を一度決め、毎回その道から開くほうが確かです。道は3つあります。OSのアプリストア、ソフトの会社の公式サイト、そしてOSに最初から入っているアプリです。
アプリストアでは、提供元の名前まで見る
WindowsならMicrosoft Store、MacとiPhoneならApp Store、AndroidならGoogle Playです。どのストアにも、アプリの名前の近くに提供元(開発元)の名前が出ます。2026年10月に確かめた時点で、CapCutはApp Store、Google Play、Microsoft Storeのどれでも提供元がBytedance Pte. Ltd.でした。Mac App StoreのDaVinci ResolveはBlackmagic Design Inc、iMovieはApple、Microsoft StoreのMicrosoft ClipchampはMicrosoft Corporationです。
ストアにあるから安全、とまでは言えません。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」の個人編には、「不正アプリによるスマートフォン利用者への被害」が11年連続で入っています(個人編は順位のない一覧です)。名前のよく似たアプリが並んでいたら、提供元の名前を見比べます。迷ったら、ソフトの会社の公式サイトに載っているストアへのリンクから開くと、名前の似た別のアプリを選ぶ心配がなくなります。
公式サイトは、アドレスを自分で開く
ストアに無いソフトや、パソコン版を公式サイトから配っているソフトは、検索結果の広告から入らず、アドレスを自分で入力するか、前に保存したブックマークから開きます。CapCutのパソコン版は公式サイト(capcut.com)のダウンロードページにWindows版とMac版があります。DaVinci Resolveは、Blackmagic Designの公式サイトで無料版の「DaVinci Resolve」と有料の「DaVinci Resolve Studio」を配っています。Adobe Premiere(以前のPremiere Pro)は、アドビの公式サイトから始めてCreative Cloudのアプリ経由で入れる形で、7日間は無料で試せます。
ページを開いたら、ブラウザのアドレス欄を見ます。見るのは、アドレスの「//」の後ろから、次の「/」までの部分で、その末尾がソフトの会社のドメインになっているかを確かめます。会社の名前に別の言葉を足したアドレスや、末尾が違うアドレスは、その会社のものとは限りません。Mandiantも、SNSの広告で宣伝されるAIツールについて、ダウンロードの前にドメインが正規のものか確かめるよう呼びかけています。
Cybleの報告を伝えた記事が挙げていたとおり、掲示板やSNSの投稿、DMで教えられたダウンロードのリンクは使いません。教えてくれた相手に悪気がなくても、そのリンクが本物かどうかは、教えた人にも分からないことがあるからです。ソフトの名前だけを受け取り、入手先は自分で開き直しましょう。
主な動画編集ソフトの入手先
よく使われる編集ソフトについて、正規の入手先と、そこで確かめるところを表にしました。2026年10月に各社の公式ページとストアで確かめた範囲で、配り方は変わることがあります。
ソフト:CapCut
正規の入手先:公式サイトと3つのストア
確かめるところ:提供元がBytedance Pte. Ltd.か
ソフト:DaVinci Resolve
正規の入手先:公式サイトとMac App Store
確かめるところ:提供元がBlackmagic Design Incか
ソフト:Adobe Premiere
正規の入手先:公式サイトとスマホのストア
確かめるところ:アドビの公式サイトから始めたか
ソフト:iMovie
正規の入手先:App Store
確かめるところ:提供元がAppleか
ソフト:Microsoft Clipchamp
正規の入手先:Windows 11かMicrosoft Store
確かめるところ:提供元がMicrosoft Corporationか
これから編集ソフトを選ぶ段階なら、DVDにする前提で選ぶ無料動画編集ソフトで、書き出しの形式などの条件から無料のソフトを比べています。どのソフトを選んでも、入れる道は表の右の列で確かめます。
「製品版が無料」の配布は、入手先として選ばない
有料の編集ソフトには、たいてい公式の無料版か、無料で試せる期間があります。DaVinci Resolveは無料版を公式に配り、Adobe Premiereは7日間無料で試せ、CapCutはストアで無料のアプリとして配られ、一部の機能が課金の対象です。公式の道を外れなくても、試すだけなら足ります。
それでも「有料版が無料」「制限を外した版」「使用許諾のキー付き」とうたう配布に手を伸ばすと、使用許諾の違反になるうえ、前の節で書いたとおり、Lummaが復活した後の配り方の一つが、まさにその形でした。プラグイン、テンプレート、フォント、LUT(色の調整の設定)のような素材も同じで、有料の素材を無料で配るとうたうページは、入手先の候補から外します。素材は、作った人や会社の公式の販売・配布のページから手に入れましょう。
広告とSNSの誘いで、確かめるところ
広告がすべて偽物というわけではありません。ソフトの会社が自社の製品を正規に広告に出すことは普通にあります。気をつけるのは、広告から直接ダウンロードの操作に進むことです。広告は「その製品がある」と知るきっかけにとどめ、入れるときは前の節の道から開き直しましょう。
Googleは2025年10月、検索結果に出る文字の広告を一つの見出しの下にまとめ、スクロールしても見出しが見えるようにし、広告をまとめて隠すボタンを付けると発表しました。まとめて表示される広告は4件までです。ソフトを探して検索したときは、その広告のまとまりを隠すか、広告の部分は使わずに、自分のブックマークや、広告の外にある結果から公式サイトを探します。
広告を出しているのが誰かを確かめる方法もあります。Googleは2023年3月、表示される広告の横にある3つの点のメニューから「マイ アド センター」を開くと、適格性が確認されている事業者かどうかなど、広告主の基本的な情報を確かめられると説明しました。そこに出る広告主の名前が、ソフトの会社と違うなら、その広告からは進みません。名前が一致していても、ダウンロードの前にアドレスを確かめる手順は省きません。
SNSでは、広告のほかに、グループの投稿やコメント欄のリンク、DMにも注意が要ります。Morphisecが報告した偽のAI動画サイトは、Facebookのグループの投稿で広まっていました。新しいAIのサービスは名前が知られていないぶん、公式のアドレスを覚えている人がほとんどいません。運営会社の発表や公式アカウントのプロフィールに載っているアドレスと見比べてから開きます。
作り手に届く「企業案件」の連絡も、同じ考え方で確かめます。案件そのものが本物かどうかは、届いたメールやメッセージに返信して聞くのでなく、相手の会社の公式サイトに載っている窓口へ、別の経路で問い合わせます。宣伝してほしいソフトを先に入れてと頼まれても、会社の確認が取れるまでは入れないようにしましょう。Googleの脅威分析グループが報告した手口は、まさにこの順番を逆手に取ったものでした。
栃木県警察は、インストールの前にツールの名前などで検索して安全かを確かめるよう勧めています。調べるときは、ツールの名前と一緒に、公的機関やセキュリティ企業の注意喚起が出ていないかを見ます。ここでも、検索結果の広告から配布ページに入らないことは同じです。
ダウンロードの前に、5つの問いで止まる
ここまでの話を、ダウンロードのボタンを押す前に自分に聞く5つの問いにまとめました。上から順にたどり、どこかで「はい」になったら、そこで止まって書いてあるとおりに動きます。最後まで「いいえ」が続いたときだけ、入れて使います。
どこかで「はい」になったら止まる。最後まで「いいえ」のときだけ入れて使う
1つ目の問いは、今いるページにどうやって着いたかです。広告やSNS、DMのリンクから着いたなら、ページを閉じて、ブックマークかアプリストアから開き直します。2つ目はアドレスで、会社の公式のドメインと違えばダウンロードしません。3つ目は、有料ソフトの製品版を無料でうたっていないか。4つ目は、受け取った「動画」がインストールや実行を求めていないか。5つ目は、OSやブラウザが警告を出していないかです。
5つ目の警告で止まるのは、少し勇気が要ります。仕事の締め切りが近いと、警告を通して先へ進みたくなります。それでも、警告が出たら、その画面で先へ進む操作はせず、入手先を最初から見直しましょう。本物のソフトを公式の道から入れ直せば、たいていは警告なしで入ります。
締め切りが迫っていて、いつものソフトが使えない日もあります。そんなときは、知らないツールを探して検索するより、すでにOSに入っている物で仕上げる道を考えます。Windows 11ならClipchampが入っている場合があり、MacやiPhoneならiMovieをApp Storeから入れられます。凝った編集はできなくても、切って、つないで、書き出すところまでは進められます。急ぐ日ほど、入手先を増やさない。それが結果として早道になります。
「動画」のはずのファイルが動画でないとき
AI動画の偽サイトで渡されたのは、動画に見せかけた実行ファイルでした。見た目のアイコンや名前は、いくらでも動画らしく作れます。頼りになるのは、ファイルの種類を示す拡張子の表示と、開いたときにOSが出す確認です。
拡張子は、初めの設定では隠れていることがあります。Windows 11では、エクスプローラーの[表示]から[表示]、[ファイル名拡張子]の順に選ぶと表示されます。Macでは、Finderの[設定]の[詳細]で[すべてのファイル名拡張子を表示]にチェックを入れます。動画を扱う人は、一度この設定にしておくと、偽物に限らず、ファイルの取り違えも減ります。
拡張子で見ると、動画のファイルはMP4、MOV、iPhoneのM4V、ビデオカメラのMTSなどです。Windowsで.exeや.msi、.scr、.lnkのような拡張子のファイルは、プログラムを動かすためのものです。Macの.appや.pkgは、アプリやその入れ物です。「生成された動画」として受け取ったZIPの中にこうしたファイルがあれば、中身は動画ではありません。開かずに削除しましょう。
素材のファイルにも、決まった形があります。LUTなら.cube、フォントなら.ttfや.otf、編集ソフトのテンプレートならそのソフトの形式です。素材を受け取ったはずなのに、プログラムの形のファイルが混ざっていたら、その素材の入手先ごと疑います。メールに添付されたISOや圧縮ファイルのように、入れ物の中に別の形のファイルを入れて届く手口は、ISO・IMGファイルの添付を開く前に で詳しく書いています。
OSの警告にも、止まる理由があります。WindowsのSmartScreenは、インターネットから入手したアプリやファイルの評判を調べて、見慣れないものに警告を出します。Macでは、Appleが安全を確かめられない、または開発元を確かめられないアプリを開こうとすると警告が出ます。Appleは、その場合は開発元に問い合わせるか、App Storeで代わりを探すよう案内していて、例外として開くのは入手元が確かで改ざんされていないと分かるときだけとしています。動画を受け取っただけのはずなのに、こうした警告が出たこと自体が、ただの動画ではないしるしです。
もう一つ、Webページが「確認のため」「不具合を直すため」と言って、パソコンで特定の操作をするよう指示してくる場合があります。Microsoftが挙げたLummaの配られ方にも、偽の確認画面で利用者自身に操作をさせる手口がありました。ページの指示に従ってパソコンに何かを入力して実行するよう求められたら、そこで手を止め、ページを閉じましょう。
前に入れたソフトの出どころを確かめ直す
これから入れる物だけでなく、もう入っている物も一度見直しましょう。Windows 11なら、[スタート]から[設定]、[アプリ]、[インストール済みアプリ]と進むと、入っているアプリの一覧が出ます。編集ソフトや変換のツールで、どこから入れたかを思い出せない物があれば、その行の[その他]から[アンインストール]し、要るなら表の入手先から入れ直します。Macなら、アプリケーションのフォルダを開いて、覚えのないアプリが無いかを見ます。
ダウンロードのフォルダも見ておきます。昔入れたソフトのインストーラーや、中身を確かめないまま置いてあるZIPが残っていると、別の日にうっかり開いてしまうことがあります。もう使わない物は消します。出どころの分からない物を、作品の控えに混ぜて写さないためにも、片付けておく価値があります。
パソコンとブラウザで、先に整えておく設定
入手先の習慣が一つ目の守りなら、OSとブラウザの設定は、うっかりしたときの備えです。どれも一度設定すれば続くものなので、編集に使うパソコンで今日のうちに確かめておきましょう。画面の表記はバージョンで変わることがあるので、項目の意味で探してください。
Windowsで確かめる項目
まず、Windows Updateで更新が止まっていないかを見ます。そのうえで「Windows セキュリティ」のアプリを開き、[アプリとブラウザー コントロール]の中の[評判ベースの保護]を確かめます。[アプリとファイルを確認する]は、Webから入手したアプリやファイルの評判をSmartScreenで調べる機能です。[Microsoft Edge 用 SmartScreen]は、Edgeでフィッシングやサポート詐欺のサイトなどを見つけて警告します。[望ましくない可能性のあるアプリのブロック]は、マルウェアとまでは言えなくても、広告を出したり余計な動きをしたりするアプリを止めます。3つともオンにしておきましょう。
Windows 11には[スマート アプリ コントロール]もあります。クラウドの情報で安全と判断されたアプリは動かし、悪意がある、または望ましくない可能性があると判断したアプリは止めます。判断がつかないときは署名を見て、署名が無いか正しくなければ止める仕組みです。Microsoftの説明では、個別のアプリだけを例外として通す方法は今のところありません。署名の無い小さなツールを使う人には不便に感じる場面もありますが、そのツールが本当に要るのかを考え直すきっかけにもなります。
Windows 10のパソコンで編集を続けている人もいるはずです。Windows 10のサポートは2025年10月14日に終わり、個人向けの拡張セキュリティ更新(ESU)に登録した機器だけが、2027年10月12日まで更新を受け取れます。IPAは、サポートが終わると新しく見つかった弱点が直らず、それを悪用した攻撃のリスクが高まると注意し、根本の対策はサポートが続くOSへの移行で、ESUはあくまで暫定の措置だとしています。
Macで確かめる項目
Macでは、[システム設定]の[プライバシーとセキュリティ]を開き、下のほうの[セキュリティ]にある[ダウンロードしたアプリケーションの実行許可]を見ます。選べるのは「App Store」と「App Storeと確認済みの開発元からのアプリを許可」の2つです。App Storeのアプリしか使わないなら、前者にしておくと、それ以外から入れたアプリは開く前に止まります。
Appleの説明では、macOSはGatekeeperという仕組みで、信頼できるソフトだけが動くように確かめています。App Store以外で配るアプリにも、macOS Catalina以降は原則としてAppleの公証が求められていて、既知のマルウェアが見つからなかったことを示します。マルウェアが見つかった場合、macOSはそのアプリを開かずにゴミ箱へ移します。[プライバシーとセキュリティ]の[このまま開く]で例外として開くのは、入手元が確かなときだけです。
ブラウザで確かめる項目
Chromeは、[設定]の[プライバシーとセキュリティ]から[セキュリティ]を開くと、セーフ ブラウジングの段階を選べます。初めの設定は[標準保護機能]で、危険と判断されたサイトやダウンロード、拡張機能に警告を出します。[保護強化機能]にすると、既知の危険に加えて新しく現れる危険にも備え、不審なダウンロードを詳しく調べることがあります。[保護なし]は、危険なサイトやダウンロードから守られなくなるので選びません。Edgeは、前に書いたWindowsのSmartScreenの設定が働きます。
ブラウザに保存したパスワードは、情報窃取型のマルウェアが集める物の一つです。動画の投稿サイトやクラウドのアカウントのように、乗っ取られると作品に手が届くものは、パスキーに切り替えられるなら切り替えましょう。IPAも、パスキーはパスワードの代わりに生体認証や端末のロック解除でログインする方式で、パスワードが漏れる心配がないと説明し、使えるなら極力使うよう勧めています。ただし、前に書いたとおり、パスキーは入り込んだマルウェアからログインの後の状態まで守るものではありません。入手の習慣と、ここまでの設定とをそろえて使います。
スマートフォンだけで撮って編集する人が確かめること
撮るのも編集するのもスマートフォン、という人は多いはずです。フィッシング対策協議会は「フィッシングレポート2026」に意識調査(回答5,338人)を載せています。インターネットでいちばんよく使う端末はスマートフォンが合わせて65.5%で、内訳はiPhoneが30.1%、Androidが35.4%でした。協議会は、画面が小さくてアドレスの全体を確かめにくいこと、通知からすぐ開けることを、SMSを使ったフィッシングの脅威を高める背景の一つに挙げています。
スマートフォンを狙う手口には、メールやSMSでアプリの入れ直しや更新に誘う型があります。協議会は2026年9月8日の緊急情報で、実在の会社の名前をかたって不正なAndroidのアプリを入れさせるフィッシングメールに注意を呼びかけました。口実は、ポイントの失効や当選、クーポン、アプリの更新です。アプリは公式のアプリストアか正規のサイトのリンクから入手するよう、協議会は求めています。2026年6月分の月次報告でも、アプリの更新やインストールは端末の設定か公式のアプリストアから行うよう注意しています。編集アプリの「更新のお知らせ」がメールやSMSで届いても、そのリンクは開かず、ストアのアプリを開いて更新を確かめましょう。
Androidで確かめる設定
Androidでは、Google Playプロテクトがオンになっているかを確かめます。Playストアのアプリで右上のプロフィールのアイコンをタップし、[Play プロテクト]から設定のアイコンを開くと、[Play プロテクトによるアプリのスキャン]の切り替えがあります。Googleの説明では、初めの状態でオンになっていて、Play以外から入れたアプリにも有害なものがないかを調べます。常にオンにしておくよう勧められています。
もう一段固めたいなら、[高度な保護機能]を使う方法もあります。設定アプリの[セキュリティとプライバシー]から[その他の設定]、[高度な保護機能]と進み、[デバイス保護]をオンにすると、提供元の分からないアプリのインストールと更新が止められ、Playプロテクトも切れなくなります。使うには、画面ロックの設定が必要です。機種やAndroidのバージョンによっては、項目が無いこともあります。ストアの外からアプリを入れる予定が無い人には、分かりやすい守りです。
iPhoneは、App Store以外の入手先が増えた
iPhoneのアプリはApp Storeから入れるのが基本ですが、2025年12月に一つ変わったことがあります。Appleは2025年12月17日、日本のスマホソフトウェア競争促進法に対応するため、iOS 26.2から、日本ではAppleが認めた別のアプリマーケットプレイスからもアプリを配れるようにすると発表しました。Appleは、そうしたアプリにも「公証」と呼ぶ基本的な確認を行うとしています。ただ、その範囲はApp Storeの審査ほど広くありません。App Store以外から入れたアプリは同じ保護を受けられない、とAppleは説明しています。
編集アプリでいえば、App Storeにあるものは、これまでどおりApp Storeから入れるのが分かりやすい道です。別のマーケットプレイスを使うなら、そのマーケットプレイス自体と、アプリの提供元の両方を確かめる手間が一つ増える、と考えておきます。
ただ、「iPhoneだから大丈夫」とは言えません。偽のAI動画サイトのように、ブラウザで開いたページに写真を上げさせたり、ログイン情報を入れさせたりする手口は、端末の種類を選びません。偽のページにGoogleやAppleのアカウントのパスワードを入れてしまえば、その先で起きることはパソコンと同じです。
スマートフォンに怪しいアプリを入れてしまった後の具体的な手順は、機種や入れたアプリによって違います。慌てて自分で操作を重ねる前に、携帯電話会社の窓口や、IPAの情報セキュリティ安心相談窓口に相談しましょう。パスワードの変更は、別の端末から行う点もパソコンと同じです。
職場・学校・団体で、動画を作るパソコンの決まり
小さな事務所や店、学校、PTAや自治会では、動画を作るパソコンを何人かで使い回すことがよくあります。必要になった人がその場でソフトの名前を検索し、出てきたページから入れる。誰がいつ何を入れたのか、後から誰にも分からない。偽の配布サイトにとっては、いちばん入り込みやすい状態です。
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」は、2026年3月27日に第4.0版になり、基本の5か条に「バックアップを取ろう!」を加えて6か条になりました。OSやソフトウェアを常に最新の状態にする、ウイルス対策ソフトを入れる、パスワードを強くする、共有の設定を見直す、バックアップを取る、脅威や攻撃の手口を知る。動画を作るパソコンの決まりも、この6つに沿って作ると漏れが減ります。
決めておくことは多くありません。紙1枚で足ります。
使ってよい編集ソフトと、その入手先(公式サイトのアドレスか、ストアの提供元の名前)の一覧
ソフトを入れたり更新したりするのは誰か。ほかの人は入れずに、その人に頼む
新しいAIのサービスに写真や動画を上げる前に、誰に相談するか
おかしいと思ったときに、まず誰に知らせるか(夜や休みの日の連絡先も)
作品の控えを取る日と、控えの置き場所
知らせを受ける側の構え方も決まりのうちです。「入れてしまったかもしれない」と言い出した人を責めると、次からは誰も言わなくなり、気づくのが遅れます。早く知らせてくれたことを、まず受け止めます。
編集を外部の人や制作会社に頼むときも、原本の扱いを先に決めておきましょう。撮影した素材の原本は自分の側に残し、渡すのは写しにする。共有のリンクは相手と期限を決めて作る。納品の後に、相手の手元の素材をどうするかを話しておく。IPAのガイドラインも、委託先の情報セキュリティまで考えることを経営者の原則の一つに挙げています。
保護者や参加者から動画を集めるとき
学校の行事やPTA、地域の催しでは、保護者や参加者が撮った動画を集めて1本にまとめることがあります。集め方を決めずに呼びかけると、いろいろなサービスの共有リンクや、圧縮したファイルが、ばらばらの経路で届きます。受け取る側は、そのたびに知らないページを開き、知らない形のファイルを開くことになります。
集める前に、置き場所を一つに決めて伝えます。学校や団体で使っているクラウドのフォルダか、受け取る側が決めた一つのサービスにそろえ、ファイルは撮ったままのMP4やMOVで送ってもらいます。送る人に、特別なソフトを入れてもらう必要は無いはずです。届いた物の中に、動画ではない形のファイルが混ざっていたら開かずに送り主へ確かめる、子どもの顔が映る動画をいつまで置いていつ消すか、もあわせて決めておきます。
相談先を先に決めておく
数人の職場では、パソコンに詳しい人がいないことも珍しくありません。何か起きてから相談先を探すと、その間に時間が過ぎます。IPAの「企業組織向けサイバーセキュリティ相談窓口」は、被害に遭ったときの初動の相談をメールで受け付けています。パソコンの購入やネットワークの工事を頼んでいる業者がいるなら、感染が疑われたときに来てもらえるかを、平時に確かめておきます。
中小企業向けには、IPAが2021年春に始めた「サイバーセキュリティお助け隊サービス」という制度もあります。中小企業に必要な守りをひとまとめにした民間のサービスをIPAが審査して「お助け隊マーク」を付けるもので、経済産業省も後押ししていて、「デジタル化・AI導入補助金」で導入できます。相談先の電話番号やメールのアドレスは、紙に書いて、パソコンの近くに貼っておきます。パソコンが使えないときに、パソコンの中の連絡先は見られないからです。
入れてしまったと気づいたら、最初の1時間でやること
「動画」を開いたのに何も再生されなかった。入れたソフトの様子がおかしい。覚えのない端末からのログインの通知が来た。チャンネルの名前や説明が勝手に変わっている。こうした兆しに気づいたら、慌てて手当たり次第に動くより、順番を守るほうが被害を小さくできます。最初にやることを、上から順に並べました。
慌てて消したり使い続けたりする前に、上から順に済ませる
ネットワークから切り離す
最初に、そのパソコンのLANケーブルを抜き、Wi-Fiを切ります。情報の送り出しや遠隔操作を止めるためです。IPAも、遠隔操作されていると気づいたら、まずネットワークを切断するよう案内しています。職場のパソコンなら、自分で片付けを始める前に担当者へ知らせます。IPAは、企業のパソコンは情報漏えいの調査が終わるまで端末を保存するよう求めています。
このとき、控えの外付けドライブを、そのパソコンにつながないでください。JPCERT/CCは、ランサムウェアの被害を受けたときの手引きで、無事だったバックアップは安全が確かめられるまで切り離して退避するよう勧めています。自動のバックアップの仕組みによっては、無事だった控えが上書きされて消えるおそれがある、とも書いています。
別の端末で、パスワードを変えてログイン状態を切る
次に、感染が疑われるパソコンとは別の端末、たとえば自分のスマートフォンや家族の別のパソコンから、パスワードを変えます。疑わしいパソコンで変えると、新しいパスワードまで盗まれるおそれがあるからです。順番は、パスワードの再設定の連絡が届くメールのアカウントを先にし、次に動画の投稿サイトとクラウドの保存先、SNS、銀行やカード、その後にブラウザに保存していたほかのサービスへと進めます。
パスワードを変えるのと一緒に、ログインしている端末の一覧を開き、知らない端末や疑わしいパソコンからログアウトさせます。盗まれたクッキーで使われているログインの状態を切るためです。Googleのアカウントなら、アカウントの管理画面の[セキュリティとログイン]にある「お使いのデバイス」から[すべてのデバイスを管理]を開き、知らない端末や使っていない端末を選んで[ログアウト]します。同じ名前の端末がいくつも並ぶときは、別の端末のものが混ざっていることがあるので、その名前の分はすべてログアウトさせておきます。
ブラウザにクレジットカードの番号を保存していたなら、カード会社に連絡して、利用の停止や番号の切り替えを相談します。暗号資産のウォレットを使っていた場合は、その事業者の案内に沿うのが先です。
パソコンを検査し、遠隔操作の跡があれば戻す
Windowsなら、Microsoft Defenderのオフライン スキャンが使えます。「Windows セキュリティ」の[ウイルスと脅威の防止]を開き、スキャンのオプションから[Microsoft Defender ウイルス対策 (オフライン スキャン)]を選んで、[オフライン スキャンを開始する]を押します。パソコンはWindowsを読み込まずに回復環境で起動して検査し、終わると自動で再起動します。Windowsが動いている間は隠れられるマルウェアも見つけやすくなる方法です。結果は[保護の履歴]で見られます。再起動するので、開いているファイルは先に保存します。
検査で何も見つからなくても、安全だとは言い切れません。入れたのが新しい種類のマルウェアなら、検査の仕組みがまだ追いついていないこともあります。怪しいファイルを開いた記憶がはっきりあるなら、遠隔操作されたときと同じく、事件の前の状態に戻すか初期化する方向で考えます。
自分が触っていないのに画面が動いた、知らない遠隔操作のソフトが入っていたという場合は、IPAの手順が参考になります。ネットワークを切ったうえで、遠隔操作のソフトがアプリの一覧にあればアンインストールします。一覧に出ないものもあり、その場合は次の「システムの復元」だけを行います。何をされたかを見きわめられないので、Windowsの「システムの復元」で事件の前の状態に戻すのが安全で、できなければ初期化です。初期化するとデータは消えるので、その前に次の節を読んでください。
相談と届け出
警察には、都道府県警察ごとにサイバー事案の相談窓口があります。警察庁は「サイバー事案に関する通報等のオンライン受付窓口」も設けていて、被害の事実を伝える通報、助言を求める相談、情報提供の3つを、都道府県と警察本部・警察署を選んで受け付けています。急ぐものは110番です。
技術的なことは、IPAに相談できます。個人のパソコンやスマートフォンのことは「情報セキュリティ安心相談窓口」(電話03-5978-7509)が受けます。企業や組織には「企業組織向けサイバーセキュリティ相談窓口」があります。ウイルスの感染や不正アクセスの被害の届け出も、IPAが受け付けています。偽のソフトに代金を払った、契約をさせられたといった消費生活の問題は、消費生活センター(局番なしの188)が窓口です。
相談の前に、記録を残しておきましょう。開いた広告やページの画面、ページのアドレス、ダウンロードしたファイルの名前、日時、ページに入力した内容です。スマートフォンで画面を撮っておけば十分です。自分で消してしまうと、何が起きたかを後から確かめられなくなります。
依頼主の名簿や出演者の連絡先など、個人情報が入ったパソコンで起きたなら、個人情報保護委員会への報告が要るかを確かめます。委員会の整理では、報告が要るのは、要配慮個人情報、不正に使われると財産の被害が生じるおそれのあるもの、不正の目的による漏えい(第三者によるものを含む)、1,000人を超えるもののいずれかで、そのおそれがある場合も含みます。マルウェアによる持ち出しは、不正の目的によるものに当たりえます。
期限は、知った時点から速報がおおむね3〜5日以内、確報が30日以内(不正の目的による場合は60日以内)です。自分の事業が対象になるか、何を報告するかは、委員会のページや専門家に確かめます。依頼主との契約に、事故の連絡の決まりがあれば、それにも従います。ディスクやUSBメモリを紛失したときの報告の流れは、ディスクやUSBを紛失したときの報告義務 で詳しく書いています。
初期化の前に、作品のどれを持ち出してよいか
初期化を決めると、次に迷うのが「パソコンの中の作品をどうするか」です。全部をそのまま外へ写すと、マルウェアまで一緒に連れ出すおそれがあります。かといって何も写さずに初期化すれば、控えの無い作品は消えます。
いちばん安全なのは、事件の前に取った控えから戻すことです。IPAは2026年9月に「ランサムウェア被害から学ぶ教訓集」を公開しました。汚染されたおそれのあるバックアップは、復旧に使えない。侵入が始まる前のバックアップは安全なので、侵入の時期を特定できるよう記録を残す。これが教訓の一つです。控えのラベルに日付を書いておくのは、このためです。いつ偽のファイルを開いたかが分かれば、それより前の日付の控えを選べます。
戻すのは、パソコンを初期化してOSと編集ソフトを公式の道から入れ直した後です。JPCERT/CCも、復旧の前に原因と考えられるものをすべて取り除き、ネットワークに戻す前に攻撃者が残したものが除かれたかを確かめるよう書いています。Microsoftは、OneDriveの復元の前に端末をきれいにしないと、戻したファイルが再び暗号化されるおそれがあると注意しています。クラウドに同期していたファイルも、順番は同じです。
事件の前の控えが無い作品だけは、初期化の前に写し出すかを考えます。写すのは、カメラやスマートフォンで撮った元のファイル、書き出した完成版、編集のプロジェクトのファイルなど、自分が作った物に絞ります。インストーラーやZIP、ダウンロードした道具、ブラウザのデータは写しません。写す先は、今使っている控えのドライブではなく、空の別のドライブにします。写した後は、きれいにしたパソコンで、開く前に検査をかけます。
書き出しが済んでいない作品があるなら、ネットから切り離したまま、完成版の書き出しだけを済ませておく方法もあります。編集のプロジェクトは、ソフトや素材の置き場所に左右されるため、入れ直した後に開けないことがあります。手元に残るものとして確実なのは、MP4やMOVに書き出した完成版です。
初期化した後は、更新、設定、ソフト、作品の順に戻す
Windowsの初期化は、[回復]の中の「この PC をリセットする」から行います。Microsoftの説明では、Windowsを入れ直す方法で、個人用のファイルを残すか、すべて削除するかを選べ、アプリと設定は消えます。設定の画面から始められないときは、Windowsの回復環境の[トラブルシューティング]からも実行できます。似た名前の「システムの復元」は、システムのファイルと設定を前の時点に戻すもので、個人用のファイルには手を付けません。
個人用のファイルを残す選び方もありますが、偽のファイルや入れ物のZIPがダウンロードのフォルダなどに残っていれば、それも一緒に残ります。作品を事件の前の控えから戻せるなら、すべて削除を選び、まっさらな状態から組み立て直すほうが迷いません。初期化が済んだら、次の順に戻していきます。
アカウントにログインする前に、Windows Updateで最新の状態まで更新する
前の節の守りの設定(評判ベースの保護、ブラウザのセーフ ブラウジングなど)を確かめる
編集ソフトを、表の入手先から入れ直す(ダウンロードのフォルダに残っていた古いインストーラーは使わない)
別の端末で変えた新しいパスワードでログインし、パスキーや2段階認証を設定する
事件の前の日付の控えから作品を戻し、開く前に検査をかける
何が起きたか、いつ偽のファイルを開いたかを紙に書き残す
順番に意味があります。更新と設定を先に済ませるのは、守りの無い状態でネットに出る時間を短くするためです。ソフトを入れ直すときに古いインストーラーを使わないのは、それ自体が今回の原因だったかもしれないからです。最後の記録は、次に控えから戻すとき、どの日付より前の控えなら安全かを判断する手がかりになります。Macで入れ直すときも、Appleのサポートの案内に沿ってmacOSを入れ直した後の順番は同じです。
作品の原本は、事件の前から、つながっていない場所に置く
ここまでは、入れないための話と、入れてしまった後の話でした。最後の守りになるのは、何かが起きる前に、作品の原本を別の場所に写しておくことです。事件の後では、写そうとしているファイルが無事かどうかを、自分では確かめきれません。控えは、何も起きていない今日のうちに作るのがいちばん確実です。
原本と呼ぶのは、素材・プロジェクト・書き出しの3つ
作品の控えに入れる物は、3つに分けて考えると整理しやすくなります。1つ目は、カメラやスマートフォンで撮った元のファイル(撮影素材)です。撮り直しのできない物で、いちばん大きく、いちばん失いたくない物です。2つ目は、編集のプロジェクトのファイルで、どこを切ってどう並べたかという作業の記録です。3つ目は、書き出した完成版で、MP4やMOVの形になっていれば、編集ソフトが無くても再生できます。
これに、使った音源やフォントの購入・許諾の記録を足しておくと、後で作り直したり別の場所で公開したりするときに困りません。作品ごとにフォルダを一つ作り、中を決まった形に分けておけば、控えを取るときも戻すときも迷いません。日付と題名をフォルダの名前に入れておくと、どの控えがいつの物かもすぐ分かります。
日付と題名をフォルダ名に入れ、中を決まった形に分けると控えも戻しも迷わない
容量が限られるなら、優先順位をつけます。撮影素材と完成版は、なくすと取り戻せない物なので、必ず2か所以上に置きましょう。プロジェクトは、素材と完成版があれば手間をかけて作り直せるので、その次です。編集ソフトの中だけに保存されているプロジェクトがあるなら、ソフトの機能でファイルとして書き出せるかを確かめておきます。
写しは3つ、媒体は2種類、1つは別の場所
控えの持ち方の目安として、よく紹介されるのが「3-2-1」です。写しを3つ(元のファイルと控え2つ)持ち、媒体を2種類に分け、1つは別の場所に置く、という考え方で、米国の写真家ピーター・クローの著書『The DAM Book』で広まったとされます。米国の政府機関CISAも、中小企業向けのページで信頼できる指針として紹介しています。法律や公的な基準で決まった決まりではなく、経験から生まれた目安です。
なぜ「別の媒体」「別の場所」が要るのかは、警察庁の数字によく表れています。警察庁が2026年3月に公表した令和7年(2025年)のまとめでは、ランサムウェア被害の報告は226件で、被害に遭った組織のうち、バックアップから復元できたのは有効回答99件中20件でした。復元できなかった理由でいちばん多いのは「バックアップの暗号化・消去」で、72件中48件です。警察庁は、攻撃者が内部を探ってバックアップを見つけ、一緒に暗号化してしまう場合が多いと説明しています。控えを取っていても、元と同じ手の届く場所にあれば、一緒に失われるということです。
外付けHDDは、控えを取るときだけつなぐ
IPAの中小企業向けの自社診断は、バックアップの項目で、控えに使う装置や媒体はバックアップのときだけパソコンと接続すること、安全な場所に保管すること、戻せるかを定期的に確かめることを挙げています。家庭の動画の控えでも同じです。外付けのHDDをつなぎっぱなしにせず、写したら取り外し、棚にしまいましょう。
やり方の一例は、外付けHDDを2台用意し、月ごとに入れ替えることです。今月の控えを取ったら、そのHDDを外して自宅の棚へ、先月のHDDは職場や実家へ、というように置き場所を分けます。Windowsのファイル履歴やMacのTime Machineのような自動の控えは便利ですが、つながったままの控えでもあります。米国の政府機関(旧US-CERT)の資料も、自動で上書きする控えは、元のファイルの破損やマルウェアを気づかないうちに控えへ広げると説明しています。自動の控えは日々の失敗に備える物、取り外した控えは事件に備える物と、役割を分けて持ちます。NASや外付けHDDごと暗号化された例と、つなぎっぱなしを避ける組み方は、NASや外付けHDDごと暗号化されるランサムウェア で詳しく書いています。
クラウドは、戻せる期間を知って使う
クラウドの保存先は、手軽な「別の場所」になります。ただ、消えたり書き換わったりしたファイルを戻せる期間には、上限があります。2026年10月に各社の公式の説明で確かめた範囲では、OneDriveのごみ箱から戻せるのは、個人用のアカウントで削除から30日以内です。OneDrive全体を過去30日以内の時点に戻す機能を使うには、Microsoft 365の契約が要ります。Googleドライブは、ゴミ箱のファイルが30日で消え、アップロードしたファイルの古い版は30日たつか新しい版が100個できると消えることがあります。
Dropboxは、削除したファイルを戻せる期間がプランで違い、Basic・Plus・Familyで30日、Professional・Essentials・Standard・Businessで180日、それより上のプランで365日です。iCloud Driveは、削除したファイルを30日以内なら「最近削除した項目」から戻せます。どれも、契約やプラン、管理者の設定で変わるので、自分が使っているプランで確かめます。
もう一つ、クラウドの戻す仕組みは、同じアカウントの中の仕組みだという点も見落とせません。盗まれたクッキーでアカウントに入られれば、ファイルもゴミ箱も、相手の手の届く所にあります。感染に気づくのが遅れれば、戻せる期間を過ぎていることもあります。クラウドは控えの一つとして使い、ほかの媒体と組み合わせましょう。組み合わせ方の例は、写真・動画の長期保存はクラウドとDVDのどっち? にあります。
ディスクに焼く控えは、書き換えられない一枚として持つ
3-2-1の「2種類の媒体」の片方に、DVD-RやBD-Rのような記録型の光ディスクを使う方法があります。外付けHDDやクラウドと比べたときの役割ははっきりしていて、ある時点の作品を、後から書き換えられない形で、ネットワークから離して残す一枚です。役に立つ理由と限界を、両方書いておきます。
追記型の盤が控えに向く理由
総務省の説明では、DVD-RとDVD+Rは1回だけ書き込める盤で、容量は1層4.7GB・2層8.5GB、BD-Rも1回書き込みで1層25GB・2層50GBです。こうした追記型の盤は、一度記録した部分を、物理的に書き換えたり消したりできません。書き込みを終えてディスクを閉じれば(ファイナライズ)、それ以上は書き足せなくなります。
書き込みが終わってドライブから出し、棚に置いた盤には、どのネットワークからも届きません。後でパソコンが感染しても、棚の盤の中身は変わりません。旧US-CERTの資料も、書き換えできない盤のデータは、誤って消されたり、後の版の破損やマルウェアを引き継いだりしないと説明しています。書き込んだ時点の状態がそのまま残るので、後で手元のファイルと比べて、変わっていないかを確かめる元にもなります。薄くて軽いので、自宅とは別の場所に置きやすいのも利点です。
限界も一緒に覚えておく
いちばん大事な限界は、感染したファイルや暗号化された後のファイルを焼けば、その状態のまま残ることです。焼くことで中身がきれいになるわけではありません。焼く前に、ファイルが開けること、中身が正しいことを確かめます。ドライブに入れたままの盤や、ファイナライズしていない盤は、守りが弱くなります。ファイナライズしていない盤をドライブに入れたままにすると、追記によって、中身が見かけの上で書き換わることがあるからです。DVD-RWやBD-REのような書き換え型の盤は、消して書き直せるので、書き換えられない控えの役には向きません。
盤には寿命があります。カナダ保存研究所(CCI)の目安では、一般的な銀系の反射層のDVD-Rで10〜20年、BD-Rで5〜10年で、これは温度と湿度だけに基づく目安です。国立国会図書館の報告書は、JIS Z 6017などで長期保存に適した環境として、温度10〜25℃、湿度40〜60%を挙げています。直射日光の当たる窓辺や、夏に暑くなる車の中、湿気のこもる押し入れの奥は避けます。
読むためのドライブも要ります。記録型の盤はいまも買えますが、ソニーは2025年2月で記録用のブルーレイディスクの生産を終えました。バーベイタムと、国内の総代理店のアイオーデータ(2026年7月にアイ・オー・データ機器から社名を変更)は供給を続けると表明しています。一方で、ドライブはメーカーの撤退や販売終了が続き、選択肢が減っています。盤で控えるなら、読めるドライブを一台は手元に残しておきましょう。選び方は外付けDVD・ブルーレイドライブの選び方にまとめています。
盤は持ち出せるぶん、なくしたり盗まれたりもします。盤の中身は、読めるドライブがあれば誰でも読めます。出演者の顔や依頼主の映像が入った盤は、鍵のかかる場所に置き、持ち出しの決まりを作ります。そして、盤だけで守ろうとはせず、外付けHDDやクラウドと組み合わせます。
容量の見当をつける
盤に入る量は、表記より少し少なく見えます。表記のGBは10億バイトの単位で、パソコンの表示ではDVD-Rの4.7GBが約4.38GB、BD-Rの25GBが約23.3GBになり、管理のための領域の分だけ、実際に入る量はさらに減ります。
撮った映像の大きさの見当には、iPhoneの設定画面に出る1分あたりの目安が使えます。iOS 18.6の画面の文言では、4K・30fpsを高効率とHDRで撮ると1分で約190MBで、30分なら計算上約5.7GBになり、1層のDVD-Rには入りません。25GBに達するのは、計算上は約2.2時間分です。1080p・30fpsなら、高効率とHDRで1分約65MBです。1年分の撮影素材をまるごと盤に焼くと、何十枚にもなることがあります。現実的なのは、撮影素材の全部は外付けHDDに置き、完成版と、残したい場面の素材を選んでBD-Rに焼く分け方です。
控えの盤を焼く手順
ファイルのまま焼くデータの盤は、自分のパソコンで焼く前提で手順を書きます。
焼くファイルをいくつか実際に開き、動画が最後まで再生される、プロジェクトが開くことを確かめる
ウイルス対策の検査をかけ、自分で撮った素材と自分で書き出したファイルだけを入れる
全部のファイルのハッシュ値の一覧を作り、一覧を盤にも別の場所にも残す
後から足したり消したりできる使い方を避け、一度にまとめて書き込んでディスクを閉じる(ファイナライズ)
ドライブから取り出し、日付と中身を書いたケースに入れて、パソコンから離れた場所に置く
年に1回、読めるか、ハッシュ値が一致するかを確かめる
ハッシュ値は、ファイルの中身から計算する値で、中身が1文字でも変われば値が変わります。WindowsならPowerShellのGet-FileHashで計算でき、何も指定しなければSHA-256で出ます。Macならターミナルでshasumを使い、SHA-256にするには「-a 256」を付けます(付けないとSHA-1になります)。一覧の作り方と照らし合わせ方はバックアップは取ったつもりになっていないかに、ディスクを閉じる処理はファイナライズとは に書いています。ハッシュ値が一致するのは、焼いたときから中身が変わっていないことの確認で、ウイルスが入っていないことの証明ではありません。だから、手順の1つ目と2つ目で、焼く前の中身を確かめておきます。
再生用のDVD・ブルーレイは、アカウントの要らない「見られる控え」
同じ光ディスクでも、ファイルのまま焼くデータの盤と、テレビにつないだプレーヤーで再生できるように組み立てた映像の盤とでは、役割が違います。データの盤は、パソコンに戻して編集を続けるための控えです。映像の盤は、見るための控えです。2つの違いと、テレビで再生できないときの見分け方はデータDVDと映像DVDの違い で説明しています。
映像の盤のよいところは、見るのにアプリもアカウントもインターネットも、編集ソフトも要らないことです。動画の投稿サイトのアカウントを乗っ取られても、使っていたアプリの提供が終わっても、クラウドのプランが変わっても、棚の盤はプレーヤーに入れれば再生されます。パソコンを初期化した日でも、完成した作品を家族と一緒に見られます。機械が苦手な祖父母に渡すときにも、操作はプレーヤーに入れて再生するだけです。
一方で、映像の盤は編集の原本にはなりません。DVDの映像は720×480の画素で記録され、ブルーレイでも1920×1080です。4Kで撮って書き出した作品も、盤にする時点でこの大きさに変換されます。盤から取り出した映像で編集をやり直すと、元のファイルより粗くなります。撮影素材と完成版のファイルは、外付けHDDやデータの盤に別に残しておきます。DVDは多くの家庭で見られますが、再生できる盤の種類は機種によって違うので、配る前に何台かのプレーヤーで試します。
3つの控えの役割を並べると、次のようになります。外付けHDDは素材も含めた全部を置く日々の控え、データの盤は選んだ素材と完成版を書き換えられない形で残す控え、映像の盤は作品を見たり渡したりするための控えです。
全部を置くHDD、戻すためのデータの盤、見て渡すための再生用の盤と、役割を分けて持つ
映像の盤に向くのは、子どもの行事や家族の記録、園や学校の発表会、依頼を受けて作った紹介動画の納品、配信した作品のうち手元に置いておきたい回など、完成した形で何度も見返す動画です。CapCutで編集した作品を盤にするときの書き出しの設定は、CapCutで編集した動画をDVD・ブルーレイにするにまとめています。
控えを取る日を、作品の区切りに合わせる
控えは、思い出したときに取る形だと続きません。忙しい月ほど忘れ、忘れた月に限って何かが起きます。暦の日付だけでなく、撮影や納品といった作品の区切りに、控えを取る作業をくっつけておくと、取り忘れが減ります。
一つの例として、次の段取りがあります。
撮影した日:カードやスマートフォンから素材をパソコンへ写したら、その日のうちに外付けHDDにも写す。カードの中身は、2か所に写し終えるまで消さない
書き出した日:完成版を作品のフォルダの「03_書き出し」に入れ、外付けHDDに写す
月末:外付けHDDの2台を入れ替え、取り外した1台を別の場所へ運ぶ
作品の区切り(行事が終わった、納品した):完成版と残したい素材をBD-Rに焼き、ハッシュ値の一覧と一緒にディスクを閉じて保管する。再生用の盤を渡すのもこのとき
年に1回:盤とHDDが読めるか、ハッシュ値が一致するかを確かめ、読みにくくなった盤があれば新しい盤に移す
家庭なら、この段取りを誰が受け持つかを決めます。職場や団体なら、前に書いた紙1枚の決まりの「控えを取る日」に、この段取りを書き込みます。担当が一人に偏ると、その人が休んだ月に止まるので、二人で回せる形にしておきましょう。
もう一つ、見落としやすい区切りがあります。新しい編集ソフトや、初めてのAIのサービスを試す日です。試す前の日に控えを取っておけば、もし入手先を誤っても、戻る場所がはっきりします。新しい物を入れる日は、控えを取る日。この組み合わせを覚えておくと、この記事で書いた2つの守りが一つの習慣になります。
完成した動画を盤で残すとき、当社にできること
当社は、完成した動画のデータから、プレーヤーで再生できるDVD・ブルーレイを作る書き込み代行の店で、1枚から注文できます。家族の行事の動画、園や学校の発表会の記録、仕事で作った紹介動画、配信した作品のうち手元に残したい回など、書き出しの済んだ動画を、テレビにつないだプレーヤーで見られる盤にして、見られる控えにできます。当社が受け付けるのは完成した動画のデータなので、編集ソフトやプロジェクトのファイルを送ってもらう必要はありません。
入稿は、書き出したMP4やMOVなどの共有URLを注文フォームに貼る形で、スマートフォンからも入稿できます。ギガファイル便、Googleドライブ、Dropbox、OneDriveなどの共有URLが使えます。複数のファイルを1枚に入れるときは、ファイル名の頭に「01_」「02_」と付けると、その番号の順に収録します。共有のリンクは、送る相手と期限を決めて作ります。
ギガファイル便は、保持期限をアップロードの前に選び、後から延ばせないので、余裕のある日数にしておきます。ダウンロードパスワードを付けた場合は、注文フォームにURLを貼ると入力欄が開き、入れたパスワードが合っているかをその場で確かめる作りです。ギガファイル便以外のサービスのパスワードの伝え方は、注文の前に相談・問い合わせフォームで確かめてください。ギガファイル便を安全に使うための設定は、ギガファイル便は安全? で書いています。
受け取った動画は、プレーヤーで読める形に組み立てる作業(オーサリング)をしてから書き込み、実際のプレーヤーで再生を確かめてから、ケースに入れて渡します。料金は、基本料金(DVD・1枚あたり)が1,500円(税抜)、基本料金(Blu-ray・1枚あたり)も1,500円です。
控えを2か所に分けて置きたいときは、同じ内容の焼き増しを一緒に頼むと、自宅の棚と実家や職場というように、別々の場所に同じ盤を置けます。追加コピー(同一内容の焼き増し・1枚あたり)は1,000円です。盤面レーベル印刷(1枚あたり)は+1,000円で、題名や日付を入れた画像を入稿してもらい、その画像を盤に印刷します。当社でデザインや文字入れはしないので、画像は自分で用意します。何年か後に棚から出したとき、どの盤がいつの何の記録かがすぐ分かります。
発送はクリックポストで、平日12時までの注文・入稿なら当日店舗お渡しも選べます。お引き受けできるのは、撮った本人の動画か、権利者の許可がある動画です。ファイルのまま焼くデータの盤を当社に頼めるか、出演者の顔や名前が映る動画を預けるときの扱いなど、気になる点があれば、注文の前に相談・問い合わせフォームで確かめてください。
今週のうちに、入手先を一つずつ確かめ直す
偽の動画編集ソフトやAI動画サイトは、名前を変え、宣伝の場所を変えて、これからも現れます。取り締まりで一度止まったLummaが数週間でほぼ元の水準に戻ったように、相手の数を減らすことには限りがあります。利用者の側でできるのは、入手の道を自分で決めることと、作品の原本を離れた場所に置いておくことの2つです。
今週のうちにできることを4つ挙げます。
編集に使うパソコンとスマートフォンで、入っている編集ソフトとアプリを書き出し、どこから入れたかを表の入手先と照らす。分からないものは消して、公式の道から入れ直す
ファイル名拡張子の表示と、評判ベースの保護、セーフ ブラウジング、Playプロテクトの設定を確かめる
動画の投稿サイトとクラウドのアカウントを、パスキーか2段階認証にする
撮影素材と完成版を外付けHDDに写して取り外し、残したい作品は盤に焼いて、パソコンから離れた場所に置く
ほかの脅威も含めて何から手を付けるかは、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」を家庭と小さな職場の目線で読み直した情報セキュリティ10大脅威2026を家庭と小さな職場で読む で整理しています。入手先を自分で選ぶ一手間と、つながっていない場所の控え。この2つがあれば、うっかりが起きた日にも、作品を取り戻す道が残ります。
よくある質問
Q. CapCutを使い続けても大丈夫ですか A. 報告されたのは、CapCutの名前と見た目をまねた偽の配布サイトが、別のプログラムを配っていた件です。2026年10月の時点で、正規の入手先はパソコン版が公式サイト(capcut.com)、スマートフォン版がApp StoreとGoogle Playで、WindowsではMicrosoft Storeにもあり、提供元はBytedance Pte. Ltd.です。どこから入れたか覚えていないなら、消して正規の入手先から入れ直します。
Q. 検索結果の広告は、全部クリックしないほうがよいですか A. 広告がすべて偽物というわけではありません。気をつけるのは、広告から直接ダウンロードに進むことです。広告は製品を知るきっかけにとどめ、入れるときはブックマークやアプリストアから開き直します。Googleの広告は、横の3つの点のメニューから広告主の基本的な情報を確かめられ、ソフトの会社と違う名前なら進みません。
Q. AIで動画を作るサイトが本物かを見分ける方法はありますか A. 運営会社の発表や公式アカウントに載っているアドレスと、開いたページのアドレスを見比べます。本物のサービスでは、できた動画は画面の中で再生されるか、MP4などの動画のファイルで保存されます。受け取ったファイルがインストールや実行を求める、拡張子がプログラムの形になっているなら、それは動画ではないので開かずに削除します。
Q. 受け取った動画がZIPに入っていたら開いてよいですか A. 先にファイル名拡張子を表示させてから中身を見ます。MP4やMOVなどの動画の形なら再生できますが、Windowsの.exeや.msi、.scr、.lnk、Macの.appや.pkgのようなプログラムの形のファイルが入っていたら、開かずにZIPごと削除します。偽のAI動画サイトは、まさにこの形で動画に見せかけた実行ファイルを渡していました。
Q. ウイルス対策ソフトが入っていれば防げますか A. 守りの一つとして役に立ちますが、それだけでは足りません。栃木県警察が注意を呼びかけた偽のPDF編集ツールは、入れた後は普通に使え、自動の更新をきっかけに情報を集め始めるものでした。新しい種類のマルウェアは、検査がまだ見つけられないこともあります。公式の入手先を守る習慣と、OSやブラウザの設定、離れた場所の控えを一緒に使います。
Q. 2段階認証をしていてもアカウントを乗っ取られますか A. 乗っ取られることがあります。Googleの脅威分析グループは2021年、YouTubeのクリエイターを狙ったマルウェアが、ログインの状態を保つクッキーを盗み、パスワードも2段階認証も要らずにアカウントに入っていたと報告しました。2段階認証やパスキーはログインの瞬間を守る仕組みなので、マルウェアを入れない習慣とそろえて使います。
Q. 偽のソフトを入れてしまったら、最初に何をすればよいですか A. まずLANケーブルを抜き、Wi-Fiを切ります。控えの外付けドライブは、そのパソコンにつなぎません。次に、スマートフォンなど別の端末から、メールのアカウントを先にしてパスワードを変え、ログイン中の端末の一覧から知らない端末をログアウトさせます。そのうえで検査をかけ、職場なら担当者に、個人なら警察やIPAの相談窓口に相談します。
Q. 初期化する前に、作品をパソコンから写し出してもよいですか A. いちばん安全なのは、事件の前の日付の控えから戻すことです。控えの無い作品だけは、撮影した元のファイル、書き出した完成版、プロジェクトのファイルなど、自分で作った物に絞って、空の別のドライブに写します。インストーラーやZIP、ダウンロードした道具は写しません。写した物は、きれいにしたパソコンで検査してから開きます。
Q. 入れてしまったときに相談できる窓口はどこですか A. 警察は、都道府県警察ごとのサイバー事案の相談窓口と、警察庁の「サイバー事案に関する通報等のオンライン受付窓口」があり、急ぐものは110番です。技術的なことは、個人ならIPAの情報セキュリティ安心相談窓口(電話03-5978-7509)、企業や組織は企業組織向けサイバーセキュリティ相談窓口へ。代金や契約の問題は消費生活センター(188)です。
Q. 作品の控えは外付けHDDとディスクのどちらがよいですか A. 役割が違うので、組み合わせます。撮影素材を含めた全部は外付けHDDに置き、控えを取るときだけつないで、終わったら外します。完成版と残したい場面は、追記型のBD-Rなどに焼いてディスクを閉じ、パソコンから離れた場所に置きます。米国のCISAも紹介する「3-2-1」のように、写しを3つ、媒体を2種類、1つは別の場所に持つのが目安です。
Q. DVDやブルーレイに焼けばウイルスから作品を守れますか A. 焼いてドライブから取り出した追記型の盤は、後でパソコンが感染しても中身は変わりません。ただし、感染したファイルや暗号化された後のファイルを焼けば、その状態のまま残ります。焼く前にファイルが開けることを確かめ、自分で作ったファイルだけを入れます。盤には寿命があり、読むドライブも要るので、外付けHDDやクラウドと組み合わせます。
Q. プレーヤーで見るDVDは、作品の控えになりますか A. 見るための控えになります。アプリもアカウントもインターネットも要らず、プレーヤーに入れれば再生できるので、アカウントを乗っ取られても作品を見返せます。ただし、DVDは720×480、ブルーレイは1920×1080で記録されるので、4Kで撮った作品の編集の原本にはなりません。撮影素材と完成版のファイルは別に残しておきます。
Q. スマートフォンの編集アプリで気をつけることは何ですか A. アプリは公式のアプリストアから入れ、更新もストアのアプリから確かめます。メールやSMSで届いた更新のお知らせのリンクは開きません。Androidなら、Playストアの[Play プロテクト]でアプリのスキャンがオンかを確かめます。iPhoneでも、偽のAI動画サイトに写真やパスワードを入れてしまう手口は起きるので、ページのアドレスを確かめます。