この記事の要点
書き出した動画の色ずれは行列係数・レンジ・ガンマ の三つに切り分けられ、グレーが動いたかどうかで最初のあたりが付きます。
SD向けのBT.601は輝度係数が0.299/0.587/0.114 、HD向けのBT.709は0.2126/0.7152/0.0722 で、取り違えると彩度の高い色だけがずれます。
限定レンジの16-235をフルレンジの0-255として伸ばすと黒が潰れ白が飛び 、逆に圧縮すると黒が16に浮いた薄い絵 になります。
同じ信号でもBT.1886のガンマ2.4 とパソコン側のsRGB相当2.2 では暗部の明るさが変わり、信号0.25では約1.3倍の差が出ます。
DVDは720×480や720×576というSD規格 のため、HD素材からの変換では行列とレンジを決めてから書き出すと色ずれを避けやすくなります。
自分で 焼く 手間も、 失敗の 心配も なく。
動画ファイルを 送るだけで、 家の プレーヤーで 見られる ディスクに してお届けします。
1枚1,500円(税抜)から・ 1枚から注文できます
書き出したファイルを開いた瞬間、編集画面で見ていた絵より薄い。あるいは全体がうっすら青い。緑だけが妙に明るい。プレビューでは合っていたはずなのに、書き出すとずれる。この違和感は、感覚の問題ではなく、たいていは数値の解釈違いです。同じバイト列を、送り手と受け手が別の式で読んでいるために起きます。
原因になりうる経路は、実務上は三つに絞れます。YCbCrとRGBを行き来する行列係数 、信号を0-255で書くか16-235で書くかというレンジ 、そして同じ数値をどの明るさで光らせるかというガンマ です。BT.601とBT.709の話はこのうち一つ目にあたります。
この記事の目次見出しを押すと、その場所へ移ります
色が変わったらまずグレーを見る。行列・レンジ・ガンマは症状の出方が違う 色空間が指す三つの中身は、原色・伝達関数・行列係数 SDとHDで行列係数が違う|0.299/0.587/0.114 と 0.2126/0.7152/0.0722 フルレンジと限定レンジ|16-235を0-255と読むと黒が潰れ白が飛ぶ 黒が浮く・白が飛ぶときに触るのは、書き出し・プレビュー・変換の三か所 同じ数値でも画面が違えば明るさが違う|BT.1886のガンマ2.4とsRGBの2.2 ログ撮影で絵が薄いのは色空間の問題ではない。LUTの前に行列とレンジを固める DVDにするとHD素材の色は動きうる|SD規格への変換で何が起きるか よくある質問 撮った動画は、1枚1,500円(税抜)からDVD・ブルーレイにできます。料金を見る
色が変わったらまずグレーを見る。行列・レンジ・ガンマは症状の出方が違う
色がずれたときの判定材料は、グレーです。書き出し設定を片端から触ると、どれで直ったのか分からないまま時間だけが過ぎます。先に原因の系統を絞ってください。カラーバーがあればいちばん確実ですが、なければ画面内の白い壁、白いシャツ、灰色の床でも判断できます。
見分ける手がかりは、三つの原因がグレー・黒・白をそれぞれ違う動かし方をする ことです。
見えている症状
グレー・黒・白の挙動
疑う場所
緑が明るく転ぶ/鮮やかな赤の彩度が落ちる
グレーは動いていない
行列係数(BT.601とBT.709の取り違え)
全体が眠い/黒が灰色に浮く
黒が16付近、白が235付近に寄る
レンジ(フルレンジを限定として書いた)
コントラストが強すぎる/黒が潰れ白が飛ぶ
黒が0、白が255に張り付く
レンジ(限定レンジをフルとして伸ばした)
中間調だけ明るい、または暗い
黒と白の端の値は変わらない
ガンマ(再生ソフトやモニタ側の解釈)
行列の取り違えはグレーを動かさない
RGBの三つの値が等しい点では、色差成分(Cb・Cr)がちょうどゼロになります。ゼロに何を掛けてもゼロなので、どの係数セットで復号してもグレーはグレーのまま出てきます。つまりグレーが無傷なのに緑や赤だけが派手に動いていたら、行列を疑えばよい ということです。逆に、グレーごと動いているなら行列の問題ではありません。
レンジの取り違えは画面全体を動かす
レンジは信号の上下の端をどこに置くかという約束です。取り違えると引き伸ばしか圧縮が起きるので、影響は全画素に及びます。ヒストグラムを出して、左端が0に張り付いているのか16あたりで止まっているのか、右端が255なのか235なのかを見れば、どちら向きにずれたかまで分かります。
ガンマは端を動かさず中間だけを動かす
黒はやはり黒、白はやはり白のまま、中間調だけが持ち上がって薄く見える、あるいは下がって濃く見える。この出方をしているときは、ファイルの中身よりも、それを表示しているソフトや画面の側を先に疑うほうが早いです。書き出したファイルを二つ以上の再生ソフトで開いてみて、片方だけがおかしいなら、ファイルは正常です。
色空間が指す三つの中身は、原色・伝達関数・行列係数
「BT.709で書き出す」という一文には、実は三つの独立した約束が入っています。ここを分けて考えないと、どこがずれたのか特定できません。
原色と白色点 は、赤・緑・青が具体的にどの色を指すか。CIE 1931の色度座標で定義されます。
伝達関数(ガンマ/トランスファ特性) は、数値と明るさの対応。同じ0.5でも、この約束が違えば別の明るさになります。
行列係数(マトリクス) は、RGBを輝度と色差(YCbCr)に変換するときの重み付け。動画は圧縮効率のためにこの形で持ちます。
BT.709の原色は、赤 x=0.640 y=0.330、緑 x=0.300 y=0.600、青 x=0.150 y=0.060と定められています。白色点はD65で、x=0.3127 y=0.3290です。伝達関数は、Lが0.018未満ならV=4.5L、それ以上ならV=1.099L0.45 −0.099という区分関数です。8ビットの符号値は輝度が16〜235、色差が16〜240(128が無彩色)と決められています。規格としてはBT.709-6が2015年6月版で、最初の承認は1993年11月です。
sRGBと同じに見えて同じではない
ここが混乱のもとです。パソコンの標準色空間であるsRGBは、原色と白色点がBT.709とまったく同じ座標 です。赤0.6400/0.3300、緑0.3000/0.6000、青0.1500/0.0600、D65。ところが伝達関数は違っていて、sRGBは0.04045を境にV/12.92と((V+0.055)/1.055)2.4 という式を使います。おおむねガンマ2.2に近い曲線です。
つまり「原色は共通、明るさの対応だけ違う」という関係になっています。だからパソコンで見たときに色相はほぼ合っているのに明るさやコントラストだけが違う という、あの微妙なズレが起きます。色が転んでいるのか明るさがずれているのかを言語化しておくと、原因の当たりが付けやすくなります。
原色そのものが違うBT.2020
4K・8K向けのBT.2020は原色そのものが大きく違い、赤 x=0.708 y=0.292、緑 x=0.170 y=0.797、青 x=0.131 y=0.046と、はるかに広い範囲を指します。CIE 1931色度図に対するカバー率でいうと、BT.2020が75.8%、BT.709が35.9%という比較が示されています。ビット深度も10ビットまたは12ビットが前提で、8ビットのBT.709とは扱いが変わります。BT.2020素材をそのままBT.709として解釈すると、色が抜けたように薄く出ます。
どの約束がずれたかで症状が変わる。sRGBとは原色が同じで、明るさの対応だけが違う
タグと中身は一致しているとは限らない
MP4やMOVといったコンテナには、この三つを記録するタグ領域があります。問題は、書き出しソフトがタグを付けない場合、あるいは中身と違うタグを付けてしまう場合があることです。タグが無ければ再生側は解像度などから推測するしかなく、その推測が外れると色がずれます。コンテナと中身の関係については動画ファイル形式の基礎(MP4/MOV/AVI) で整理しています。まずは自分のファイルにどのタグが入っているかを確認するところから始めてください。
SDとHDで行列係数が違う|0.299/0.587/0.114 と 0.2126/0.7152/0.0722
いちばん有名なズレがこれです。SD時代のBT.601と、HD時代のBT.709で、RGBから輝度Yを作るときの重みが違います。
規格
主な用途
Kr(赤)
Kg(緑)
Kb(青)
ITU-R BT.601
SD(720×480 / 720×576)
0.299
0.587
0.114
ITU-R BT.709
HD(1920×1080 など)
0.2126
0.7152
0.0722
ITU-R BT.2020
4K / 8K
0.2627
0.6780
0.0593
BT.601は1982年に出され、最新版はBT.601-7(2011年3月8日承認)です。BT.709の初版は1993年11月。SD時代の規格をHD素材に当てはめれば、当然ずれます 。
どれくらいずれるのかを計算してみる
BT.709の係数でYCbCrに変換したデータを、再生側がBT.601だと思って復号した場合、8ビットRGBがどう変わるかを実際に計算した結果が次の表です。式に代入しただけなので、手元でも再現できます。
元のRGB
709で符号化→601で復号
差
純緑 (0, 255, 0)
(20, 255, 8)
赤+20 青+8(緑は上限で頭打ち)
純赤 (255, 0, 0)
(233, 0, 2)
赤−22
純青 (0, 0, 255)
(2, 0, 244)
青−11
彩度の高い赤 (200, 40, 40)
(186, 23, 42)
赤−14 緑−17
肌色 (224, 172, 140)
(219, 169, 142)
赤−5 緑−3
中間グレー (128, 128, 128)
(128, 128, 128)
変化なし
逆方向、つまりBT.601で符号化されたものをBT.709として復号すると、純緑 (0,255,0) が (0,215,0) になり、緑が40も暗くなります。純赤 (255,0,0) は (255,25,0) になって、緑が混じって少し明るく転びます。
読み取れること
数値を眺めると三つのことが分かります。第一に、グレーはまったく動きません 。第二に、動くのは彩度の高い色に偏り、肌色のような中庸な色は数値で数程度しか動きません。だから「なんとなく違うけど言葉にできない」という現れ方をしがちです。第三に、動きが大きいのは緑と赤 です。緑の係数が0.587と0.7152でいちばん離れているためで、植物、芝生、緑の看板、赤い衣装あたりで違和感が出やすくなります。
同じBT.601でもNTSC系とPAL系で原色が違う
あまり触れられませんが、BT.601は525ライン系と625ライン系で原色の座標が別々に定義されています。525ライン(NTSC)系はSMPTE C相当で赤0.63/0.34、緑0.31/0.595、青0.155/0.07。625ライン(PAL/SECAM)系は赤0.64/0.33、緑0.29/0.60、青0.15/0.06です。625ライン系は赤と青の座標がBT.709と同じで、緑だけがわずかに違います。
SMPTE Cは1987年にSMPTEのRecommended Practice 145として採用されたもので、1953年の初期NTSCとも白色点が異なります(初期は昼光C)。「BT.601」という一語が指す原色は一つではない ということです。
フルレンジと限定レンジ|16-235を0-255と読むと黒が潰れ白が飛ぶ
行列より単純で、しかし現場で頻発するのがこちらです。動画の世界では、8ビットの0〜255をすべて使わず、輝度は16〜235、色差は16〜240に収めるのが標準です。16より下は下側の余裕(フットルーム)、235より上は上側の余裕(ヘッドルーム)として、信号処理でのオーバーシュートを受け止めるために空けてあります。235という上限は、(255−235)÷(235−16) で約9.1%のオーバーシュートを許容する設計です。0と255は同期用に予約されています。
一方、写真やパソコンの静止画は0〜255をすべて使うフルレンジが標準です。つまり動画と静止画では、そもそも「黒」と「白」の数値が違う 。ここを取り違えると、伸ばしすぎか縮めすぎが起きます。
取り違えたときに何が起きるか
元の値
限定レンジのデータをフルとして伸長
フルレンジのデータを限定に圧縮
0
—
16(黒が浮く)
16
0(黒が潰れる)
30
64
56
71
128
130
126
235
255(白が飛ぶ)
218
255
—
235(白が沈む)
左の列、つまり限定レンジで作られたファイルをフルレンジだと思って表示すると、16未満に置かれていた黒側の情報が0に潰れ、235を超えていた白側の情報が255に飛びます。コントラストが不自然に強い、いわゆる「パキッとしすぎた」絵になります。一度潰れた階調はグレーディングでは戻りません 。
右の列は逆で、フルレンジで作った素材が限定レンジとして書き込まれ、表示側が伸長しないケースです。真っ黒だったところが16の灰色になり、真っ白が235に落ちます。これが「薄い」「眠い」「霧がかかったよう」と表現される状態です。冒頭の「編集画面より薄い」という症状は、多くの場合ここに当たると考えられます。
中間がほとんど動かないのがやっかい
表の128の行を見てください。伸長で130、圧縮で126。中間調はほぼ動きません 。だから小さなプレビュー画面で顔だけ見ていると気づかず、あとで黒側が潰れていることに気づく、という順番になりがちです。確認は目視ではなく、波形モニタかヒストグラムで端を見るのが確実です。波形モニタなら、黒が16のラインに乗っているか0に落ちているかが一目で分かります。
用語の呼び方が統一されていない
ソフトによって呼び名が違うのも混乱の原因です。限定レンジは「Limited」「TV」「Video Range」「MPEG」「Studio Swing」、フルレンジは「Full」「PC」「Data Range」「JPEG」などと表記されます。たとえばFFmpegのcolorspaceフィルタでは、rangeオプションの値が限定レンジでtv (またはmpeg )、フルレンジでpc (またはjpeg )です。違う名前で同じものを指している と分かっていれば、設定画面で迷いません。
動画と静止画では黒と白の数値が違う。呼び名が違っても指すものは同じ
黒が浮く・白が飛ぶときに触るのは、書き出し・プレビュー・変換の三か所
原因の系統が分かったら、具体的にどこを触るかです。触る場所は三つあります。順番も大事で、上から確認していくと無駄が減ります。
触る場所は三つ。上から順に確かめると無駄が減る
1. 書き出しダイアログの色設定
まず、書き出し時にカラースペースやレンジの指定があるかを探してください。多くの編集ソフトには、書き出しプリセット内に「Color Space」「Match Source」「カラーマネジメント」といった項目があります。「ソースに合わせる」の自動判定に任せると、素材が混在しているときに意図しない設定に決まることがあります 。HD納品ならBT.709、レンジは限定(TV/Limited)を明示的に選ぶ。これだけで大半のケースは止まります。
タイムラインに4K素材とスマホ素材とスクリーン録画が混在しているプロジェクトは特に注意が必要です。スクリーン録画やゲーム録画はフルレンジで記録されることがあり、限定レンジのタイムラインに乗せると変換が入ります。
2. プレビュー側を疑う
書き出しは正しいのに編集画面と違って見える、というケースでは、編集ソフトのプレビューが正しくない可能性があります。判定は簡単で、書き出したファイルを二つ以上の別の再生ソフトで開く だけです。三つのソフトで同じに見えるなら、ファイルは正しく、編集画面の側が特殊な表示をしていたことになります。この場合、ファイルを作り直す必要はありません。
3. 変換時にタグを明示する
すでに書き出したファイルの色を直したい、あるいは色空間を移したいときは、変換の指定を自分で書くのが確実です。FFmpegのcolorspaceフィルタは、space (行列)、primaries (原色)、trc (伝達関数)、range (レンジ)を個別に指定できます。値にはbt709 、smpte170m 、bt470bg 、bt2020 などが使えます。BT.601(SMPTE 170M)系からBT.709へ揃える例はこうなります。
ffmpeg -i input.mp4 -vf "colorspace=space=bt709:primaries=bt709:trc=bt709:range=tv" output.mp4
変換と「タグの貼り替え」は別の操作 だという点が大事です。中身が601の並びのままタグだけを709に書き換えても、色は直りません。むしろ、素材が正しくて再生側が誤判定しているだけなら、タグを正しく付けるほうが正解になります。どちらの状況なのかを、グレーの動き方での切り分けで決めてから手を動かしてください。
やり直しは再エンコードを伴う
色空間の変換は画素値を書き換える処理なので、非可逆圧縮で保存すれば再圧縮による劣化が積み重なります。編集途中で何度も書き出し直すより、マスターは中間コーデックか高ビットレートで一本持っておき、そこから配布用を作る ほうが結果的に速く、きれいです。再エンコードで何が失われるかは画質が劣化しないコピー で説明しています。
同じ数値でも画面が違えば明るさが違う|BT.1886のガンマ2.4とsRGBの2.2
ファイルは正しい。行列もレンジも合っている。それでもテレビとパソコンで違って見える。この段階まで来たら、表示側の伝達関数を考えます。
テレビ用の基準として、ITU-R BT.1886が2011年3月に定められています。これはSDRテレビの基準EOTF(信号を画面の明るさに変換する関数)で、ガンマ2.4 のべき乗則を基本とし、ブラウン管の特性を近似する形になっています。一方、パソコンの標準であるsRGBはおおむね2.2相当。2.4と2.2、この0.2の差が暗部の見え方を変えます。
信号値
ガンマ2.4での相対輝度
ガンマ2.2での相対輝度
2.2は何倍明るいか
0.10
0.0040
0.0063
約1.59倍
0.25
0.0359
0.0474
約1.32倍
0.50
0.1895
0.2176
約1.15倍
0.75
0.5014
0.5310
約1.06倍
0.90
0.7766
0.7931
約1.02倍
信号0(黒)と1.0(白)はどちらの式でも同じ値になります。端は動かず、中間から暗部だけが動く 。最初の節で挙げた「黒と白の端は同じなのに中間だけ違う」という症状は、これです。特に暗いシーンで差が大きく、信号0.1のあたりでは1.5倍以上の開きになります。夜のシーンや黒背景のタイトルで「パソコンでは見えるのにテレビでは潰れている」という現象の説明にもなります。
撮影側の曲線と表示側の曲線は別
ここも混同しやすいところです。BT.709が定めているV=1.099L0.45 −0.099という式は、カメラ側の曲線(OETF、光を信号に変える方向)です。表示側の曲線(EOTF)はBT.1886で別に定められています。0.45の逆数は約2.22ですが、表示側は2.4。この差は設計ミスではなく、暗めの視聴環境でコントラストが自然に見えるように、システム全体でわずかにコントラストを付ける ための意図的な設計です。
できることと、できないこと
この差は規格の設計に由来するもので、ファイル側で「両方で同じに見える一つの値」を作ることはできません。実務的には、納品先の環境を決めて、そこで確認するしかありません。テレビで見せる映像ならテレビで再生して確認する。パソコンで見せるならパソコンで確認する。両方に配るなら、暗部を潰しすぎないよう少し余裕を持って仕上げておくのが現実的です。
加えて、テレビ側の映画モード・ダイナミックモードといったピクチャープリセットや、プレーヤー側の輝度設定も結果を動かします。再生機ごとの挙動差については家庭用プレーヤーの互換性 にまとめてあります。確認は、できるだけ実際に再生される機器でおこなってください。
ログ撮影で絵が薄いのは色空間の問題ではない。LUTの前に行列とレンジを固める
「色が薄い」で検索してログ撮影の話に行き着く人も多いので、切り分けておきます。ログで絵が薄く見えるのと、色空間のズレは別の現象です。
ログ(S-Log、V-Log、C-Log、D-Logなど)は、カメラ側の記録用ガンマカーブです。シャドウとハイライトの情報を広く残すために意図的に低コントラストで記録するので、撮って出しの状態では「洗い流されたような」見た目になります。これは不具合ではなく、後段のグレーディングでコントラストと色を作り直す前提の中間形式です。LUT(ルックアップテーブル)は、その平坦なデータを見られる絵に変換するために当てます。
症状の見分け方
撮影時からずっと薄い なら、ログのまま。LUTかグレーディングで作るべき状態。
編集画面では作り込めていたのに、書き出したら薄くなった なら、ログとは無関係で、レンジか行列の取り違え。
後者をLUTで直そうとすると、かえって悪くなります。行列の取り違えは彩度の高い色だけを非線形にずらすので、LUTで全体を持ち上げても、緑と赤のズレは残ったまま、別の色が破綻します。直す順番は、行列とレンジを合わせてから、色作り です。逆にすると、素材ごとに違う補正を当てることになり、収拾がつかなくなります。
LUTを当てるときの前提を確認する
配布されているLUTには、入力が何で出力が何かという前提があります。ログから709へ変換するLUT(変換LUT)と、709の絵に味付けをするLUT(ルックLUT)は役割が違い、順番を入れ替えると期待した結果になりません。また、LUTの多くはフルレンジ入力を前提に作られていることがあり、限定レンジの素材にそのまま当てると端がずれます。ソフト側にレンジの指定があるなら、そこを明示してください。
混在プロジェクトでの実務
ログ素材、スマホのHDR素材、スクリーン録画、人から受け取った完成データが一つのタイムラインに乗る案件では、素材ごとに前提が違います。作業に入る前に一素材ずつ、記録ガンマ・色空間・レンジの三点をメモしておくと、あとで「どれが原因か分からない」状態を避けられます。タイムラインの色空間を先に一つ決めて、そこへ全素材を寄せる のが、いちばん破綻の少ないやり方です。
行列とレンジの取り違えはLUTでは直らない。先に揃えてから色を作る
DVDにするとHD素材の色は動きうる|SD規格への変換で何が起きるか
ここまでの話は、ディスクを作るときにもそのまま当てはまります。DVD-Videoの映像は、MPEG-2(最大9.8Mbit/s)かMPEG-1です。解像度はNTSC系が720×480で29.97fps、PAL系が720×576で25fpsです。色は8ビットのYCbCr、クロマは4:2:0でサブサンプリングされます。1920×1080のHD素材は、この規格に収めるために必ず作り直しが発生します 。
DVDはSD規格の枠。HD素材は入れるために必ず作り直しが要る
解像度を落とすだけなら画質の話で済みますが、行き先がSD規格 である点が色に関わります。720×480や720×576というフレームサイズは、まさにBT.601が扱う世界です。BT.709の並びのままSDの形式に流し込み、再生側がBT.601の係数で読めば、緑が明るく転び、鮮やかな赤の彩度が落ちます。純緑で赤+20・青+8、彩度の高い赤で15前後という、目視で分かる幅です。
ブルーレイなら発生しにくい
ブルーレイは1920×1080まで扱え、コーデックはMPEG-2 / H.264 / VC-1が必須、Ultra HD Blu-rayではHEVCが加わります。フレームレートも、規格上(一般に)1920×1080で24p・23.976p・50i・59.94iに対応します。HD素材をHDのまま持てるので、SDへの変換に伴う色の付け替えが要りません 。素材がHDで、色をできるだけ動かしたくないなら、こちらのほうが素直です。容量・画質・対応機器の考え方はDVDとブルーレイの違い で比較しています。
そもそも「焼く」だけでは再生できない
色の話と並んで誤解が多いのが、動画ファイルをディスクにコピーすれば家庭用プレーヤーで再生できる、という思い込みです。DVDプレーヤーが読むのは決められたフォルダ構造と制御情報で、これを組み立てる工程をオーサリングと呼びます。オーサリングとは?DVD・ブルーレイを再生できる形にまとめる作業と手順 で工程を分解していますので、あわせて確認してください。
入稿前に確認しておくと安全なこと
マスターの色空間とレンジ(BT.709 / 限定レンジ、など)を把握しておく
波形モニタで黒と白の位置を見て、潰れ・飛びがない状態で渡す
グレーディング済みの完成データを渡し、変換工程を一回に減らす
当社では、お預かりした動画データからオーサリングまでを行い、基本料金(DVD・1枚あたり)1,500円(税抜)から、1枚単位でお受けしています。オーサリングは料金に含まれます。盤面へのレーベル印刷、ケースと背表紙の印刷、メニュー画面の作成、チャプター分けにも、オプションで対応しています。入稿はギガファイル便のURLで受け付けています。
納期は、通常便なら受付から5営業日で発送です。急ぐときのオプションは三つです。
お急ぎお届け(+1,500円、平日15時までのご注文・ご入稿で翌々日までに発送)
特急お届け(+3,000円、平日15時までのご注文・ご入稿で翌日発送)
大阪市北区の店舗で受け取る当日店舗お渡し(+3,500円、平日12時までのご注文・ご入稿)
色味は書き出しの段階で決め、HDRで撮った素材はSDRにして、色を確かめてから渡します。
よくある質問
Q. 書き出した動画が編集画面より薄く見えます。最初に何を確認すればいいですか? A. グレーと黒と白を見てください。黒が真っ黒ではなく灰色に浮き、白も白飛びしていないなら、レンジの取り違えです。限定レンジの16-235で書かれたデータが伸長されずに表示されている状態が疑われます。書き出し設定でレンジ(Limited/TVかFull/PC)を明示的に指定し直すと止まることが多いです。一方でグレーは正常なのに緑や赤だけがずれているなら、レンジではなく行列係数の問題なので、対処が変わります。
Q. BT.601とBT.709は何が違うのですか? A. どちらもRGBを輝度と色差に変換する規格ですが、輝度を作るときの重みが違います。BT.601は赤0.299、緑0.587、青0.114。BT.709は赤0.2126、緑0.7152、青0.0722です。BT.601はSD時代の規格で1982年に出され、BT.709はHD向けとして1993年に承認されました。取り違えるとグレーは動きませんが、彩度の高い緑や赤が目に見えてずれます。緑の係数の差がいちばん大きいため、植物や芝生で違和感が出やすくなります。
Q. フルレンジと限定レンジ、どちらで書き出すのが安全ですか? A. 配布先が動画のプレーヤーやテレビであれば、限定レンジ(16-235)が標準です。動画の規格では輝度16-235、色差16-240と定められており、多くの再生機がこれを前提にしています。フルレンジはパソコンの静止画側の慣習です。判断に迷ったら、納品先が何で再生するかで決めてください。なお、ソフトによって同じものをLimited/TV/Video/MPEG、Full/PC/Data/JPEGなど別名で表示するため、名前が違っても中身は同じだと知っておくと迷いません。
Q. MacとWindowsで同じファイルの色が違って見えます。どちらが正しいのですか? A. どちらか一方が正しいというより、表示側の解釈が違っている可能性があります。判定方法として、同じファイルを一台の中で二つ以上の別の再生ソフトで開いてみてください。ソフトごとに違うならファイルではなく再生側の問題です。すべてのソフトで同じに見えるならファイルの側にズレがあります。あわせて、テレビ用の基準ガンマは2.4、パソコン用のsRGBは2.2相当で、暗い部分の明るさが構造的に違う点も影響していると考えられます。
Q. LUTを当てたのに色が合いません。どこを直せばいいですか? A. 順番を確認してください。行列やレンジの取り違えはLUTでは直りません。取り違えは彩度の高い色だけを非線形にずらすため、LUTで全体を持ち上げてもズレが残り、別の色が破綻します。先に色空間とレンジを揃え、そのうえでLUTを当ててください。またLUTには入力の前提があり、ログから709へ変換するものと、709の絵に味付けするものでは役割が違います。順番を入れ替えると期待した結果になりません。
Q. DVDにすると色が変わることがあるのですか? A. 可能性はあります。DVD-VideoはNTSC系が720×480、PAL系が720×576というSD規格で、8ビットのYCbCr、クロマ4:2:0です。HD素材をこの規格に収めるには変換が必要で、その過程でBT.709からSD側の係数へ正しく変換されないと、緑が明るく転んだり鮮やかな赤の彩度が落ちたりします。計算上、純緑で赤+20・青+8、彩度の高い赤で15前後の差が出ます。ブルーレイなら1920×1080のまま扱えるため、この変換自体が発生しません。
Q. BT.2020で撮った4K素材をDVDにできますか? A. 変換すれば可能ですが、色は動くと考えたほうがよいです。BT.2020はCIE 1931色度図に対するカバー率が75.8%あり、BT.709の35.9%よりかなり広い範囲を扱います。さらに10ビットまたは12ビットが前提です。これを8ビットのSD規格に落とすと、扱える色の範囲もビット深度も狭まります。編集ソフト側で意図した見た目にグレーディングしてから書き出し、その完成データを入稿するほうが、結果を自分でコントロールできます。
Q. カラーバーでは具体的にどこを見ればいいですか? A. 三か所です。まず黒と白のレベルが16と235に乗っているかを波形モニタで確認します。ここがずれていればレンジの問題です。次にグレーの部分に色が付いていないかを見ます。付いていればホワイトバランスや変換の問題です。最後に緑と赤のバーの値を、変換前後で比較します。グレーが無傷なのに緑と赤だけが動いていれば、行列係数の取り違えと判断できます。目視ではなく数値で見るのが確実です。