この記事の要点
地域のデジタルアーカイブは、何を残し、どこまで公開するかを先に方針に書きます。内閣府のガイドラインも、目的・提供方法・利用対象者と、公開・非公開、利用条件、保存期間を、方針に書く事項に挙げています。
古い写真・広報誌・地図・文書や行事の映像は、1点ごとに持ち主と来歴、撮った人、写っている人、年代と場所を台帳に書き、使ってよい範囲を受入票で確かめてから預かります。
デジタル化では、保存用の元のデータと公開用のデータを分けて作ります。国立国会図書館の手引きでは、保存用の画像は原資料に対して300〜400dpiで、非圧縮か可逆圧縮のTIFFかJPEG 2000です。
公開の前に、著作権(保護期間・許諾・文化庁長官の裁定)と、写っている人・演じている人の了解を確かめ、資料ごとに公開の範囲を決めます。
元のデータは2か所以上に置いて決まった間隔で確かめ、担当が替わっても台帳で引き継ぎます。神楽や獅子舞などの伝統芸能は、本番を準備から通して撮るほか、所作の細部やコツ、担い手の話も別に記録します。
式や イベントの 映像を、 配れる ディスクに。
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図書館の郷土資料の棚にある町史や広報誌、公民館に残る古いアルバム、保存会が持っている祭りのビデオ。地域のデジタルアーカイブは、こうした郷土資料と映像を集めてデジタル化し、権利を確かめ、長く残して公開する取り組みです。進め方は、方針、収集、デジタル化、権利の確認、保存と引き継ぎの5つの手順に分けられます。
神楽・獅子舞・盆踊りのような伝統芸能は、本番を撮るだけでは記録が足りません。東京文化財研究所の手引きは、記録として残すなら、準備も含めて実際の進行どおりに通して撮る姿勢を求めています。伝承に使うなら、所作の細部や担い手のコツまで映す工夫も考えられるとしています。撮る前に担い手と話し、撮らない場面と記録の使い道を決めておくのが出発点です。
この記事の目次見出しを押すと、その場所へ移ります
地域のデジタルアーカイブの作り方は、方針を1枚書くことから 郷土資料を集めるときは、持ち主・撮った人・写っている人を台帳に 古写真・文書・映像のデジタル化|保存用と公開用を分けて作る 古写真や郷土資料の著作権|保護期間・図書館の複製・裁定制度 写っている人と演じる人の了解、個人情報の扱い どこまで公開するか|館内・ウェブ・ジャパンサーチ 神楽・獅子舞・盆踊りを映像で残す撮り方 無形文化財の記録は誰が作るか|担い手・保存会・自治体・国の分担 残りの3項目を見る 元のデータは2か所以上に置き、点検と台帳で引き継ぐ 小さな館や保存会が、今年度から始める手順 よくある質問 撮った動画は、1枚1,500円(税抜)からDVD・ブルーレイにできます。料金を見る
地域のデジタルアーカイブの作り方は、方針を1枚書くことから
デジタルアーカイブを作る作業は、スキャンだけではありません。内閣府(知的財産戦略推進事務局)のガイドラインに付いたFAQによると、構築に伴う作業は次のとおりです。
対象資料の選定
デジタル化の仕様
資料の内容や所在を記したデータ(メタデータ)の項目
著作権の処理
システムの仕様
活用の想定
どれも、先に方針があれば迷わずに決められます。
ガイドラインが最初に求めるのは、目的・目標・提供方法・利用対象者などの基本方針をはっきりさせることです。方針には、マスターとして長く管理するデータの範囲、品質とファイル形式、公開・非公開、利用条件、保存期間まで書いておくのが望ましいとしています。すぐに方針を作れない館向けには、取り組みを年度の活動計画に書くところから始める道も示されています。
すぐに方針を作れないなら、年度の活動計画に書くところから始める
地域で何を残すかは、地域が決めることです。内閣府が事務局を務める懇談会と検討会が2025年5月に決めた「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」も、将来に残したい情報は地域によって違うとしています。そのうえで、地方公共団体がそれぞれの実情のもとで方針を定めることを期待しています。図書館・公民館・保存会・自治会が別々に動いているなら、方針の段階で、誰が何を集め、どこに置くかをすり合わせておくと、同じ資料を二重に扱わずに済みます。
手順
すること
①方針
残すもの、公開の範囲、利用条件、保存期間を書く。
②収集
持ち主・撮った人・写っている人と、年代・場所を台帳に書く。
③デジタル化
保存用の元のデータと、公開用のデータを分けて作る。
④権利の確認
著作権と、写る人・演じる人の了解を確かめてから公開する。
⑤保存と引き継ぎ
2か所以上に置き、点検し、台帳で引き継ぐ。
郷土資料を集めるときは、持ち主・撮った人・写っている人を台帳に
集める対象は、古い写真や絵はがき、広報誌や町史、地図、文書、チラシのような暮らしの資料、それに運動会や祭りを撮ったビデオテープやディスクです。館にない資料が住民の家のアルバムや押し入れに残っていることもあり、内閣府のガイドラインにも、地域の住民と協働で集めた記録をデジタル化した例が載っています。寄贈は難しくても、借りてスキャンし、原物は持ち主に返す形なら頼みやすくなります。
気をつけたいのは、資料を持っている人が、その写真の著作権を持っているとは限らないことです。文化庁の著作権テキストは絵画の売買を例に、移るのは物としての所有権で、著作権は譲る契約をしない限り著作権者が持ち続けると説明しています。写真を公開するかどうかを決めるにも、撮った人の情報が要ります。借りる日に、誰がいつ撮ったと聞いているかを持ち主に尋ね、写っている人や場所の話と一緒に書き留めます。
受入票には、次の欄を作ります。
提供者の名前と連絡先
来歴(いつ頃、誰が撮った・作ったと聞いているか)
使ってよい範囲(保存だけ/館内で見せる/ウェブに載せる)
借りた日と返した日
住民が撮った祭りの動画などを集めるなら、第三者も活用できるよう、包括的な利用許諾を結ぶなどして権利関係を整えておきます(内閣府のガイドライン)。
台帳(目録)に書く項目
次の表で最初に並ぶ5項目は、内閣府のガイドラインが、分かっている場合は必須の情報として書くよう求める項目です。同じガイドラインは、原資料とデジタルデータの権利の状態や、保存用と公開用のデータの対応も記録に残すことを求めています。写っている人の欄は、公開の範囲を決めるときに使います。
項目
書く中身
管理番号
重複しない番号。ファイル名にも使う。
タイトル
資料の題か、写っているものの短い説明。
作者
撮った人・作った人。分からなければ「不明」と書く。
日付
年代。推定なら根拠も書く(提供者の話など)。
場所
撮った場所。いまの地名も添える。
来歴
持ち主、借りた日、返した日。
写っている人
分かる人と、了解の有無。
権利の状態
保護期間中か、許諾と利用条件。
公開の範囲
業務用のみ、館内、ウェブなど。
データの置き場所
保存用と公開用のファイルと保存先。
表計算ソフトで作るなら、内閣府の長期保存のガイドラインが示す形にそろえます。1列目に重複しない管理番号を置き、1つのセルには1つの要素だけを書き、セルは結合しません。値が無い場合を除いてセルを空けない、という留意点もあります。「不明」と書いておけば、調べて分からなかったのか、まだ調べていないのかを後任が見分けられます。
古写真・文書・映像のデジタル化|保存用と公開用を分けて作る
品質について内閣府のガイドラインが望ましいとするのは、将来の閲覧機器の進歩に備え、元の資料の代わりになるよう、費用と見合う範囲でできるだけ高い品質で作ることです。あわせて、使いやすさを優先して情報量を抑えたデータや、一覧で探すための縮小画像も作ります。作るデータは、最初から2種類以上になります。
写真や文書の画像の目安になるのが、国立国会図書館の「資料デジタル化の手引」(2017年版)です。同館が所蔵資料を画像にするときの手引きで、ほかの機関の参考にもなるよう公開されています。表の音声と動画の行は、同館が保存用に採用している形式です。
データ
作り方の目安
写真・文書(保存用)
原資料に対して300〜400dpi。非圧縮か可逆圧縮のTIFFかJPEG 2000。
写真・文書(公開用)
保存用の画像を圧縮して作る。JPEG・PNG・PDFなど。
一覧用の小さな画像
縦横100〜300 ピクセル程度。
音声
WAVE。
動画
MP4(H.264)。AVCHDなどはMP4に書き出す。
保存用の画像は、原則として非圧縮か、元に戻せる圧縮(可逆圧縮)で作ります。公開用はそこから圧縮して作るので、保存用さえあれば、あとで大きさや形式を変えて作り直せます。紙の文書なら、この目安は内閣府が行政文書について示す「300dpi以上が適当」とも合います。
色の見本(カラーチャート)を一緒に写し込み、撮ったときの色の状態を残します(内閣府のガイドライン)。撮影日時や機器など、ファイルに自動で記録された情報も消さずに残します。
写真の大きさや用途に合わせたdpiの決め方は、写真スキャンの解像度の決め方|用途別のdpiと保存形式の選び方 で説明しています。
ビデオテープや古いディスクに残る映像
昔の運動会や祭りを録ったビデオテープは、再生できる機器が手に入りにくくなっています。取り込む方法と、取り込んだあとも元のテープをすぐには捨てない理由は、ビデオテープをデジタル化する方法|自分でやる手順と、業者に頼むときの確かめ方 にまとめました。
以前に焼いたCD-RやDVD-Rが読めないときは、古いCD-R・DVD-Rが読めないときのデータ救出|試す順番と業者に頼む前の確認 の順で試します。ビデオカメラのAVCHDなどもMP4に書き出せば、内閣府が長期保存に向く形式に挙げるMPEG4になります(国立公文書館のガイドブック)。
外に頼むときは、データの権利を契約で確かめる
スキャンやテープの取り込みを業者に頼むなら、仕様に保存用と公開用の両方の形式と、台帳の管理番号を使ったファイル名の付け方を書いておきます。委託するときは、できたデータが自分たちのものになり、自由に使え、第三者も活用できるよう、著作権の状態を契約で確かめる必要があると、内閣府のガイドラインは書いています。
古写真や郷土資料の著作権|保護期間・図書館の複製・裁定制度
集めた資料をウェブで見せてよいかは、文化庁が示す順番で確かめます。著作物にあたるか。保護の対象か。保護期間は切れているか。許諾なしで使える例外(権利制限規定)にあたるか。どれにもあたらなければ、原則として権利者の許諾が要ります。文化庁は、著作者人格権や肖像権など、ほかの権利や利用条件の確認が要る場合があることも添えています。
文化庁が示す順番で確かめる。肖像権などほかの確認が要ることもある
写真の保護期間は、法律の改正で何度も変わってきた
著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年までです(文化庁)。ただ、写真の著作物は、旧著作権法では発行か創作(撮影)のあと13年、昭和46年(1971年)施行の現行法では公表後50年と、改正のたびに数え方が変わってきました。文化庁の著作権テキストによると、長くなった期間が当てはまるのは、改正の時点でまだ保護期間が切れていなかったものだけです。古い写真は、撮られた年や公表された年で、保護期間が切れているものと続いているものに分かれます。テキストの表で1点ずつ確かめます。
図書館は、所蔵資料を保存のために複製できる
著作権法第31条は、国立国会図書館と政令で定める図書館等が、営利を目的としない事業として、図書館資料を使って著作物を複製できる場合を定めています。その1つが「図書館資料の保存のため必要がある場合」です。内閣府のガイドラインも、第31条の図書館等にあたる図書館や博物館は、所蔵資料の保存のための複製ができると説明しています。対象は「図書館等の図書、記録その他の資料」、つまりその館の資料です。保存のためにデジタル化したものをウェブで公開するなら、文化庁が示す順番で改めて確かめます。
撮った人が分からない写真には、2つの裁定制度がある
権利者が誰か、どこにいるかが分からず許諾を得られないときは、文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払って使う制度があります(第67条)。申請の前に、権利者と連絡をとるための措置をとっておく必要があります。国や地方公共団体などが使う場合は、補償金を前もって供託しなくてよく、権利者と連絡がついたときに支払います(同条第2項)。
2026年4月1日には、未管理著作物裁定制度(第67条の3)も始まりました。著作権等管理事業者が管理しておらず、使ってよいかどうかの意思を確かめられない作品を、裁定を受けて補償金を払うことで、最長3年間使える制度です。文化庁が示す例には、過去の作品をデジタルアーカイブにする際、一部の著作権者に連絡がつかない場合も入っています。著作権者は、裁定の取消しを求めることができます。どちらを使うかの判断に迷う点は、弁護士などの専門家に確かめてください。
写っている人と演じる人の了解、個人情報の扱い
誰が写っているか分かる写真や動画は、個人情報にあたります。個人情報保護委員会のガイドラインは、本人が判別できる映像を個人情報の例に挙げています。個人情報保護法でいう個人情報は、生存する個人に関する情報です(第2条第1項)。
当てはまる決まりは、扱う側で違います。保存会や自治会などの団体は、名簿などを使って活動していれば、法人でなくても第4章の決まりの対象です。公立の図書館や自治体には「地方公共団体の機関」の決まり(第5章)がかかります。
ただ、第5章の決まりの多くがかかる「保有個人情報」は、職員が職務で作ったり取得したりして組織で使う文書などに記録されたものです(第60条)。地方公共団体の長が指定した図書館や博物館などで、目録を公開するといった決められた方法で、歴史的・文化的な資料として特別に管理されているものは、その文書から除かれます(施行令第16条)。郷土資料がどちらにあたるかは、設置者の担当の課に確かめてください。
委員会のQ&Aは、会社の行事で撮った写真を社内で展示する例について、利用目的を知らせるか公表することは必要とし、プライバシーの権利や肖像権の侵害にあたる場合もあると注意しています。そのうえで、不特定多数に渡すときは本人の同意を得る、といった取り組みを望ましいとしています。
肖像権は、自分の肖像をみだりに他人に公開されない権利で、法律に定めはなく、判例によって確立されてきた権利です。文化庁は学校向けの冊子で、他人の肖像を使うときは、事前に本人や保護者の承諾を得ておくよう勧めています。
内閣府のガイドラインによれば、関係者が生存しない年代の資料では肖像権やプライバシーが問題になることは少ない一方、比較的新しい写真や記録を扱うときは、肖像権やプライバシーとの調和を図る必要があります。写っている人やその家族が地域に暮らしている資料は、公開の範囲を狭いほうから始め、了解が取れたものから広げます。
神楽や獅子舞を演じる人にも、録画の権利がある
著作権法は「実演」に、著作物を演じなくても芸能的な性質を持つ行為を含めています(第2条第1項第3号)。実演家には、実演を録音・録画する権利があります(第91条)。東京文化財研究所の手引きも、民俗芸能を演じる人に実演家の権利があると考えられるとして、伝承者の了解を十分に得ないまま記録を作ると、録音・録画の権利に触れる場合があると注意しています。記録の目的と使い道を説明し、前もって了解を得ておきます。
了解は、撮ってよいか、何に使うか、どこまで見せるかを分けて聞きます。保存だけならよい、地域の上映会ならよい、ウェブは困る、という答えもあるからです。使い道ごとに欄を分けた同意書の作り方は、園向けの記事ですが園の動画・写真を配るときの同意書|作り方と、使い道ごとに選べる文例 にまとめました。担い手の話を録音・録画するときも、同じ分け方で了解を取ります。
どこまで公開するか|館内・ウェブ・ジャパンサーチ
公開は、全部を載せるか、載せないかの二択ではありません。内閣府のガイドラインは、公開の範囲として次の5つの段階を挙げています。資料の説明(メタデータ)、縮小画像、本体の画像や映像で、範囲や利用条件を分けてもかまいません。
公開の範囲
使い方の例
業務用のみ
管理のために持っておく。
施設内
来館者への案内、展示の解説、館内の体験学習。
自館のウェブサイト
来館できない人にも見てもらう。
地域・分野のネットワーク
同じ地域や分野の機関とデータを共有する。
ジャパンサーチ など
分野を越えた横断検索に出す。
メタデータは、どこに何があるかを知らせるものです。ガイドラインが望ましいとするのは、できるだけ一般に公開し、自由に使える条件(CC0)にすることです。公的機関の縮小画像も、第三者の権利が問題にならない限り、原則としてCC0かCC BYにすることが求められます。本体の画像や映像は、権利と了解の確認が済んだものから範囲を広げます。自由には使えないものでも、利用条件はウェブではっきり示します。
ジャパンサーチにつなぐには
ジャパンサーチは、書籍・公文書・文化財・放送番組などさまざまな分野のコンテンツのメタデータを、まとめて検索・閲覧・活用できるプラットフォームです。システムは、国立国会図書館が運用しています。連携は原則として、分野や地域ごとの「つなぎ役」を通して行います。地域のつなぎ役の候補は、地方自治体や、地域の規模の大きな図書館・博物館・大学などです(内閣府のガイドライン)。
ジャパンサーチの連携方針では、インターネットで無償、かつログインなしで見られることが条件の1つです。登録するメタデータの利用条件は原則CC0で、項目は各機関の形のまま受け入れられ、必須は「ID」と「名称/タイトル」の2つです。ファイルはCSVやXLSXなどで出せるので、1列目に管理番号を置いた台帳を作っておけば、つなぐときに作り直さずに済みます。
神楽・獅子舞・盆踊りを映像で残す撮り方
伝統芸能の撮り方は、東京文化財研究所が自治体の文化財担当者向けにまとめた『無形民俗文化財映像記録作成の手引き』(2008年)が参考になります。機材の記述は2008年当時のものですが、撮り方の原則は機材によって変わりません。手引きは、まず何のための記録かをはっきりさせるよう求め、目的を「記録保存」「伝承・後継者育成」「広報・普及」の3つに分けています。
記録保存が目的なら、実際の時間の進行どおりに、行事の準備も含めて、その時点のすべての次第と周りの様子を撮る姿勢が求められます。伝承に使う記録では、身体のわざを細部まで撮ることが求められ、必要なら本番とは別の、撮りやすい環境で撮ることも考えられる、と手引きは書いています。担い手に協力してもらい、わざのコツや心がけていることを映像に反映させる工夫も挙がっています。稽古の場を撮るか、別の日に演じてもらうかは、保存会と決めます。
手引きは目的を記録保存・伝承・広報の3つに分ける。まず何のための記録かを決める
全体を収め、最初から最後まで通して撮る
手引きが撮影の原則として挙げているのは、次の5つです。
主に撮る対象を決め、できるだけその全体が画面に収まるようにする
一連の所作は、区切りを意識しながら、最初から最後まで通して記録する
必要に応じて、複数のカメラで記録する
照明を使うときは、担い手と十分に話し合う
映像に合った音を、確実に録れるよう工夫する
現場では、全体が収まる位置に1台を据えて止めずに回し、別のカメラで手元や足さばきなどの寄りを撮ると、この原則に沿います。神輿の巡行や盆踊りの輪のように動きの大きい行事は、設営から片付けまで、撮る場面と分担を先に決めておきます。町内の祭りでの決め方と、録画に入った曲を配るときの手続きは、自治会・町内会の記録の残し方と引き継ぎ|保存年限・写真と動画・祭りの記録 に書きました。
音は、別に録ることも考える
太鼓や笛、掛け声、唄が中心の芸能は、音も記録の本体です。ビデオでの同時録音が一般的ですが、音楽や音声がとくに大事な対象では、音だけを別に録る方法も考えられる、と手引きは書いています。現場の音や人の声はそれ自体が貴重な記録なので、編集でBGMや効果音を足すことには十分な配慮が要る、というのが手引きの考えです。細かなカットの連続や極端な角度の変化は、行事や芸能の全体を分かりにくくするので、落ち着いた構成にします。
撮る前に確かめること
手引きが撮影の前の調査として挙げる項目は、次のとおりです。カメラで追ううちに結界の中に入ったり、神前を遮ったりしないよう、関係者で気をつけることも書かれています。
確かめること
中身
撮らない場面
立ち入れない場所、撮影を望まない場面・次第。
カメラの位置
置く場所と動線、ほかの撮影者。
音
楽器の音の大きさ、拍手などとのバランス。
明るさ
照明を使うなら伝承者の許可。
電源と時間
電源の確保、演目ごとの所要時間。
伝承の様子
由来と伝承組織、準備や稽古の実態、主な伝承者。
本番が年に一度しかない行事は、撮り直しがききません。しかも祭礼の当日は、思いどおりに撮れない場面が出ます。手引きによると、台本は作りにくくても、撮るべき重点を書き出した撮影項目表は作っておく必要があります。
無形文化財の記録は誰が作るか|担い手・保存会・自治体・国の分担
文化財保護法の「記録の作成」と「選択」
文化財保護法は、演劇・音楽・工芸技術などの無形の文化的所産で価値の高いものを「無形文化財」、年中行事などの風俗慣習や民俗芸能、民俗技術などを「民俗文化財」と定めています(第2条)。
区分
決まり
指定
重要無形文化財と重要無形民俗文化財。文化庁長官が記録を作成できる(第74条・第87条)。
登録
登録無形文化財と登録無形民俗文化財。保存と活用の措置が特に必要なもの。
選択
指定・登録以外で特に必要なものを文化庁長官が選び、記録を作成・保存・公開できる(第77条・第91条)。
自治体
条例で指定・登録し、保存や公開の経費を補助できる(第182条)。
指定されたものは、国が保存に要する経費の一部を補助することもできます。「選択」は、指定されていないものの記録を残すための仕組みです。文化庁は無形の民俗文化財について「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」を選び、必要に応じて国が記録を作ったり、地方公共団体の調査や記録作成に助成したりしています。選んだもののうち変容や衰退のおそれが高いものは、計画的に映像や報告書で記録を進めています(文化庁)。
指定も選択もされていない地域の芸能は、保存会と市区町村の文化財の担当で、誰が記録を作り、どこに置くかを決めます。使える補助の制度は、担当の課で確かめてください。
担い手に話を聞き、仮編集を見てもらう
手引きによると、記録のできは、地方公共団体の文化財担当などの発注者、映像を作る受注者、担い手の3者の協力で左右されます。撮影を業者に任せきりにせず、発注する側が目的を説明し、担い手にはできるだけ早く事業を説明して了解を得ておきます。撮る場所が寺社なら、そちらへの協力の依頼も要ります。
撮る前の聞き取りでは、由来と伝承の組織、近年の変化、いまの次第と所要時間、準備や稽古の様子、主な担い手を尋ねます。映像では伝わりにくいことは、文書・音声・写真で残し、映像と結びつけて使えるようにしておくのが手引きの勧めです。聞き取りを録って残す進め方は、家族向けの内容ですが自分史ビデオの作り方|祖父母や親の話を聞き書きで残し、家族に渡すまで も参考になります。
完成してから不満が残らないよう、本編集の前に現地で試写会を開き、仮に編集した映像を担い手に見てもらうのが、手引きの示す原則です。
教材や上映に使う前に、記録の権利を決めておく
手引きが挙げる使い道は、次のとおりです。
担い手の稽古での利用
学校の総合学習や生涯学習の教材
資料館での展示
地域での上映会
インターネットでの公開
業者が作った映像の著作権は本来作った側にあり、発注した側が使うには契約で取り決める、というのが手引きの説明です。権利を譲り受けても、公表や氏名の表示、内容を変えないことに関する権利(著作者人格権)は作った人に残ります。本編に使わなかった素材も記録としての価値が高いので、使い道と一緒に、残し方を契約のときに話し合っておきます。
元のデータは2か所以上に置き、点検と台帳で引き継ぐ
内閣府の長期保存のガイドラインがいう「長期」は、データが必要とされる限りできるだけ長い期間で、最低でも30年以上です。そのあいだに、パソコンも保存の機器も何度か入れ替わります。
置き場所の目安は、国立公文書館のガイドブックが広く知られた実践例として紹介する「3-2-1」です。データは元を含めて3つ持ち、記録媒体は2種類に分け、1つは別の施設など離れた場所に置きます。内閣府のガイドラインも、マスターの複製を災害のリスクが違う離れた場所に分けて置くことや、HDDなら複数台に複製して4〜5年おきに新しいものへ移すことを挙げています。
光ディスクに副本を置くなら、平均の寿命は一般的なDVD-R(銀合金の反射層)で10〜20年、BD-Rで5〜10年です(カナダ保存研究所。温度と湿度の影響だけで比べた値)。ケースに入れて立て、温度10〜25℃・湿度40〜60%の暗い場所に置きます(JIS Z 6017などが示す長期保存の環境)。読めるかの点検は5年程度が目安です(国立国会図書館の報告書による)。媒体を移す前後では、ファイルの数と大きさ、ハッシュ値が同じかを照らし合わせます(国立公文書館)。
見回りは年に一度にします。内閣府のガイドラインには、専任の管理者を置けない場合の例として、年に1度サンプルを抜き出してデータを確かめる体制が挙がっています。担当者は、できれば複数にします。国立公文書館のガイドブックは、どの記録をどの媒体のどこに置いたかを台帳などで組織として共有し、特定の個人だけが触れる状態にしないことを基本にしています。
映像の記録なら、東京文化財研究所の手引きが挙げる次の項目も台帳に入れておきます。
収録時間
撮影期間
出演団体(保存会名など)
所蔵先
利用条件と問い合わせ先
置いただけでは残らない。決まった間隔で確かめ、台帳で引き継ぐ
点検と移し替えの手順は公文書・自治体の電子記録の長期保存|保存期間・形式・媒体と光ディスクの使い方 、置き場所の組み合わせ方は写真・動画の長期保存はクラウドとDVDのどっち?|3-2-1バックアップの組み方 で説明しています。
小さな館や保存会が、今年度から始める手順
専任の担当がいなくても、次の順に進めれば、年ごとに記録が積み上がります。
対象の地域と年代、集める資料、公開の範囲の決め方を1枚に書き、年度の活動計画に入れる
受入票と台帳の様式を作り、借りる・撮る・話を聞くたびに記入する
劣化が進む媒体と、話を聞ける人がいる資料から先に手をつける
保存用と公開用のデータを分けて作り、借りた原物は持ち主に返す
元のデータを2か所以上に置き、見回りと点検の時期を年間の予定に書く
権利と了解を確かめたものから、公開の範囲を広げる
行事の映像は、保存会の人や地域の人に、家のテレビで見てもらう形にもできます。映像のDVDやブルーレイは、元の動画をプレーヤーで再生できる形に作り直した、見るための複製です。東京文化財研究所の手引きも、DVDは視聴版に向くものの、圧縮して記録するので保存の形としては理想的でなく、マスターは視聴版とは別に保存するのが望ましいとしています。視聴版は、その時々に広く使われる形式へ作り替えていくものです。
当社(ディスクメーカー・大阪市北区梅田)は、動画ファイルからDVD・ブルーレイを1枚から作る、書き込み代行の小さな店です。編集を終えた動画をギガファイル便にアップロードし、その共有URLを注文フォームに貼ってください。
プレーヤーで再生できる形に組み立てて書き込み、実際のプレーヤーで再生を確かめてから、ケースに入れて発送するか店舗でお渡しします。DVDは720×480、ブルーレイは1920×1080で作ります。演目ごとに頭出ししたいときは、「チャプター分け」を選ぶと開く「チャプター位置の指定」の欄に、区切りの時刻を入れます。
料金は、基本料金(DVD・1枚あたり)1,500円(税抜)、基本料金(Blu-ray・1枚あたり)1,500円です。保存会の人数分のように、同じ内容を何枚も作るときは、2枚目から追加コピー(同一内容の焼き増し・1枚あたり)1,000円になります。お引き受けできるのは、撮った本人か権利者の許可がある動画です。録画に市販の曲が入っているときの手続きは、学校行事の録画・DVD配布と著作権|運動会・合唱・卒業式でよくある質問 で説明しています。
よくある質問
Q1. 郷土資料のデジタルアーカイブは、何から始めればいいですか? 何を残し、どこまで公開するかを方針に書くところからです。内閣府のガイドラインは、目的・目標・提供方法・利用対象者などの基本方針をはっきりさせ、データの品質や形式、公開・非公開、利用条件、保存期間も方針に書く事項に挙げています。すぐに方針を作れない場合は、取り組みを年度の活動計画に書くところから始める道も示されています。
Q2. 住民から借りた古い写真を、ウェブで公開してもいいですか? 写真を持っている人と、著作権を持っている人は同じとは限りません。文化庁が示す順番で、保護期間が切れているか、許諾なしで使える例外にあたるかを確かめ、どれにもあたらなければ撮った人などの許諾が要ります。誰が写っているか分かる写真は個人情報にもあたるので、写っている人の了解も確かめ、公開の範囲を狭いほうから決めます。
Q3. 撮った人が分からない古い写真は、公開できますか? 権利者やその連絡先が分からないときは、文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払って使う制度があります(著作権法第67条)。国や地方公共団体などは補償金を前もって供託しなくてよく、連絡がついたときに支払います。2026年4月からは、使ってよいかの意思を確かめられない作品を最長3年間使える、未管理著作物裁定制度も始まりました。保護期間が切れている写真なら、裁定は要りません。
Q4. 図書館は、所蔵する郷土資料を許諾なくデジタル化できますか? 著作権法第31条は、国立国会図書館と政令で定める図書館等が、営利を目的としない事業として、図書館資料の保存のため必要がある場合などに複製できると定めています。内閣府のガイドラインも、第31条の図書館等にあたる図書館や博物館は、保存のための複製ができると説明しています。デジタル化したものをウェブで公開するかどうかは、保護期間や許諾を改めて確かめます。
Q5. 古い写真は、どのくらいの解像度でスキャンすればいいですか? 国立国会図書館の資料デジタル化の手引では、保存用の画像は原資料に対して300〜400dpiで、非圧縮か可逆圧縮のTIFFかJPEG 2000です。公開用は、その保存用の画像を圧縮して作ります。紙の文書の読み取りについては、内閣府も行政文書で「300dpi以上が適当」としています。色の確認のために、カラーチャートを一緒に写しておきます。
Q6. 神楽や獅子舞は、カメラ何台でどう撮ればいいですか? 東京文化財研究所の手引きが原則に挙げるのは、主な対象の全体を画面に収めることと、一連の所作を最初から最後まで通して記録することです。必要に応じて複数のカメラで撮るのも有効とされています。全体を収める1台を据えて回し続け、寄りを別のカメラで撮る形が、この原則に沿います。音が中心の芸能なら、音だけを別に録る方法もあります。
Q7. 伝統芸能を撮るとき、演じる人の了解は要りますか? 要るものとして準備します。著作権法の「実演」には、著作物を演じなくても芸能的な性質を持つ行為が含まれ、実演家には録音・録画の権利があります(第2条・第91条)。東京文化財研究所の手引きにも、伝承者の了解を十分に得ないまま記録を作ると、その権利に触れる場合があると書かれています。目的と使い道を説明し、撮る前に了解を得ます。
Q8. 無形民俗文化財の記録は、誰が作るものですか? 国が指定した重要無形民俗文化財は、文化庁長官が自ら記録を作成するなどの措置をとれ、保存に当たる地方公共団体などに国が補助できます(文化財保護法第87条)。指定されていないものも、「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選ばれれば、必要に応じて国が記録を作ったり、地方公共団体の記録作成に助成したりします。それ以外は、保存会と自治体の担当で決めます。
Q9. 地域のアーカイブをジャパンサーチで検索できるようにするには? 連携は原則として、分野や地域の「つなぎ役」を通して行います。内閣府のガイドラインによると、地域では地方自治体や規模の大きな図書館などがつなぎ役になりえます。連携の条件には、インターネットで無償・ログインなしで見られることがあり、メタデータの利用条件は原則CC0です。自分の地域のつなぎ役がどこかは、ジャパンサーチの連携の案内で確かめます。
Q10. 行事の映像をDVDにしておけば、保存もできたことになりますか? DVDは見るための複製で、元の動画ファイルの代わりにはなりません。東京文化財研究所の手引きでも、DVDは視聴版に向く一方で保存の形としては理想的でなく、マスターは別に保存するのが望ましいとされています。元の動画は2か所以上に置きます。ディスクに副本を置く場合も、一般的なDVD-Rの平均の寿命は10〜20年(カナダ保存研究所)という目安を踏まえ、決まった間隔で点検します。
Q11. 災害の記録(被災の写真や、体験を話す映像)を、地域のアーカイブとして残すときは? 郷土資料と同じく、方針を決め、持ち主・撮った人・写っている人を台帳に書き、保存用と公開用を分けて作ります。体験を話す人の映像は、何に使い、どこまで公開するかを伝えて了解を取ります。写っている人やその家族が地域に暮らしている記録は、公開の範囲を狭いほうから始め、了解が取れたものから広げます。元のデータは2か所以上に置き、点検と台帳で引き継ぎます。
参考にした公式の情報
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法令やガイドライン、各機関の案内は、改正や更新で変わります。この記事は、2026年9月27日時点の法令と各機関の公式の情報をもとにしたものです。個別の判断は、市区町村の担当の課や弁護士などの専門家に確かめてください。個人情報の決まりの考え方は、個人情報保護委員会の「個人情報保護法相談ダイヤル」に電話で尋ねることもできます。
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