この記事の要点
- 朗読録音の音質を決めるのは機材より部屋で、反響は編集では取り除けないため、毛布でマイクを囲うなど録る前の対策が結果を左右します。
- 編集の合格ラインは感覚ではなく数値で決められ、Audibleの制作窓口ACXが公開するピーク−3dBFS未満・ノイズフロア−60dBFS未満・RMS−23〜−18dBFSが実用的な基準になります。
- 原作の著作権は原則として著作者の死後70年で切れ、翻訳作品は原著者と翻訳者を別々に数える必要があるため、没年を二つとも確認します。
- 音声CDの規格上の上限は最大99トラック・約74〜80分で、1分あたり300字という読み速度から原稿の字数で収録時間を逆算できます。
- 頒布価格は原価だけで決めると赤字になりやすく、通販委託の手数料が30〜35%かかる前提を先に織り込んでから値付けするのが安全です。
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朗読の練習を重ねて、ようやく人に聴かせられる読みになった。あとはこれをCDにして、教室の仲間や家族、施設のイベントで配りたい——ところが、そこから先の手順がどこにも書かれていません。マイクは何を買えばいいのか、録った音はどう整えるのか、青空文庫の作品なら勝手に売っていいのか、ジャケットは何ミリで作るのか。調べるほど断片的な情報が出てきて、順番が見えないまま止まってしまう。
この記事は、その順番を通しでたどります。録音環境の作り方から、編集で満たすべき具体的な数値、原作の権利をどう確認するか、CDという規格が持つ上限、ジャケットと盤面の寸法、そして頒布の形と価格の決め方まで。どれも「重要です」で終わらせず、実際に手を動かせる粒度で書いています。
手順そのものは難しくありません。ただし順番を間違えると、録り直しか、刷り直しか、権利の確認漏れという形で必ず戻ってきます。最初に読んでおく価値があるのは、そのためです。
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朗読録音でいちばん効くのは機材より部屋|反響は編集で取り除けない
録音がうまくいかないとき、多くの人はマイクを疑います。しかし実際に音を濁らせているのは、たいてい部屋のほうです。マイクを上等なものに替えると、部屋の反響も生活音もそれだけ精密に拾うようになるので、状況が悪化することさえあります。
朗読録音に混ざるものは、性質の違う三種類に分けて考えると対処しやすくなります。
- 定常ノイズ:エアコン、冷蔵庫、換気扇、パソコンのファン、外を流れる幹線道路の音。ずっと鳴り続けているので、編集ソフトのノイズ低減で減らせる余地があります。
- 突発ノイズ:車の通過音、上階の足音、椅子のきしみ、原稿をめくる音。編集では取れないので、その部分を録り直すしかありません。
- 反響(部屋鳴り):声が壁や床で跳ね返ってマイクに戻ってくる成分。これがいちばん厄介で、いったん録音に混ざると事実上取り除けません。
録る前に自分の部屋を測る
対策の前に、いまの部屋がどれくらい静かなのかを知っておきます。やることは単純で、録音の準備を全部整えたうえで、一言も発さずに60秒録るだけです。これを編集ソフトで開いて、波形の高さと音量メーターの数値を見ます。
基準として借りられるのが、Audibleのオーディオブック制作窓口であるACXが公開している納品要件です。そこではノイズフロアが−60dBFS RMS未満であることが求められています。市販のオーディオブックが通っているラインなので、朗読CDの目標としてはむしろ厳しいくらいですが、目指す先としては分かりやすい。無音のはずの60秒がこの数値を超えて騒がしいなら、まだ声を録る段階ではありません。
次に、その60秒を再生して耳で聴いてみます。エアコンの低い唸りが聞こえるなら止める。時計の秒針が聞こえるなら別室へ移す。冷蔵庫のコンプレッサーは数分おきに動き出すので、静かなうちに録り始めても途中から混ざります。台所と壁を隔てた部屋なら、録音の間だけ電源を落とす判断もあります。
この「測ってから対策する」順番を踏むと、必要な対策と不要な対策が切り分けられます。何十分も吸音材を検討する前に、まずは60秒の無音を録ってみてください。
自宅で録るときの現実的な対策|毛布でマイクを囲い、深夜より早朝を選ぶ
防音室は不要です。朗読は声量の幅がそれほど広くないので、宅録でも条件を整えれば充分に配布できる音になります。優先順位の高い順に並べます。
1. 部屋を選び直す
いちばん効くのに、いちばん見落とされます。フローリングで家具が少なく壁が平らな部屋は、反響という一点において最悪の条件です。逆に、カーテンがあり、本棚があり、布団やソファがある部屋は音を吸ってくれます。衣類が詰まったウォークインクローゼットの中は、狭い代わりに吸音材だらけで、宅録の定番として使われます。
2. マイクを布で囲う
毛布や掛け布団をマイクスタンドにかけて、マイクの後ろと左右をコの字に囲みます。マイク下にも布を敷くと、机からの反射が減ります。それでも自分の背後は開いているので、声が部屋に抜けて反響として戻ってきます。徹底するなら、毛布を頭からかぶって自分ごと覆う方法があります。見た目は妙ですが効果は大きい。このとき、毛布がマイクに触れないよう、マイクの周囲には拳が入るくらいの空間を確保します。
3. 壁との位置関係を変える
マイクを壁にぴったり向けたり、向かい合う二枚の壁の中間に置いたりすると、反射が特定の音程に集まって癖のある響きになります。部屋の隅に向かって斜めに読む、あるいは壁から1メートル以上離すだけでも変わります。
4. 音の出る機械を止める
録音中はエアコン、扇風機、空気清浄機、換気扇を止めます。パソコンで録るならファンの音を拾わないよう本体を離し、可能なら電源を切ったノートパソコン以外の機材を減らします。スマートフォンは機内モードにします。電波を掴む音がマイクに乗ることがあるためです。給湯器や洗濯機のように、時間が来ると勝手に動き出すものは、事前に確認しておきます。
5. 時間帯を選ぶ
住宅街なら深夜より早朝のほうが静かなことが多く、交通量も少なくなります。ただし早朝は鳥の声が入るので、季節と立地で試す価値があります。何時が静かかは、先ほどの「無音60秒」を時間帯を変えて何回か録れば判定できます。
録音の運用でも音は変わる
実際に読み始めたら、次の三つを習慣にします。
- 各ファイルの冒頭で、5秒ほど何も喋らずに録る。これは編集時にノイズの見本として使えるうえ、章と章のつなぎの余白にもなります。
- 読み間違えたら止めずに、3秒ほど黙ってから同じ文の頭に戻る。波形上で無音が目印になり、あとで不要なテイクを探しやすくなります。
- 一度に読み切らず、章や段落で区切って別ファイルにする。長時間の一本録りは、後半で声が変わったときに全部が巻き添えになります。
マイクとの距離は拳ひとつ分|正面をわずかに外して息の風を逃がす
距離と角度は、機材の価格より結果に効きます。しかも無料で調整できます。
距離は10〜15cmを固定する
口とマイクの間は拳ひとつ分、10〜15cm程度が扱いやすい範囲です。これより近いと、指向性マイク特有の低音の持ち上がり(近接効果)で声がこもり、息の風でボコッという破裂音が入りやすくなります。逆に離れすぎると、声に対して部屋の反響の割合が増えて、風呂場のような響きになります。
重要なのは、この距離を最初から最後まで保つことです。原稿を手に持つと、めくるたびに体が動いて距離が変わります。譜面台か書見台に置き、椅子の高さを合わせて、身体の位置を固定してください。原稿は1枚ずつ台に並べておくと、めくる音そのものを避けられます。
正面から10〜20度ずらす
「パ行」「バ行」の破裂音が息の塊としてマイクに当たると、低い「ボッ」という音になります。ポップガードを立てるのが定番ですが、それだけで防ぎきれないこともあります。口の正面をわずかに外し、マイクを少し斜めから狙う位置にすると、息の直撃が減ります。ポップガードがない場合の応急処置としても使えます。
読み方は「間」で作る
CDで聴く人は、聞き逃しても巻き戻しません。ラジオや朗読会と同じテンポでは速すぎることがあります。
- 句読点ではなく意味のかたまりで切る。「読点があるから切る」と決めると、意味が途切れた読みになります。
- 場面が変わるところ、時間が飛ぶところでは、通常の倍以上の間を置く。編集で詰められるので、録るときは長めで構いません。
- 登場人物の呼び分けは声色を大きく変えるより、間の取り方と話速を変えるほうが、長時間聴いても疲れません。
口の中の音を減らす
録音では、唇や舌が離れる「ピチッ」という粘性の音(リップノイズ)が目立ちます。喉と口が乾くほど増えるので、常温の水をこまめに飲み、乾燥した部屋では加湿します。乳製品や糖分の多い飲み物は粘りが強くなることがあるため、録音直前は避けたほうが無難です。
冒頭と末尾に名乗りを入れる
オーディオブックの世界では、冒頭に作品名・著者名・朗読者名を読み、末尾に同じ情報を繰り返して締めるのが標準的な作法です。ACXの提出要件にも明記されています。朗読CDでも、この一手間があるだけで作品としての体裁が整い、後日どのディスクが誰の何の録音か分からなくなる事故も防げます。
編集の合格ラインは数値で決める|ピーク−3dBFS未満、ノイズフロア−60dBFS未満
「なんとなく聴きやすい音量」で仕上げると、複数の作品を並べたときにバラつきます。基準を数値で持っておくと、判断が一瞬で終わります。
ここでも使えるのがACXの納品要件です。オーディオブックという、朗読とまったく同じ形式に対して定められた実測可能な基準なので、朗読CDにそのまま流用できます。
| 項目 | ACXが求める値 | 意味 |
|---|---|---|
| ピークレベル | −3dBFS未満 | いちばん大きい瞬間でも余裕を残す |
| 音量(RMS) | −23〜−18dBFS | 平均的な聴こえの大きさ |
| ノイズフロア | −60dBFS RMS未満 | 無音部分の静けさ |
| 前後の無音(ルームトーン) | 各1〜5秒、合計5秒以内 | 唐突に始まらない・切れない |
| ファイル形式 | 192kbps以上のCBR MP3/44.1kHz | 配信用の下限 |
| 1ファイルの長さ | 最大120分 | 取り回しの上限 |
Audacityでの作業順
無料で使える定番はAudacityです。作業の順番は次の通りで、これを崩すと後戻りが増えます。
- 不要部分のカット:言い直しのテイク、咳、長すぎる沈黙を削ります。カットは無音の真ん中で切ると継ぎ目が目立ちません。
- ノイズの低減:冒頭に録っておいた無音部分を範囲選択し、「エフェクト」→「ノイズの低減」でノイズプロファイルの取得を実行してから、全体に適用します。減衰量を上げすぎると声が金属的になり、水中のような不自然さが出ます。かけすぎたと感じたら戻して、控えめな設定で妥協するほうが結果は良くなります。
- クリックノイズの除去:リップノイズが残った箇所だけを選択して処理します。全体に一括で当てると、子音まで削られます。
- 音量の調整:「ノーマライズ」でピークを−3dBFSより下に揃えます。声の大小の差が激しい場合は、コンプレッサーを軽くかけてからノーマライズすると、RMSが目標域に収まりやすくなります。
保存形式は編集中と配布用で分ける
音声CDの規格(CD-DA)は44.1kHz・16bit・ステレオと決まっています。編集中のファイルもこの形式のWAVで保持しておくと、CDに焼く段階で余計な変換が入りません。MP3で編集して最後にWAVへ戻すと、圧縮で失われた分は復活しないので、この順番は守る価値があります。
ネット配信も並行するなら、完成したWAVから別途MP3を書き出します。CD用と配信用は、同じマスターから枝分かれさせるのが基本です。
最後は必ず通しで聴く
波形と数値が揃っていても、章と章のつなぎで音の質感が変わっていることがあります。別の日に録った章は、部屋の状態も声の調子も違うためです。書き出す前に、全トラックを頭から通しで聴いてください。ここで見つかる違和感は、たいてい章の境目に集中します。
原作の権利は著作者の没年で決まる|死後70年、翻訳は翻訳者で別に数える
朗読CDで最もつまずきやすいのが、ここです。しかも失敗すると録音のやり直しでは済みません。
原則は「著作者の死後70年」
日本の著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年です。もともとは死後50年でしたが、TPP11協定の発効に伴う改正が2018年12月30日に施行され、70年に延長されました。
ここで大事なのは、この延長が遡らないことです。文化庁の説明によれば、延長されたのは施行日の前日時点でまだ著作権が消滅していなかった著作物であり、すでに保護期間が切れていたものが復活することはありません。つまり、それ以前に自由に使えるようになっていた作品は、いまも自由に使えます。
翻訳作品は没年を二つ数える
海外文学を朗読したい場合、原著の著作権と翻訳の著作権は別物です。原著者が100年前に亡くなっていても、翻訳者が最近まで存命なら、その翻訳文には著作権が残っています。訳者名と訳者の没年を必ず確認するのが実務上の分岐点です。原著が自由に使えても、特定の訳文を読むことは別の話になります。
あなたの朗読そのものにも権利が生まれる
著作権法上、朗読は「実演」にあたります。実演を行った人は実演家として著作隣接権を持ち、その保護期間は実演が行われた日の属する年の翌年から起算して70年です。裏を返せば、他人が朗読した音源を自分のCDに収録する場合、その朗読者からも許諾が必要になります。合同企画で複数人の音源をまとめるときは、口約束ではなく、収録範囲と頒布方法を書面かメッセージの形で残しておくべきです。
BGMを入れるなら、無償配布でも手続きが要る
朗読の背後に音楽を敷きたくなりますが、ここが一番の落とし穴です。JASRACが管理する楽曲をCDに録音する場合、無償で配るCDであっても手続きと使用料が発生します。JASRACの案内では、無償配布のCDについて1曲あたり400円、または1枚あたり1曲8.1円といった計算方法が示されており、申込みは製造の発注前に行う必要があります。手続きを済ませると管理番号が発行され、それを盤面とジャケットに表示する運用です。
手続きを避けたいなら、選択肢は二つです。BGMを入れない(朗読作品では珍しくありません)か、使用条件が明示されたフリー素材やロイヤリティフリー音源を使うか。後者を選ぶ場合も、商用利用の可否とクレジット表記の要否を配布元の規約で確認し、規約のページを保存しておきます。
権利チェックの手順
| 確認する対象 | 見るところ | 切れていない場合 |
|---|---|---|
| 原作 | 著作者の没年 | 権利者または出版社の権利窓口に許諾を依頼 |
| 翻訳 | 訳者の没年 | 別の訳を探すか、自分で訳す(新たな翻訳権の問題が生じます) |
| 他人の朗読音源 | 実演から70年経過したか | 朗読者本人から許諾を得る |
| BGM | 管理団体・利用規約 | JASRAC等へ申込み、または使用しない |
現存作家の作品をどうしても読みたい場合は、出版社の著作権窓口に、頒布枚数・有償か無償か・配る範囲を明記して問い合わせます。数十枚の非営利頒布であれば、許諾が下りることもあります。断られる前提で聞かないのがコツです。
青空文庫は有償・無償を問わず使える|ただし図書カードの著作権欄を必ず読む
権利の確認を丸ごと省ける、最も現実的な選択肢が青空文庫です。
青空文庫は「青空文庫収録ファイルの朗読配信について」というページで、著作権保護期間が満了した作品について事前の許諾なく、有償・無償を問わず利用できると明示しています。朗読して配ることも、その朗読を販売することも、この範囲に含まれます。
ただし全作品が同じ条件ではない
青空文庫に収録されているのは、保護期間が満了した作品だけではありません。著作権者が公開に同意した作品も含まれており、その中にはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが付されたものがあります。CC付き作品は、そのライセンスの条件(表示の義務、改変の可否、営利利用の可否)に従う必要があります。
判別方法は簡単で、各作品の「図書カード」ページを開き、著作権の表示欄を見ます。ここに「著作権存続」やライセンスの記載があれば、条件を読んでから使います。作業を始める前の30秒で済む確認です。
「青空文庫」という名前の扱い
同ページでは、出所表示として「青空文庫」の名称を自由に使ってよいとされています。ただし、その表示は青空文庫の関与や認知・許可を示すものではない、とも明記されています。「青空文庫公認」「青空文庫提供」といった書き方は、事実に反するので避けてください。ジャケットに書くなら、出典として淡々と記す形が適切です。
ジャケットに載せる出典表記の作り方
図書カードには「底本」の情報が載っています。どの出版社の何年の版を入力したものか、という記録です。これをそのまま引き写すと、出典表記として過不足がありません。
- 作品名/著者名
- 出典:青空文庫(入力・校正者名を添えると、作業者への敬意になります)
- 底本:図書カードの底本欄をそのまま転記
読み上げ台本に整形してから録る
青空文庫のテキストファイルは、ルビが《》、注記が[#…]という独自の記法で書かれています。画面で読みながら録ると、この記号に目が引っかかって読みがつっかえます。録音前に、テキストエディタで次の処理をしておくと格段に読みやすくなります。
- ルビ記法を、実際に読む音に置き換えるか、読み仮名として括弧書きに直す
- [#…]の入力者注記を削除する(挿絵の位置指定などは朗読に不要です)
- 1行の長さを自分が読みやすい幅に整え、行間を広げる
- 間を置きたい箇所に、自分だけに分かる記号(/や◆)を入れておく
この整形済み台本は、字数カウントにも使えます。次の章で扱う収録時間の計算に、そのまま繋がります。
トラック分けと収録時間の目安|最大99トラック・約74〜80分、1分あたり300字
音声CD(CD-DA)は1980年代に決まった規格なので、上限がはっきりしています。作る前に知っておくと、構成の作り直しを避けられます。
- サンプリング周波数44.1kHz、量子化16bit、ステレオ2チャンネル
- 1枚に収められるトラックは最大99
- 収録時間は、650MBのディスクで約74分、700MBのディスクで約80分
字数から収録時間を逆算する
朗読・ナレーションの読み速度は、1分あたり300字前後が一つの目安です。落ち着いた朗読なら250字前後まで落ちます。原稿の字数をこの数字で割れば、必要な枚数が事前に分かります。
| 原稿の字数 | 300字/分で読んだ場合 | 250字/分で読んだ場合 |
|---|---|---|
| 3,000字(短編1本) | 約10分 | 約12分 |
| 10,000字 | 約33分 | 約40分 |
| 20,000字 | 約67分 | 約80分 |
| 22,000字 | 約73分(CD1枚の上限付近) | 約88分(1枚に収まらない) |
目安として、ゆっくり読むなら原稿18,000字あたりでCD1枚が埋まると考えておくと安全です。実際の朗読では間を置くぶん、計算より長くなります。中編以上を扱うなら、最初から2枚組を前提に章を割り振ったほうが、後で慌てずに済みます。
トラックの切り方
99という上限に届くことはまずないので、細かく切って困ることはありません。むしろ、聴く人が続きから再生できるかどうかで使い勝手が決まります。
- 1トラック5〜10分を目安にする。長編の1章が20分あるなら、場面転換で分割します。
- 章の途中で切る場合は、必ず無音のあるところで切る。文の途中で分かれると、頭出ししたときに文の途中から始まります。
- トラック1に作品名・著者名・朗読者名の名乗りを入れ、最終トラックに出典と底本、制作年を読み上げる。これで音だけを渡された人にも情報が伝わります。
実際に焼く
WindowsならWindows Media Player Legacy(スタート→すべてのアプリ→Windowsツール)で、書き込みタブにファイルを並べて実行します。Macなら「ミュージック」にプレイリストを作り、ファイル→「プレイリストからディスクを作成」でディスクフォーマットを「オーディオCD」にします。どちらの手順でも、曲間のギャップを0秒に設定できます。朗読では間を自分で設計しているので、ソフトが自動で入れる2秒の空白が邪魔になることがあります。各トラックの前後に自分で無音を持たせておき、ギャップは0にするのが扱いやすい組み合わせです。
ディスクの選び方
CD-Rには「音楽用」と「データ用」があり、音楽用は販売価格に私的録音補償金が含まれるぶん割高で、オーディオ機器の録音専用レコーダーが識別するための信号が入っています。パソコンで焼くなら、データ用CD-Rで問題ありません。書き込まれる内容は同じです。音楽用が必要になるのは、パソコンを使わずオーディオ機器単体で録音する場合です。
書き込み方式は、可能ならディスクアットワンスを選びます。リードイン・データ・リードアウトを一度に書き込む方式で、市販のCDと同じ記録形式になるため、再生機器との相性の問題が起きにくくなります。プレス業者にマスターを渡す場合も、この方式が求められます。
焼き上がったら、パソコン以外の再生機で必ず確認してください。1枚目は必ずテスト用と割り切り、通しで聴いてから残りを焼きます。
ジャケットと盤面で作品の顔を作る|表120mm角、裏インレイ150×117.5mm
音が仕上がっても、無地のディスクをそのまま渡すと「録音データ」で終わります。盤面とジャケットが付いた瞬間に「作品」になります。ここは費用対効果がとても高い工程です。
標準ジュエルケースの寸法
| 部位 | 仕上がりサイズ | 注意点 |
|---|---|---|
| 表ジャケット | 120×120mm(実測で121×119mm前後) | 四方に3mmの塗り足しを付ける |
| 裏インレイ(バックインレイ) | 150×117.5mm | 左右両端から6mmの位置で折れて背表紙になる |
| 背表紙部分 | 幅6mm×高さ117.5mm(左右各1面) | 作品名・朗読者名を縦組みで |
設計上の要点は二つです。ひとつは塗り足しで、背景色や写真を仕上がり線ぴったりで作ると、裁断のわずかなズレで白い縁が出ます。四方に3mm大きく作っておきます。もうひとつは文字の逃げで、タイトルや本文は仕上がり線から5mm以上内側に収めます。とくに背表紙の6mm幅は、文字が端に寄るとケースに隠れて読めなくなります。
載せる情報を決める
朗読CDの裏面には、次の情報を入れておくと後から役立ちます。棚に並んだ何年も後に、自分が見て分かるかどうかが基準です。
- トラックリスト(章題と各トラックの長さ)
- 総収録時間
- 著者名・作品名、翻訳がある場合は訳者名
- 出典と底本(青空文庫を使った場合)
- 朗読者名、録音・制作年月
- 連絡先(頒布する範囲に応じて、メールアドレスやサイトURL)
盤面は「印刷できない領域」に注意する
ディスクの中心穴の周囲には印刷できない範囲があり、外周ぎりぎりまで刷れるかどうかも仕様によります。デザインを作る前に、印刷を依頼する先の入稿テンプレートを取り寄せて、その上で作るのが確実です。手元のプリンタで刷る場合は、インクジェット対応(プリンタブル)と明記されたディスクを選びます。手書きするなら油性のCD用マーカーを使い、シールラベルは避けます。回転時のバランスが崩れる、経年で剥がれるといった問題が知られています。
枚数が少ないときの選択肢
数枚から十数枚なら、家庭用プリンタでの盤面印刷と、厚紙に印刷して裁断するジャケットで充分に成立します。それ以上、あるいは仕上がりを揃えたい場合は、制作を外に出す判断になります。
ディスクメーカーはDVDとBlu-rayの制作代行で、1枚1,500円から、1枚単位で注文できます。盤面へのレーベル印刷、ケースと背表紙の印刷に対応しており、再生できる形式に組み立てるオーサリングは料金に含まれています。朗読を音声CDではなく、写真や字幕を添えた映像作品としてDVDにまとめたい場合や、章ごとのメニュー画面とチャプター分けを付けたい場合は、この経路が使えます。入稿はギガファイル便やGoogle Drive、Dropboxなど、ダウンロードできる共有URLを渡す形です。日々多くのご注文をお受けしており、大阪市北区太融寺町に店舗があります。急ぐ場合は、15時までの注文・入稿で翌日発送となる特急(+3,000円)、平日12時までの注文・入稿で当日に店舗でお渡しする方法(+3,500円)もあります。
頒布の形と価格の決め方|委託手数料3割を先に織り込む
作ったあとの出口を決めておかないと、在庫を抱えて終わります。経路は大きく三つです。
三つの経路と、それぞれの費用
- 手渡し・イベント頒布:朗読会の当日、教室、施設のイベント。手数料はかかりませんが、参加費や出展料が先に出ます。反応が直接見えるのが最大の利点です。
- 通販委託:同人ショップなどに預けて売ってもらう形。委託手数料の相場は30〜35%とされています。1,000円で売れても手元には650〜700円です。
- 自家通販:自分で受注して発送する形。手数料はかかりませんが、梱包と発送の手間と、通信販売としての表示義務がついてきます。
原価を先に積む
1枚あたりの原価は、次のように積み上げます。
| 項目 | 考え方 |
|---|---|
| ディスク | CD-R本体、または制作代行の1枚あたり単価 |
| 盤面印刷 | 自宅プリンタならインク代、外注なら見積額 |
| ケース・ジャケット印刷 | 用紙、インク、または印刷費 |
| 梱包材 | プチプチ、封筒、宛名ラベル |
| 送料 | 自家通販・委託への納品で発生 |
| 手数料 | 委託なら販売価格の30〜35% |
送料の目安として、クリックポストは全国一律185円(税込)です。ただし2026年10月1日から240円(税込)に改定され、同時にサイズ規定も3辺合計60cm以内・長辺34cm以内・重量2kg以内へと変わります。現行の厚さ3cm以内という制限は撤廃される予定なので、ケース入りCDを送る条件は緩くなります。時期をまたぐ場合は、送料の前提が変わることを見込んで値付けしてください。
価格は「委託に出す前提」で決める
実務上のコツは、最初にイベント価格を決めてから、そこに委託手数料を上乗せするのではなく、委託に出しても赤字にならない価格を先に決めることです。手数料3割を引いた額が原価を上回っているか。この一点を通しておけば、後から販路を増やしても値段を付け直さずに済みます。同じ作品にイベント価格と通販価格の二重価格を設けると、買った人が損をした気分になるので、揃えておくほうが無難です。
無償配布にも判断が要る
「お金を取らなければ権利の問題は起きない」というのは誤解です。前述の通り、JASRAC管理曲を入れたCDは無償配布でも使用料が発生します。無償にすることで軽くなるのは、通信販売としての表示義務や、売上の計上まわりであって、著作権の処理ではありません。
自家通販をするなら住所の扱いを決めておく
個人が通信販売をする場合、事業者の氏名・住所・連絡先の表示が求められます。自宅住所を公開したくない場合、委託販売を使う、あるいは請求があったときに遅滞なく開示すると明記する方法が取られます。ここは自分の状況に応じて、事前に方針を決めておく部分です。
最初は少なく作る
初めての朗読CDで数十枚を刷ると、たいてい余ります。1枚から作れる制作方法を選び、まず身近な人に配って反応を聞き、内容と仕上がりを直してから枚数を増やす。この順番なら、修正が効きます。朗読は録り直しがきく表現なので、最初の1枚を完成品にする必要はありません。
よくある質問
Q. 朗読CDを作るのに、最低限どんな機材が必要ですか
A. パソコンと録音できるマイク、そしてCDを焼けるドライブがあれば始められます。スマートフォンやICレコーダーで録って、パソコンに取り込む方法でも作れます。編集は無料のAudacityで足ります。ただし機材にお金をかける前に、録音する部屋の反響と生活音を確認してください。同じマイクでも、毛布で囲うかどうかで結果が大きく変わります。最近のパソコンには光学ドライブがないことが多いので、外付けのCDドライブが必要になる点だけ、先に確認しておくとよいでしょう。
Q. 青空文庫の作品を朗読して、CDにして販売してもいいですか
A. 青空文庫は「青空文庫収録ファイルの朗読配信について」というページで、著作権の保護期間が満了した作品については事前の許諾なく、有償・無償を問わず利用できると明示しています。したがって販売も可能です。ただし青空文庫には、著作権者が公開に同意した作品やクリエイティブ・コモンズ・ライセンス付きの作品も含まれています。作品ごとの図書カードで著作権の表示欄を確認し、ライセンスが付いている場合はその条件に従ってください。なお「青空文庫」の名称は出所表示として使えますが、青空文庫の許可や公認を示す書き方は避ける必要があります。
Q. CD1枚に何分の朗読が入りますか
A. 音声CDの規格上、収録時間は650MBのディスクで約74分、700MBのディスクで約80分です。トラック数は最大99まで入ります。朗読の読み速度は1分あたり300字前後が目安で、落ち着いた読みなら250字前後になります。この数字で計算すると、300字ペースなら約2万字、250字ペースなら約1万8千字でCD1枚が埋まる計算です。実際には章の切れ目で間を置くぶん、計算より少し長くなります。中編以上を朗読する場合は、最初から2枚組を前提に章を割り振っておくと安心です。
Q. データ用CD-Rに焼いた朗読はCDプレーヤーで再生できますか
A. パソコンでオーディオCD形式として書き込んだのであれば、データ用CD-Rでも問題ありません。音楽用CD-Rとの違いは、販売価格に私的録音補償金が含まれているかどうかと、オーディオ機器の録音専用レコーダーが識別するための信号が入っているかどうかで、ディスクに書き込まれる内容そのものは同じです。音楽用が必要になるのは、パソコンを使わずオーディオ機器単体で録音する場合です。ただし再生機器との相性はディスクの品質や機器の年式によって変わるため、配る前に必ずパソコン以外の再生機で1枚テストしてください。
Q. 編集はどこまでやれば「完成」といえますか
A. 数値で判定するのが確実です。Audibleのオーディオブック制作窓口ACXが公開する納品要件では、ピークレベルが−3dBFS未満、音量が−23〜−18dBFS RMS、ノイズフロアが−60dBFS RMS未満、ファイルの前後にそれぞれ1〜5秒の無音を置くことが求められています。朗読という同じ形式に対する基準なので、CD制作にもそのまま流用できます。この数値を満たしたうえで、全トラックを頭から通しで聴いてください。章ごとに別の日に録っていると、境目で音の質感が変わっていることがあり、これは数値には表れません。
Q. 朗読にBGMを付けたいのですが、手続きは必要ですか
A. JASRACが管理する楽曲を録音してCDにする場合、無償で配るCDであっても手続きと使用料が発生します。JASRACの案内では、無償配布のCDについて1曲あたり400円、または1枚あたり1曲8.1円といった計算方法が示されており、申込みは製造の発注前に行う必要があります。手続き後に管理番号が発行され、盤面とジャケットへの表示を求められます。手続きを避けたい場合は、BGMを入れないか、使用条件が明示されたロイヤリティフリー音源を使う方法があります。後者を選ぶときは、商用利用の可否とクレジット表記の要否を配布元の規約で確認し、規約ページを保存しておいてください。
Q. 翻訳された海外文学を朗読する場合、何を確認すればいいですか
A. 原著の著作権と翻訳の著作権は別に扱われるため、原著者の没年と翻訳者の没年の両方を確認する必要があります。日本の保護期間は原則として著作者の死後70年で、2018年12月30日施行の改正で50年から延長されました。この延長は遡らないため、施行日の前日時点ですでに切れていた作品は、いまも自由に使えます。原著者が100年以上前に亡くなっていても、翻訳者が最近まで存命であれば、その訳文には著作権が残っています。使いたい訳の権利が残っている場合は、別の訳を探すか、権利者に許諾を求めることになります。
Q. 作った朗読CDの頒布価格はどう決めればいいですか
A. 原価を積み上げてから、通販委託に出す前提で決めるのが安全です。委託手数料の相場は30〜35%とされており、1,000円で売れても手元に残るのは650〜700円です。原価にはディスク本体、盤面印刷、ジャケット印刷、梱包材、送料を含めます。送料の目安としてクリックポストは全国一律185円(税込)ですが、2026年10月1日から240円(税込)に改定され、サイズ規定も3辺合計60cm以内・長辺34cm以内・重量2kg以内へ変わります。手数料を引いた額が原価を上回る価格を先に決めておけば、あとから販路を増やしても値段を付け直さずに済みます。

